LONG LIFE DESIGN
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「店」というものは、そこにかかわるひとりひとりが支えている

徐々に街に活気が戻ってきましたね。まだまだ油断は禁物ですが、引き続き手洗いうがいなどをしながら、みんなで新型コロナを収束させたいですね。

さて、今回も3話書きました。どれもステキなことが長く続いていくためのヒントになったらいいな、と思っています。

まずは「ひとりひとり」。これは改めて商売に向き合える状況になってきた今、感じていることです。基本はなんだったのか、と考えたときに出てきた言葉です。その次は、今お仕事を頂いているお茶の会社のブランディングで、色々調べたり勉強したりしていく中で読んだ岡倉天心の本の中から。

最後はちょっと自分の仕事の営業みたいになってしまいましたが、僕が発行している「d design travel」という旅行文化誌について書きました。なぜ、作っているのか。その意義についてです。ぜひ、読んでくださいね。それでは、今回もよろしくお付き合いください。

ひとりひとり

ちゃんと商売をされている方には当たり前の話で恐縮なのですが、商品の問い合わせを僕個人に頂くことがあって、それを「ナガオカさんに直接、こんなこと聞いて申し訳ない」みたいに言ってくださる。いろんな雑務にまみれながら、なかなか返答が安定せず、担当者につないでしまったりすることが多いけれど、こういう連絡を頂くたびに、初心に帰れます。本当に感謝です。

もともと僕はデザイナーをしながら店頭にも立ち、接客、梱包(こんぽう)、配送、不用品の引き取りなどをしていました。もちろんそれがしたくて店を立ち上げたわけですが、色々と忙しくなり、自分の気持ちを受け継いでくれるスタッフに代わりになってもらっていくうちに、どんどん店や会社が大きくなりました。お客さんのおかげです。なので店頭にはなかなか立てませんが、こうして個人メールやツイッターのダイレクトメッセージなどから「あの商品はいつ入荷ですか?」「違う色はどんなのがありますか?」などと聞かれると、とても嬉(うれ)しいのです。

正直言うと、全部を知っているわけではないので、慌ててスタッフに聞いたりすることもありますが、それも仕事の復習になって助かります。自分も「へぇ、あれからそんなバージョンが出ていたんだね」などと知ることが多いのです。

店をやっている経営者は有名無名問わず、みんな同じだと思います。ものが好きだし、それを作っている人も好き。それがある暮らしも興味あるし、同じものを持っている人にも関心がある。そして、その気持ちが募っていくうちに「自分でも好きなものを販売したい」となって開業するわけですから。

先日もメールから商品の問い合わせを頂き、ちょうど僕がデザインした商品だったので、熱が入りました。結局、その方と会ってお茶までしました(笑)。

店ってやっぱりそこにかかわるひとりひとりの存在が支えているんだと改めて思います。僕は一斉メールが好きではありませんが、もしやるとしても、その基本は意識しないといけないと思います。店を始めたいと思った店主、創業者がひとりいる。そこにお客さんとしてのひとりが初めてやってくる。そこで対話して、ひとりの店主が選んだものがひとりの人に売れる。この最初の感動、「お客さんがきた!!」「選んだものが初めて売れた!!」という初心と原点と、そして「基本」。それをダイレクトメールに感じたというお話でした。

来年(本当は今年の夏にオープンする予定だったのですが……)、自分のふるさと愛知県に、僕自身が店頭に立つ小さな店を作ろうと計画中です。これもやはり原点に立ち戻って色々と考えて未来に臨みたいということに尽きます。お客さんひとりひとりの顔と名前を覚えられる店にします。当たり前のことですが、それができなくなってきた今、まだ間に合う、まだ原点に戻れる。ダイレクトで問い合わせを頂くたびにそう思います。

「店」というものは、そこにかかわるひとりひとりが支えている

僕の店、D&DEPARTMENTの京都店です。京都の本山佛光寺というお寺の境内にあります。営業再開し、その客席を眺めると、どこか「自分たちがちゃんと接客できる数」が見えます。フロアは基本1人。厨房(ちゅうぼう)は2人。1人でやっているからこそ、“ひとりひとりの関係”になれる

