美しきインドの日常
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<3>豊かになっても変わらぬ結婚観(インド・オリッサ州)

インドに魅せられ、バイクで8周してきた写真家の三井昌志さんが、文と写真でつづる連載コラム「美しきインドの日常」。隔週木曜更新です。

南東部オリッサ州の先住民「アディヴァシ」

鮮やかな赤いサリーを身にまとった女性が、赤土の畑で木槌(きづち)を振るっていた。長い柄のついた木槌を力を込めて振り下ろすと、乾燥して硬くなった土塊が粉々に砕ける。腕の力と根気が必要なこの作業を何時間も続けていくと、やがて土は柔らかくなり、豆や野菜を植えるのに適した畑に変わるのだ。

<3>豊かになっても変わらぬ結婚観(インド・オリッサ州)

木槌で畑の土塊を砕くアディヴァシの女性(撮影:三井昌志)

インド南東部オリッサ州の山間部には、「アディヴァシ」と呼ばれる人々が住んでいる。アディヴァシは今から3500年前にアーリア系民族がインド亜大陸に侵入してくる以前からこの地に住んでいた先住民族の末裔(まつえい)で、今でも森に囲まれた土地で人や牛の力に頼った伝統的な農業を行っている。

ウンベル村は1000人ほどのアディヴァシが住む比較的大きな集落で、20年前まではインドでももっとも貧しい地域として知られていた。医療や教育の水準は低く、きれいな飲み水が得られる井戸がなかったために、衛生状態も劣悪だった。当時、村と町、あるいは隣村同士を結ぶ唯一の道は未舗装の荒れた道で、ひとたび雨が降ると車も人も往来できなくなり、陸の孤島と化してしまったという。もちろん電気も水道もなく、通信手段も皆無だった。

<3>豊かになっても変わらぬ結婚観(インド・オリッサ州)

竹で編んだ「箕(み)」という道具を使って、収穫した雑穀からゴミを取り除く女性(撮影:三井昌志)

そんな貧しい村の暮らしを変えたのが、キャベツだった。もともと村人たちはお米や雑穀などの主食を細々と作るだけの自給自足に近い生活を送っていたのだが、キャベツやカリフラワーなどの野菜を栽培した方が利益になると知り、農家の多くが畑に野菜を植え始めたのだ。標高900mという高地にある村は、昼と夜の寒暖差が大きく、それが野菜の甘みを生むという。

自給自足生活では得られなかった現金収入を得たことで、村の生活は大きく変わった。わずか数年のあいだに携帯電話やバイク、衛星放送が見られるテレビなどが一気に普及したのだ。道路も舗装され、町の市場に野菜を出荷する仕事も格段に楽になった。

<3>豊かになっても変わらぬ結婚観(インド・オリッサ州)

朝靄の中、キャベツ畑の手入れを行う男性。村はキャベツの栽培で豊かになった(撮影:三井昌志)

その一方で、昔も今もあまり変わっていないこともある。結婚年齢の低さもそのひとつだ。ウンベル村の結婚適齢期は10代後半で、中には12、3歳で結婚する人もいる。当然のことながら、村の出生率は高く、どの家にも4、5人の子供がいた。「できるだけ早く結婚して、多く子供をもうけることが幸せだ」という価値観があるようだ。

ウンベル村には「来年結婚する予定だ」という12歳の少年や、「おなかに二人目の子供がいるんです」と語る15歳の少女がいた。「もうすぐ孫が生まれておばあさんになる」という29歳の女性もいた。それは晩婚化と少子化が急速に進む日本社会とはあまりにも違いすぎる状況だ。

インドの法律でも、結婚可能年齢は女性18歳・男性21歳と定められている。しかしアディヴァシのような伝統社会では、国の法律よりも共同体の習慣や掟(おきて)に従って生きるのが普通なのだ。

野菜栽培によって村人の暮らしは豊かになり、今や誰もが携帯電話で連絡を取り合うようになった。しかし何世代にもわたって受け継がれてきた結婚観や食習慣などは、そう簡単に変わるものではないのだろう。

今でも村の田んぼには若い女性たちが腰を折って苗を手で植える姿があり、家には年老いた女性が石臼を使って雑穀を粉にひき、チャパティ(無発酵パン)を作って食べる姿がある。いずれも数十年前とほとんど同じ光景に違いなかった。

10年後、20年後にどの習慣が受け継がれ、どの習慣が廃れていくのだろう。それを自分の目で確かめるために、いつかまたこの村を訪れてみたいと思う。

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