鎌倉から、ものがたり。
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“お庭番”のいる景色自慢の生活道具店「北鎌倉 morozumi」

北鎌倉駅から、うねうねとした道が通る山側の住宅街を歩く。邸宅が並ぶ一画に、見過ごしてしまいそうな石段があり、「ここでいいのかな?」とのぼっていくと、途中に店のありかを記す看板が。ここでよかったのだ!

「北鎌倉morozumi」は、山の中腹にある木造一軒家を舞台にした、衣服と生活道具の店。玄関で靴を脱ぎ、室内に上がらせてもらうと、まばゆいばかりの新緑が目に飛び込んできた。

手前にある板張りのリビングルームの先に、天空に続くかのような庭があり、そこから陽光が室内に、さんさんと降り注いでいる。廊下伝いに奥の部屋に進むと、今度はしっとりとした畳敷きの空間。穏やかな影が、光から逃れた別世界をつくる。そのコントラストは、日本の古い家が持つ豊かさそのものだ。

店は、鎌倉の腰越に暮らす両角香織さん(36)と、夫の啓(ひろし)さん(36)夫妻が、2018年12月に開いた。

店では、妻の香織さんが商品選びと接客という「前面」を担当。夫の啓さんはみずからを「お庭番」と称し、庭や建物の手入れなど裏方を担う。役割を分担しながら、全体のコンセプトや空間、ディスプレーについては、常に相談しながら、楽しく取り組んでいる。結婚9年目。ともに横浜市の出身で、同じ高校の同級生。仲がよいのである。

店を持つことは、香織さんが長年、胸にあたためてきた夢だった。

「妻は猛進するタイプで、僕はそれを引き留める慎重派。その意味で、バランスが取れているかもしれません」

そう笑う啓さんは、おととしまで自動車関連の会社に勤める会社員だった――と聞けば、夢に突き進む妻を引き留めたのかとも思うが、そのとき、啓さんが発した言葉は、「僕も会社、やめようかな」。香織さんからは即座に「いいね!」と、返事があったという。

香織さんの夢の出発点は、由比ガ浜に店舗がある皮革カバンメーカーに勤めていた日々にある。

「ランドセルづくりからスタートしたメーカーで、職人さんたちが熟練の手仕事をされていました。私はアルバイトの店舗スタッフから入り、後に社員となって、人材育成や新規出店などの店舗運営を担当していました。中でも特に接客が好きで、そこでいろいろなことを学びました」

その7年の日々に、鎌倉ならではの洒脱(しゃだつ)な人々との出会いがあった。まずは香織さんの上司。「お客さまは、おなかがすいてカバンを買うわけではない。この店に来ていただくためには、日々の種まきが大切なんだよ」という彼の言葉は、今も胸に刻まれている。常連の中には、カブでさっそうと乗り付けて、「ご機嫌かい?」というあいさつとともに姿を現す高齢の紳士もいた。

「鎌倉には、なんてカッコいい人がいるんだろう。上司がかけてくれた言葉を、お客さまを通して実感しながら、私もこういう方々に、大切なものを伝えていきたいと、そこから思いがふくらんでいったんですね」

鎌倉は、啓さんの祖父母が暮らすまちでもあった。かねて、ふたりは鎌倉のさまざまな場所を歩いていたが、店の計画を本格化させてからは、気になる家があれば、そのエリアの不動産屋さんに飛び込むことを繰り返した。

しかし、鎌倉はそんな簡単に物件が出ない土地でもある。半分あきらめかけていたある日、ネットでこの家の情報を見つけた。最後のチャンスという思いで、不動産屋と内覧の約束を取り、待ち合わせ場所に向かった。その担当者が持っていたカバンが、香織さんの目をとらえた。それは、かつて彼女が勤めたメーカーの品で、しかも10年以上前のモデルだったのだ。

「ああ、大切に使ってくださっているんだ、と、この時点で胸がいっぱいになって。今回こそはうまく行く、とピンと来ちゃいました(笑)」

春風の吹く季節に、香織さん、啓さん、不動産屋さんの3人は、石段をのぼってこの家の庭先に立った。景色のあまりの美しさに、みな、ただぼーっとしていたという。香織さんの予感通り、全員が「ここで決まりだな」と、無言のうちに通じ合っていた。

→後編に続きます

morozumi
神奈川県鎌倉市山ノ内917
電話番号:090-7230-1021
※新型コロナウイルスの影響により、当面の間、来店には電話またはメールでの予約が必要となります。
詳しくはこちらのページをご覧ください。

>>フォトギャラリーはこちら ※写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます。

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