岡倉天心

今、お茶の会社のお仕事をしている関係で、猛烈にお茶の勉強をしています。その会社の方に聞いて、「これだけは読んでおいた方がいい本」のリストから、とにかく片端から読んでいく中で、特に印象に残ったのが「新訳茶の本」(著:岡倉天心/訳:大久保喬樹/角川ソフィア文庫)でした。とにかく読みやすい、Amazonでの高い評価もうなずける一冊です。

正直、岡倉天心のことは、ほぼ、何も知りません。東京芸術大学美術学部の前身を作った人ということくらいは知ってはいましたが、茶の湯とここまで深く関係していたことは、知りませんでした。もちろん彼は思想家、美術運動家なので、茶道をしていたわけではありませんが、日本に、世界にその思想を広めた人です。

簡単に言うと、海外では評価されていなかった日本では当たり前なことを、文化的、国際的視野で捉え、正しく導く人です。茶には詩人の関わりが大きく、また、私たちの世の中の文化的な下ごしらえは、その多くが茶人によって作られていることが、この本からわかります。詳しくは、本を読んでもらうとして、ここでは、僕が単純に「へぇ、そうなんだ」と思ったことを要約してご紹介します。

<茶は、固形の茶を煮立てる「団茶」、粉末の茶を泡立てる「抹茶」、葉のまま茶を浸す「煎茶」の三段階で発展しており、それぞれ中国の唐、宋、明の各時代の特色を示している。芸術様式分類用語で示せば、順に、古典派、ロマン派、自然派の茶と言える>

茶の文化の在り方は時代によるものなんですね。僕が特に面白いと思ったのは、茶の文化の洗練が始まる「団茶」の時代を経て、より文化的に成熟した「抹茶」が生まれ普及するも、国内の内乱などによって茶の精神が破壊され、半ば文化が形骸化したかたちで「煎茶」へと引き継がれていく、みたいな話がたまに出てくるところです。もちろん、抹茶の進化系が煎茶という言い方もできたと思うのですが、なんにせよ抹茶の位置づけって、そういうことなのですね。

<日本は中国文明の足跡を忠実にたどってきて、茶の発展の3段階も全て取り込んできた>

3段階というのは、上記したものですが、13世紀にモンゴル民族の中国侵略によって宋の時代の抹茶文化が破壊される。一方、12世紀終わりに宋の茶が入ってきた日本では、1281年のモンゴル襲来を阻み、宋の文化を継承でき、室町時代に茶の湯の文化が開花する。日本は、中国で無くなった茶の文化を引き継いだことになるようです。

茶の湯を全く知らない僕にとって、例えば、一つの茶碗(わん)を複数の人が回しながら飲むなんてスタイルは、日本の、なんだったら利休あたりの発想かと思っていましたが、これも中国の仏教徒の僧侶がやっていたことが、日本に来たんですね。え、そんなことも知らなかったのかって??(汗)。この本から書き出したいことは、ものすごくいっぱいありますが、最後に一つ。

<茶室では非対称性が尊ばれ、規則性や繰り返しを避けることが常に心がけられている>

花を生ける時は、花の絵は飾ってはいけない。丸い釜を用いる時は、水差しは四角にする。床の間の柱は、他の材料と違う材質のものを用いて単調さを取り払う……。もしかしたら、「ナガオカさん、それ、もう古いですから」……と言われそうですが、茶室にはこんなルールがあるらしいです。

他には、“対称”や“均等”もダメ。床の間に花器を置く時は、絶対に真ん中に置かないように、と。なぜなら、床の間の空間を二等分することになってしまうから……らしいです。この東洋の「不均等」は、西洋の「均等」と対極にあって面白いですね。

ちょっと余談ですが、花なんかも西洋では平気で花だけを茎から切って飾ったりしますが、東洋的には「自然に生えているそのまま」が良しとされているようです。茎や葉があるものなら、そのままを飾る。そう言われたら、そうですよね、というお話でした。本当はまだまだありますが……。

