8人きょうだいの長女は、私の人生の師匠

全国農業協同組合連合会(全農)では、新型コロナウイルスによる大きな影響を受けた花の生産者を支援する取り組みを行っています。その一環として、連載「花のない花屋」にご協力いただきました。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
春菜けいこさん(仮名)52歳 女性
イギリス・ウェールズ在住
会社員
◇
8人きょうだいの長女として生まれた姉は、末っ子の私とは18歳違い。でも、年の差にもかかわらず波長がよく合い、何でも話せる関係です。
姉の小学生時代、我が家の家計は非常に苦しく、姉は食事の支度から早朝に始まる母の仕事の手伝いまで、一手に引き受けていたそうです。給食費が払えない、大学進学を諦めざるをえない……私が経験することのなかったような苦労を、姉は幼い頃から味わってきました。
結婚して家を離れてからも、姉は常に私たちきょうだいを気にかけてくれました。私の小学校の卒業式にも、忙しい母に代わって出席してくれました。着物姿の姉はハッとするほど美しく、保護者の中でもひときわ目立っていました。式の最中に「あのきれいな人、誰のお母さん?」と周りの友達がひそひそ話すのを耳にして、私はうれしくてたまりませんでした。
離婚してシングルマザーになり、大変な時期もたくさんあっただろうと思います。でも、仕事をしながら立派に子供を育てあげ、父や母の介護にも懸命に取り組み、これまで一度も弱音をはいたことがありません。忙しい中でも毎週のように私たちを家に呼び、おいしい手料理をふるまってくれました。クリームコロッケ、煮物、煮魚、和え物、カレー、グラタン……何品ものごちそうをパパッと作ってくれる。食べきれなかった分は「お弁当にしたら?」と持たせてくれるのが常でした。
私の夫はイギリス人ですが、結婚する際に一回りも年上の外国人が相手ということで、反対する家族もいました。その時も姉は私の気持ちを理解し、応援してくれました。
夫の仕事の都合で移り住んだアメリカで私は乳がんになり、両方の乳房を全摘出しました。からだも心も下向きだった私を、姉は電話で、手紙で、私の大好物がたくさん入った小包で、日本から励まし続けてくれました。私は落ち込んでいるときは自分からあまり連絡しないのですが、察知したかのように姉から電話がかかってくる。ふだんは涙を流すことはないのに、 姉との電話ではいつも泣いてしまいました。
頼れる姉ですが、ふだんは天然ボケで周りをしょっちゅう笑わせています。自分が手一杯のときでも笑顔ですごし、さり気なく誰かに手を差し伸べる。そんな姉の姿から人生で大切なことをたくさん学びました。身だしなみに気を配り、センスよく年を重ねているところにも憧れます。姉は、私の人生の師匠です。
日本に戻った際は必ず姉の家に泊まっていました。「ここがあなたの家だから。何かあったらいつでも戻っていらっしゃい」と言ってくれたのですが、2年前に夫の故郷へ転居してからは行けずじまい。今年は4月、姉の71歳の誕生日に合わせて帰ろうと早くから計画していたのですが、新型コロナウイルスの影響で取りやめなくてはなりませんでした。
姉のお気に入りは赤いバラの花。部屋の小物やカレンダーもバラで統一されています。遠く離れていても、いつも私を見守り応援してくれる私の人生の師匠に、感謝と敬意をこめた花束を贈りたいと思います。

花束を作った東さんのコメント
バラの花がお好きとのことだったので、3種類のバラを思い切り束ねました。18歳上のお姉さまへ贈るということで、赤の色みも花束の形も落ち着いたイメージです。
何かの記念日ではないけれど、感謝の気持ちを伝えられるよう、仰々しくなりすぎないように心がけました。葉っぱなどは巻き付けず、花の種類も控えめに。バラだけど、部屋にさりげなく飾れるように。また自分で好きなように花束をアレンジできるよう、茎を長めに残しました。
夏になるとどうしても花の持ちが短くなってしまうのですが、バラは比較的日持ちします。エピソードを拝見して、花がお好きな方なのだと感じました。ご自身で自由に長く、楽しんでいただければと思います。




(構成・深津純子/写真・椎木俊介)
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
応募フォームはこちら