&M

原田泰造×コトブキツカサの「深掘り映画トーク」
連載をフォローする

『ムーンライト』のスタジオA24が放つ、ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”『WAVES』

ネプチューンの原田泰造さんと、映画パーソナリティーのコトブキツカサさん。映画好きなオトナのお二人が、新作や印象に残る名作について自由に語る対談企画。今回は超豪華アーティストによる31曲が全編を彩る『WAVES』について語っていただきました。

監督・脚本 トレイ・エドワード・シュルツ

出演 ケルヴィン・ハリソン・ジュニア、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ

【編集部より】ストーリーに触れている部分があります。映画は7月1o日公開予定です。これから作品を観賞される方はご注意ください。

◇◆◇

コトブキ 『WAVES』というタイトルもそうですけど、まずメインビジュアルがオシャレじゃないですか。だから、観(み)る前はなんとなくキラキラしたラブストーリーなのかなって思ったんですよね。キャッチコピーが「ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”」となっていて、最新の音楽が全面にフィーチャーされているということなので、観る前には少し身構えたというか、音楽がガンガン出てくるような、MTV(ミュージックテレビジョン)的な構成なのかなって。

原田 俺も最初は音楽系の映画だと思ってたんだよね。映画がはじまると、主人公のタイラーがレスリングの練習をするシーンとか楽しそうな日常がモンタージュ風に描かれるんだけど、それがすごく音楽とマッチしていたし。

コトブキ シーンと曲の歌詞がリンクしてるんですよね。タイラーがパーティーに向かうときにノリノリになって、世界は自分のモノみたいな気分になってるところにカニエ・ウェストの『I Am A God」が流れるんですよ。歌詞も「俺は神!」みたいな感じなので、ピッタリというか。それにカニエ・ウェストが自分の楽曲を提供するのは珍しいので、そういう意味でもサプライズでしたし、この監督は信用されてるんだなって思いましたね。

『ムーンライト』のスタジオA24が放つ、ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”『WAVES』

『WAVES/ウェイブス』TOHOシネマズ 日比谷ほか近日公開 配給:ファントム・フィルム ©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

原田 作品で使われてる楽曲って、いまアメリカで流行(はや)っているようなものばかりなのかな? 

コトブキ アーティストは第一線の人ばかりなんですけど、選曲が渋いチョイスなんですよ。ファンからみても「この曲を選ぶんだ」というような。

原田 通なところを突いてるんだね。たしかに、歌詞とシーンやセリフがハマってるんだなっていうのは伝わってくる。ただ、音楽と映像の繋(つな)がりを意識していたのは最初だけで、ドラマが進んでいくと良い意味で気にしなくなった。それよりも映画自体のストーリーが深刻だし、観てると心が痛くなってくるような展開になるんだよ。

コトブキ タイラーは、最初は青春真っ盛りの、リア充みたいな感じで登場するんですよね。レスリングのスター選手で、可愛い彼女がいて。ただ、お父さんが教育熱心で、そのプレッシャーがキツいっていうのがあって。

原田 でも、お父さんの気持ちもわかるんだよね。息子を厳しく育てたいし、自分自身も模範とならなきゃいけないっていう意識も高くて。

コトブキ コントロールしたがるんですよね。ただ、タイラーの祖父が牧師だったという話が出てくるじゃないですか。だから、このお父さんも抑圧されて、厳しく育ったのかなというのが想像できる。

原田 あのお父さんを演じたスターリング・K・ブラウンという役者さんもうまいんだよね。いかにも「抑圧してます」という演技ではなく、威厳を保ちながらも不安も見え隠れするような感じで。見ていてやたらとリアルな父親なんだよね。

コトブキ これが単に暴力的な父親ならよくあるパターンじゃないですか。でも、タイラーの家は比較的リッチな雰囲気だし、お父さんも良い父親であろうと頑張ってる。だからこそ、それぞれのプレッシャーの逃げ場がなくなっていくというか。

『ムーンライト』のスタジオA24が放つ、ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”『WAVES』

©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

原田 そうそう。だけど、それがタイラーをさらに抑圧して、追い込むことになるんだよ……。俺も子供がいるしさ、もうこのお父さんの目線でしか見られなくなってくるんだよね。

コトブキ タイラーの行動も、自分の若い頃を思い出してザワっとしますよね。タイラーの彼女が妊娠して、堕胎する、しないでモメるところとか、切なかったな。お互いに何が正解かわからなくて、車を降りる降りないでケンカして。

原田 あのケンカがリアルなんだよね。演技も生々しいけど、脚本というかセリフが巧妙だし、演出もうまい。彼女が車をとめて降りるタイミングとか、タイラーが激高して唾(つば)を吐きかけるとか、見ててイヤな気持ちになる。監督が実際に経験したことを再現してるんじゃないかって思うくらい迫真性があるんだよ。

『ムーンライト』のスタジオA24が放つ、ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”『WAVES』

コトブキ このあたりから物語は苦い展開になっていくんですよね。タイラーは肩をケガしてレスリングを続けられなくなって、それを家族に打ち明けられなくて、がんじがらめに追い込まれていく。彼女の妊娠の件も、誰にも相談できない。