「店」というものは、そこにかかわるひとりひとりが支えている

岡倉天心の「茶の本」を読みやすく新訳したものです。本当にオススメです。お茶のことを「文化」にしていく流れのようなものも知ることができます。文化になりそうな物事を岡倉天心がどのように見ていたか。それを知ると私たちも身の回りに「もっとちゃんと伝えていったら、あれも文化的になる」というものが意外とあるように感じ始める

d design travel

自分がやっていることの宣伝になってしまいますが、「d design travel」というデザイン目線で“47の日本”を紹介する本を年2冊のペースで発行しています。僕も初代編集長として、「北海道」「鹿児島」「大阪」「長野」「静岡」「栃木」「山梨」「東京」「山口」「沖縄」の10エリアを担当し、次の編集長へとバトンを渡し、現在は3代目の編集長・神藤秀人が29カ所目の「愛媛」号で2カ月現地に住み、取材をしています(応援してください!!)。

能楽の本として知られる世阿弥の「風姿花伝(ふうしかでん)」の中に、猿楽の基礎である「物まね」について書かれた章があります。「物まね」と言っても、サンドウィッチマンが安倍首相のまねをするようなものではありません。天皇や大臣など、普段接することのない身分の方を演ずるときは、よく観察し、言葉遣いを調べるなどの努力をし、農民や庶民を演ずる(まねをする)ときは、リアルにするのではなく、なるべく「風情」を感じられるようなまねをした方が良い、ということが書かれている。

僕らはこの本の取材でd design travelのテーマである「その土地らしさ」を拾い出します。そのとき、この「風姿花伝」にある思想が参考になります。つまり、あまりリアルな面を取り上げるのではなく、その土地のリアルな個性とも言えるものたちの「風情」(僕らは文化的な上澄みと見取る)を紹介するようにする。あまり高尚なものを取り上げても、広くみんなに伝わらない。長くその土地に馴染(なじ)んでいるものにある超リアルな面の上澄みのようなところをスッとすくうように紹介する。

文化的な語り口で、それが「その土地の人には普通かもしれないけれど、外から見たらとてもあなたたちらしい素晴らしい文化です」とする。すると、そう言われた現地の人たちは、「あれが、私たちの土地の原点か」と意識し、何か新しいことをしようとする時の、一つの指針にしてくれるようになる。そのきっかけを作り出すことを意識して本作りに取り組んでいます。

問題はこの本の需要が見えにくいところです。制作費がかかる割に売れない(笑)。商売と考えると47都道府県を網羅することや、取材先の選定などがウケねらいで歪(ゆが)んでくる。そこでブレずに選定基準を貫くほど、どこか教科書的になってくる。

コンビニで本を売るような、何十万冊を作り、何万冊かを大量廃棄して、何万冊を販売するといった、ばらまくような商売もしたくないとしたら、こういう本が欲しいという人に直接届けられないと続かない。「ちゃんとしたその都道府県のガイド」を作ろうとする難しさといつも付き合っているわけです。

誰かが、土地の特別なものの中からではなく、普通・普段の中から「その土地らしさ」のかけらを見つけ出さなければ、日本中がヒットしている観光地のお土産のまねをしだしてしまう(もう、なっていますが……)。 その土地の普通の中の極めて文化的な個性を拾い上げる。ぜひ、僕らの本の発行の継続をご支援ください。そして、日本が47種類の個性を維持する文化的な島国であり続けられますように。

d design travelです。47都道府県分を公平に同じ条件で編集しています。通常のトラベル雑誌とかなり違って面白いと思います。1冊買って本の通りに巡ってみて下さい。そして、その「土地のらしさをめぐる」旅の感覚が「楽しい!!」と思っていただけたら、全部面白いです!!  d design travel誌のご紹介はこちら。私たちD&DEPARTMENTが取り組んでいる「ロングライフデザイン」の活動についてはこちら。パートナー会員になると、d design travelを含む、私たちの活動書籍をお送りします!! ちょっと通販のチャンネルみたいですが、そんな僕です。よろしくお願いします。

d design travelです。47都道府県分を公平に同じ条件で編集しています。通常のトラベル雑誌とかなり違って面白いと思います。1冊買って本の通りに巡ってみて下さい。そして、その「土地の“らしさ”をめぐる」旅の感覚を「楽しい!!」と思っていただけたら、全部面白いです!!

d design travel誌のご紹介はこちら。私たちD&DEPARTMENTが取り組んでいる「ロングライフデザイン」の活動についてはこちら。パートナー会員になると、d design travelを含む、私たちの活動書籍をお送りします!! 

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