姉妹でいつか、語り合った夢のカフェを 海が見渡せる逗子の「N邸 N-Café」

地図を頼りに、「本当にここ?」と思うほど、急勾配の坂をあがっていく。うっそうと茂る木々の脇に、小さな階段を見つけて、さらにのぼる。息を切らしてたどりついた先に、白い木製フェンス、芝生の庭、ひょうたん型のプール、海……と、絵になるシーンが次々と現れる。
逗子・小坪港を見下ろす高台にある「N邸 N-Café」は、鎌逗葉(かまずよう=鎌倉・逗子・葉山)エリアの中でも、ピカイチの眺望を誇るカフェだ。昨秋の大型台風で大きな被害を受け、修復のために休業を続けていたが、この6月にファン待望の再開を果たした。
もとは著名な日本画家が、半世紀以上も前に建てた邸宅だったという。2015年に撮影スタジオ「鎌倉N邸」として運営されるようになり、敷地内にある瀟洒(しょうしゃ)な母屋は、現在、広告やミュージックビデオなどの映像、雑誌のスチールの舞台に使われている。
その母屋とは別に、プールサイドに設けられた木造のシェッド(シンプルな小屋)がカフェのスペースだ。カフェでは住吉由美さん(38)が店主となり、金・土・日・祝日に予約客のみを受け入れている。
足かけ6年めになるカフェは、「オープンエアの隠れ家」という、このエリアならではの魅力で、訪れる人の心をひきつけてきた。そもそも、どうしたら、こんな絶景の場所に巡り合えるのだろうか。
発端は、住吉さんの姉で、映像美術の仕事にたずさわる佐々木麗子さん(42)にあった。
「鎌倉N邸がお披露目パーティーを開いたときに、オーナーと共通の友人が『あなたが好きそうなところだから』と、声をかけてくれたんです。眺望はもちろんですが、母屋のたたずまい、庭、プールサイドと、すべての雰囲気がよく、ああ、こんなところにいつもいられたらなあ……と」(佐々木さん)
そのとき、佐々木さんの脳裏に浮かんでいたのが、妹の住吉さんの存在だった。住吉さんはコンテンポラリーダンサーとして舞台活動を行いつつ、男の子2人の子育て中。クリエーティブな才能を持ち、料理の腕も期待できる。住吉さんが話をつなげる。
「姉妹って、よくおしゃべりをしますよね。姉と私も『いつか、カフェ、やりたいよねー』などといいあっていて。私はひそかに、1階が店、2階がオフィス、3階は賃貸で貸す!なんてことを夢見ていました」(住吉さん)
そんなところに、N邸オーナーのひとことがあったのだ。「誰か、スタジオとN邸の管理をしてくれる人はいないかな」
潮風にさらされる邸宅は、人の手が入らないと傷みが早まる。庭もしかり。両者のニーズがマッチして、話はトントンと進んだ。
カフェでは住吉さんが運営の柱となり、店内での飲食、ケータリング、テイクアウトを手がける。彼女が公演で不在のときは、佐々木さんと、横須賀市の実家に暮らす母の佐々木茂子さんが留守を担う。家族の連携がはじまった。
たとえば母屋で大がかりな撮影があるときは、ケータリングで1日200食以上をつくることもある。そんなときに力を発揮するのが、家族同士の「あうんの呼吸」だという。
「キッチンでは、互いに気を遣いあっていては、仕事が進みません。必要なことだけを伝えて、あとは黙々と作業をこなす。愛想笑いや、取り繕いをしないでいい。そこは、家族ならではのよさですね」(佐々木さん)
場の仕切りが上手な佐々木さんと、マイペースで自分の道を貫く住吉さん。姉妹はクリエーティブなベースを共有しながら、それぞれの個性で、この場に似合ったハーモニーを奏でている。
(→後編に続きます)
N邸N-Café
神奈川県逗子市小坪6-6-46
電話番号:0467-95-8749