原田 やっぱり牧師の家系だし、宗教的にも堕胎することは打ち明けられなかったんだと思う。

コトブキ それで彼女と別れ話がこじれてしまって、焦ったタイラーがパーティーに乗り込んで悲劇が起こってしまうんですよ。

原田 そもそもなんだけど、アメリカの若者たちって、なんでこんなにパーティーばっかりやってるんだよって感じがするよね。親が留守になると、子供たちが家に友達呼んで大騒ぎする。俺が親なら激怒するよ。だって、あいつら絶対飲み食いしたものとか片付けないでしょ(笑)。

コトブキ リビングだけならまだしも、ベッドルームとかも使いますよね(笑)。映画で描かれがちなだけかもしれないですけど、確かにアメリカの若者は週末になったらああいうパーティーをするイメージですよ。

原田 若者のパーティーシーンっていうだけで、ちょっとイラッとしてるところに、この映画は最悪の展開になるから、余計に心が乱れたよ。

コトブキ あの展開はドキッとしますよね。でも、そのあとのタイラーの逃げ方が浅はかで、まだ子供なんだなっていうのが伝わってくる。それに、タイラーの妹のエミリーも、そのパーティーの現場にいたっていうのが後々効いてくるんですよね。

『ムーンライト』のスタジオA24が放つ、ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”『WAVES』

原田 構成はかなり練られてるよね。テーマはオーソドックスなものかもしれないけど、演出は丁寧だから、じんわりと伝わってくる。

コトブキ この作品の監督のトレイ・エドワード・シュルツは、テレンス・マリック監督のもとで修業していたみたいですね。それもあって映画的余韻を重視してるように感じますし、行間を読ませるようなセリフが秀逸ですね。

原田 それでいて、新しい世代の人の感覚もある。カメラワークも大胆で、独特だし。

コトブキ 冒頭で、車の中をグルーッとノーカットで見回すシーンがあるじゃないですか。あれは若い監督にありがちな、撮影テクニックを見せつけるようなものなのかと思ったら、後半でも妹が彼氏と病院に行くところでもカメラが車内をグルーッとまわる。シンメトリー的な動きで物語を対比させるという演出なんですよね。

原田 後半からは、妹のエミリーの話になっていくんだけど、物語がどう進むかわからなくなって、どんどん引き込まれたね。

コトブキ 前半のエミリーはセリフもほとんどなくて、完全にサブキャラだと思ってたから、驚きましたよ。タイラーの事件があって、気持ちの行き場がなくなってしまった家族の姿がエミリーの視点から描かれていく。

原田 エミリーの恋の話が主軸になるんだよね。そのエミリーと彼氏との出会いのシーンが、教室を出るときにぶつかるみたいなパターンで、いまどきベタ過ぎるなって思ったんだけど、あとから考えると、あれは彼氏がワザとやったのかもしれないよね。まぁ、あれがワザとだとしたら、相当強めなぶつかり方だったけど(笑)。

コトブキ あの彼はレスリング部ですからね(笑)。エミリーの彼氏のルーク役は、ルーカス・ヘッジズが演じているんですけど、彼は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたくらいの演技派ですから、この映画の作風に合ってましたよね。

『ムーンライト』のスタジオA24が放つ、ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”『WAVES』

©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

原田 このルークのお父さんが危篤ということで、エミリーとふたりで会いに行くんだけど、その過程でエミリーは自分の家族のことも考え直していくんだよね。タイラーのことを許せないけど、自分にも責任があったとそれぞれが思ってる。お母さんは、自分が継母ということに気後れして、父親とタイラーの関係に入れなかったことを後悔してるんだよね。

コトブキ お父さんがエミリーとふたりで釣りをしながら、ぎこちないながらも心情を吐露するシーンがあるじゃないですか。お父さんも自分を責めているし、その思いを誰にも言えなくて時が止まってしまってる。

原田 夫婦の関係も壊れてしまったんだけど、誰もいなくなったタイラーの部屋で、お互い無言で寄り添うシーンがあるじゃない? あれは泣いたね。親の目線でみたら、子供のしたことに後悔もあるし、失望もあるけど、それでも見捨てられないからね。

コトブキ やっぱりお父さん目線の話になっちゃいますね。この作品は青春ドラマだけど、親子関係を丁寧に描いているから、僕ら世代も身につまされるんでしょうね。

原田 若者の挫折を描きながら、家族の再生もテーマになってる。だからこそ、どの世代にも響くんじゃないかな。観る前はこんな映画とは思わなかったけど、観てよかったなって思わせる作品だったね。

『ムーンライト』のスタジオA24が放つ、ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”『WAVES』

(文・大谷弦 写真・林紗記)

あわせて読みたい

原田泰造×コトブキツカサの「深掘り映画トーク」:連載一覧はこちら

[ &M公式SNSアカウント ]

TwitterInstagramFacebook

「&M(アンド・エム)」はオトナの好奇心を満たすwebマガジン。編集部がカッコいいと思う人のインタビューやモノにまつわるストーリーをお届けしています。

REACTION

LIKE
COMMENT
0
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら