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On the New York City! ~現代美術家の目線で楽しむニューヨーク~
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ウォーホル美術館から手作りのきてれつな博物館まで ピッツバーグの不思議なアート事情

現代美術家・伊藤知宏さんがアーティスト目線でニューヨーク(以下、NY)の街をリポートする連載「On the New York City! 」。今回は番外編として伊藤さんがこれまで何度も訪れているという思い入れの深い街「ピッツバーグ」のアート事情をお届けします。

アメリカの北東部の地方都市ピッツバーグ

僕は14年ほど前に初めてピッツバーグを訪れ、それ以来地元のアーティストらと親交がある。現在は新型コロナウイルスの影響で、美術館などの文化施設はほとんど閉館状態だが、一日も早い収束を願いながらこのリポートを書いた。楽しんでいただければ幸いだ。

ウォーホル美術館から手作りのきてれつな博物館まで ピッツバーグの不思議なアート事情

地図のNはニューヨーク・シティー、Pはピッツバーグ。僕の住むニューヨークのブッシュウィック地区からピッツバーグに行くには、一度マンハッタンのペン・ステーションまで地下鉄で向かい、そこから高速バスに乗って7時間ほど移動する

深夜、アメリカ大陸を移動するたくさんのバスがひしめくマンハッタンのペン・ステーションから、ピッツバーグへ向かう長距離バスへ乗り込む。

100年以上前からこの大陸を旅する移動手段の代名詞として利用されてきた長距離バスは、飛行機やアムトラック(全米鉄道旅客公社)に比べて比較的安く、低所得者が利用する乗り物としてイメージが付いている。

以前は座席幅が狭いバスが多く、体の大きい僕は苦しい思いをして乗っていた。だが、ここ数年はゆったりした大きめでラグジュアリーなシートを提供するバスも増えてきていて、とても楽に移動ができるようになったことに時代の変化を感じる。

ウォーホル美術館から手作りのきてれつな博物館まで ピッツバーグの不思議なアート事情

僕が今回乗ったグレイハウンド社のバス

1910年代に創業したグレイハウンド社のバスはアメリカ大陸の移動手段として定番で、この国では長距離バスのことを通称して「グレイハウンド」と呼ぶ。よくも悪くも歴史を感じさせる乗り物だ。NYからピッツバーグへ向かう手段としては、他に飛行機や電車がある。

 
 
 
 
 
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110719 I am on my way to Pittsburgh. #grayhound #midnightbus #usa #experimental

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ピッツバーグに向かう途中のバスの中からの風景。雨が降り曇り模様

目が覚めるとピッツバーグに!

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高速道路からピッツバーグの街を見た風景

様々な肌の色や文化背景を持つ人たちを乗せて走るバスに乗って7時間。ピッツバーグに到着すると空は晴れていた。

ピッツバーグは、アメリカ合衆国ペンシルベニア州南西部に位置する都市で、四つの巨大な川が合わさっている地点から中心に広がっている。コンピューターサイエンスの分野などで世界に名をはせるカーネギーメロン大学や、トマトケチャップで有名なハインツの創業の地としても知られる。

現在は新型コロナウイルスの影響で、繁華街やビジネス街などを出歩く人は少ない。アメリカ人は日本人と違い、マスクをする習慣が全くない。不審者に見られるのがその理由だが、さすがにこの状況ではマスク姿の人も目立つようになった。

ウォーホル美術館から手作りのきてれつな博物館まで ピッツバーグの不思議なアート事情

バスを降りてすぐにある普段は人気のあるおしゃれな繁華街。今は人もまばらだ/Photo by Karen Hecht

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繁華街近くの花屋さん。店員も通行人もマスクをしている/Photo by Karen Hecht

アーティストによるセルフビルドの館

僕の友人で心の師でもある、彫刻家で教師のアンジェロ・シオッティさんはピッツバーグ出身のアーティストだ。初めて会ったのは15年ほど前のこと。僕が滞在し作品制作をしていたアメリカ北東部のバーモント州の文化施設「バーモント・スタジオ・センター」に彼もいた。

それから現在まで、いつの間にか家族ぐるみの付き合いになり、ピッツバーグを訪れるたびに最新の面白い場所を紹介してくれる。また、僕はピッツバーグでは彼らの家を拠点に活動している。

 
 
 
 
 
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220819 Pittsburgh day3 Angelo Ciottie(Sculpture)’s self build house. I was very happy to came back here. #thankyoukaren #thankyouseth #thnakyouangelo #thankyoucowboy #selfbuild #usa

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まるで1960年代の前衛映画の装置のようなこの建物はアンジェロさん自作の館

アンジェロさんの館は、彼が妻のために制作した作品だ。ピッツバーグ特有の鉄分を多く含んだ石をイメージし、館に隣接する木々や小川などの自然と共存することがコンセプトになっている。

最近は、家の周りに植えた木々が大きくなりすぎて、家を少しずつ破壊し始めているそうなのだが、アンジェロさんはそれでも自然に手を加えようとはしない。木が大きくなり家を壊しても、それはそれでいいじゃないか――。そうやって自然に逆らわずに家を保つのが、彼のこの館(作品)に対する考えなのだそうだ。

地元の芸術関係の非営利団体は、この建物を見るためのアートツアーを組んでいる。僕が見ても圧倒される魅力的な建物だ。

地元の現代アーティストも太鼓判を押す美術館の数々

ピッツバーグ出身で最も有名なアーティストに、現代美術家のアンディ・ウォーホルがいる。彼は、カーネギー工科大学(現在のカーネギーメロン大学)で広告芸術を学び、卒業後はイラストレーターとして成功。その後、NYでアーティストとしてデビューして以降、アメリカの代表的な芸術運動、ポップ・アートの代表的なアーティストとして世界的に活躍した。1987年没。

ウォーホル美術館から手作りのきてれつな博物館まで ピッツバーグの不思議なアート事情

アンディ・ウォーホルの自画像
Andy Warhol, Self-Portrait, 1964, The Andy Warhol Museum, © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc.

アンディの美術館「アンディ・ウォーホル・ミュージアム(The Andy Warhol Museum)」はピッツバーグの街のほぼ中心に存在する。この美術館は7階建てで、2階のギャラリーでは企画展、3~7階では他の美術館ではなかなか見ることのできないアンディの絵画や版画、映像作品、コンピューターで作られた作品群から、彼がプライベートで集めていた食器やおもちゃまで、様々なものが常設で展示されている。

僕は世界各国でアンディの充実した作品展を数々見てきたが、それらと比べてもピッツバーグの美術館の展示内容は非常に見応えがある。一般的な展示であれば通常1~2時間で全てを見終えるが、ここでは3時間近くかけて見入ってしまった。

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アンディ・ウォーホル・ミュージアムの入り口
The Andy Warhol Museum, Pittsburgh, entrance, photo © Abby Warhola

ウォーホル美術館から手作りのきてれつな博物館まで ピッツバーグの不思議なアート事情

美術館の常設展の風景。左が4階の展示室で右が7階の展示室の写真
写真左)The Andy Warhol Museum, Pittsburgh, floor 4 – Late Works gallery, photo © Abby Warhola
写真右)The Andy Warhol Museum, Pittsburgh, floor 7 – Early Pop gallery, photo © Abby Warhola

僕が昨年の秋に訪れた時には、ミュージシャンでモデルのアーティスト、キム・ゴードンさんの絵画展が行われていた。彼女は僕も大好きなロック・バンド、ソニック・ユースでベーシストを務めていたこともある女性アーティスト。ロックが老若男女に浸透しているアメリカでは注目度も高く、挑戦的な展覧会だった。

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アンディ・ウォーホル・ミュージアムのキム・ゴードン展(企画展)の様子
KIM GORDON Lo-Fi Glamour The Andy Warhol Museum, Pittsburgh May 17 – September 1, 2019 Images courtesy The Andy Warhol Museum

マットレス・ファクトリー

アンディ・ウォーホル・ミュージアムから車で10分ほど走ると、じゅうたん工場を改修した美術館、その名も「マットレス・ファクトリー」がある。

1977年に設立された美術館で、展示作品のオリジナリティーの高さから、アメリカのアーティストの間でもピッツバーグに行くなら訪れるべき場所として評価されている。日本の現代美術家、草間彌生さんの作品も常設展示されている。

ウォーホル美術館から手作りのきてれつな博物館まで ピッツバーグの不思議なアート事情

マットレス・ファクトリーの入口

ウォーホル美術館から手作りのきてれつな博物館まで ピッツバーグの不思議なアート事情

過去の展覧会の記録より、1996年の草間彌生さんの作品展風景
Photograph depicting Yayoi Kusama with her artwork titled Dots Obsession at the Mattress Factory in 1996.

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過去の展覧会の写真
写真左)現代美術家カリナ・スミグラ・ボビンスキーさんの作品。ペンがついた大きな風船が宙を漂い、壁面に絵を描く/Karina Smigla-Bobinski, ADA on view September 21, 2018 – April 7, 2019
写真右)現代美術家グリア・ランクトンさんの設置型の芸術作品/Photograph depicting Greer Lankton’s permanent installation titled It’s all about ME, not you at the Mattress Factory in 2009.

新型コロナウイルスの影響で3月14日より閉館しているが、「バーチャル・ツアー」として以下のリンクより常設展を中心に動画が見られる。


動画はそのうちの一つ、アラン・ウェクスラーさんの展覧会のバーチャル・ツアー。マットレス・ファクトリーのユーチューブより。
Allan Wexler “Bed Sitting Rooms for an Artist in Residence” Walkthrough

数日の滞在であれば、先に挙げた二つを見て回るだけでもかなり充実した時間になるが、ピッツバーグの見どころは他にもある。

次に紹介する「ランディー・ランド(RandyLand)」は、地元のアーティストが面白いスポットとして教えてくれたものだ。場所はマットレス・ファクトリーの近くにある。

アウトサイダー・アーティストであるランディー・ギルソンさんが元々廃虚だった場所で25年以上の時間を費やし、今も作り続けている個人の博物館なのだそうだ。ちなみに入場は無料。ピッツバーグの中でもインスタグラムに投稿されやすい場所の一つだ(※現在は新型コロナウイルスの影響で閉鎖中)。

 
 
 
 
 
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081119 Angelo was took me to Randyland in city of Pittsburgh. #thankyouangelo #angelociottie #cjihiroito #usa #pittsburgh #japan #tokyo #nicetotalkyuko

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僕が友人とランディー・ランドを訪れた時の映像と写真

現代美術の歴史の文脈とは全く交わらないランディーさんの作品は、通常の美術展というよりも、「型破りな手法で作られた奇想天外な場所」といった感じで、その場にいるとなんだか楽しく元気になる。不思議だ。

こんな個人の発想がダイナミックな形で示された施設を日本では見たことがない。そんなことを感じながらアメリカの大陸的な懐の深さをひしひしと感じた。

日本人の僕から見ると、ピッツバーグはアメリカ郊外の典型的な巨大都市だが、そこに気の合う友人らがいるとさらに楽しい。また、若かりし頃のアンディ・ウォーホルが育ったこの街を、彼の作品群を見ながら友人らと巡っていると、またNYに帰って頑張ろうという気分に自然となった。

僕も今年の9月末にピッツバーグのギャラリーで展覧会を行うことになっている。今は新型コロナウイルスのことはあまり考えすぎず、目の前の作品の制作を必死に行うことにする。

ウォーホル美術館から手作りのきてれつな博物館まで ピッツバーグの不思議なアート事情

写真は今月から始めた僕のオンライン・プロジェクト「伊藤知宏365日アートプロジェクト」より。1年の間、1週おきに複数枚の僕の作品の写真を公開。閉鎖中のギャラリーや美術館、コンサートホールに代わって、自宅や一般公開していない無人のギャラリーなどからオンラインでアートを発信しているアーティストの友人らの活動からインスピレーションを得て、僕も人々が自宅でアートを楽しむための活動をすべきと思い、このプロジェクトを開始した。美術業界の中で絵画や彫刻作品は、「作品の実物を見るべき」「実物の方が優れていなければならない」という考えがある。もちろんそうであるべき部分もあるのだが、僕はこれを機会にオンラインが新しい芸術表現の可能性もあると考え、日々試行錯誤しながら最善を尽くしていく。このプロジェクトが終わる1年後は、新型コロナウイルスが収束していてほしいとの願いを込めて。(サポート: Keep going Together/EU Japan Fest)

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