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キネマの誘惑
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土佐和成×朝倉あき 2分の壁に挑んだ“時間SF”映画『ドロステのはてで僕ら』

毎年公演で1万5千人を動員する人気劇団・ヨーロッパ企画。一人ひとりが多彩な才能を持ち、映画やドラマの脚本執筆からバラエティー番組制作、ラジオやスマホアプリの開発など、演劇の枠にとらわれず多方面で活躍している。

ヨーロッパ企画が初めて劇団全員で取り組むオリジナル長編映画『ドロステのはてで僕ら』が公開されている。原案・脚本は、劇団代表の上田誠。メガホンを取るのは、劇団員で映像ディレクターとしても活躍する山口淳太。テーマは、ヨーロッパ企画が得意としてきた時間やSFをテーマにした“時間SF”映画だ。

本作で主人公のカトウを演じているのが、2004年からヨーロッパ企画に参加する土佐和成さん。本作の元になったショートフィルム『ハウリング』から主演を務めている。ヒロインのメグミ役には、若手実力派俳優の朝倉あきさんが、劇団に1人飛び込む形で参加している。それぞれが今までにない芝居に挑戦し、演じることへの思いを巡らせた作品になった。

【動画】「夜中の2時3時になるとエネルギーがゼロに……」土佐和成さん、朝倉あきさんインタビュー

劇団初の長編映像作品。「熱量があふれ、みんなどこか興奮していた」(土佐)

物語は、土佐さん演じるカフェ店主のカトウが、仕事後に自宅に戻るシーンからスタートする。自宅のモニターに映った自分から話しかけられるカトウ。階下のカフェに戻ってみると、カフェにあるテレビモニターには自室にいるカトウが映っている。2分の時差でつながる二つのモニターが“タイムテレビ”だと判明し、奇妙な時間SFが始まる。脚本を読んだ時の感想を、2人はこう振り返る。

土佐 最後まで読んだ時、正直怖かったです。丁寧に練られすぎていて、隙が全くなかった。「これ、本当に1人で考えて書いたん?」「すごいな!」と、恐ろしくなりました。これまでは台本をもらって感想を伝えることはあまりなかったんですけど、すぐに上田にメールをしました(笑)。一方で「本当に面白いんかな?」と心配もありました。細かな時間設定を突き詰めていくニーズがあるんだろうか、と。複雑になればなるほど、見る人が置いていかれるんじゃないかと不安になりましたね。

朝倉 なんて完成された脚本なんだろうと思いました。ヨーロッパ企画さんと一緒にお芝居をできる上、この脚本となれば、始まる前は期待しかなかったです。現場に入ると、みなさんの阿吽(あうん)の呼吸というか、お互いに分かりあっている空気感の中でどんどん進んでいくので、「取り残されちゃいけない」「仕組みを覚えなくちゃ」と焦ってしまう気持ちもありました。何よりリズムのいい会話劇だったので1カ月くらいのリハーサルが必要な作品だと思いました。でもそこは、土佐さんがリズムを熟知されていて、全部教えてくれました。

(C)ヨーロッパ企画/トリウッド 2020
モニター越しの自分から話しかけられるカフェ店主のカトウ(土佐和成)(C)ヨーロッパ企画/トリウッド 2020

“ドロステ効果”とは、同じイメージが再帰的に繰り返される視覚効果のこと。自宅のモニターとカフェのテレビを向かい合わせることでドロステ効果が起こり、2分より先の未来が見えるかもしれないと期待する。現在を軸に2分前、そのさらに2分前(4分前)を描く複雑なシナリオ劇を作るために、シーンごとに長回しで撮影が行われた。撮影は今年の2月、10日間の限られた期間で行われた。

土佐 リハーサルに3日、モニターとテレビの素材撮影が3日、本編を4日で撮影しました。長回しで、ほぼカット割りなしで撮るのが決まっていたので、“撮れたら完成する”のが分かっていました。長回しは、上田が好きなんですよね。スケジュールが押して、結果的に順撮り(シナリオの順番通りの撮影)になりましたが、そうじゃないと危なかったと思います。撮影は、夕方から翌朝まで。夜中の2時3時にはエネルギーがゼロになっちゃうんですよ。山口が監督とカメラマンの2役をやっていたので、「僕、今どこにいましたっけ?」って停止して(笑)。

朝倉 その時、土佐さんの山口さんへの声かけが、すごくあたたかくて。「大丈夫、大丈夫」「今、こうしてたから」とか。土佐さんと山口さんの間で、監督と出演者の立場が逆転するような瞬間がありましたね。お客さん気分じゃないけど、とても面白かったです。

土佐 監督には、「僕、どこにいました?」とか、そんなこと言ってほしくなかった(笑)。朝倉さんに、かっこ悪いところを見せちゃったな、と。劇団員同士はお互いの芝居にはもうあまり新鮮味はないので、朝倉さんに「いいところを見せたい」「笑ってもらいたい」という思いが、僕たちの大事なエネルギーでした。劇団として、一つの映像作品をみんなで撮るのが初めてだったのもあり、いつも以上に熱量があり、みんなどこか興奮していた。「成功させたい」「撮り終えたい」気持ちはとても強かったです。

(C)ヨーロッパ企画/トリウッド 2020
(C)ヨーロッパ企画/トリウッド 2020

決められた枠の中で演じる新鮮さ。「縛りの中で、どう生きた演技をするか」(朝倉)

一番の役者泣かせは、2分の時間設定だ。現在の2分を撮る時に、モニター用に先に撮影した2分の映像と時間をきっちり合わせ、セリフを一字一句間違えず、セリフの間合いも同じにしなくてはいけない。このハードルを、2人はどう乗り越えたのか。

朝倉 時間という枠を決めて、流れを止めずにセリフを言うのが新鮮でした。理論的な縛りの中で、どれだけ生きたお芝居をするか、自分の中で考えるきっかけにもなったと思います。土佐さんが正しいリズムを刻んでくれたので、それに乗っかっていけばいい楽しさがありましたね。

土佐 元の作品(『ハウリング』)は 僕とカメラだけだったのが、今回は登場人物が増えて、セリフも動きも多い。本番になるとテンションが変わって動きが増えて、結果時間を多く使ってしまうこともありました。モニターを見れば、大体の動き出しが分かるので、モニターから離れたくなかったですね。朝倉さん演じるメグミのいる理容院に行くシーンは、モニターが見られなかったので、かなり焦りましたね。本当は役者の心情を持っておくべきなんでしょうけど、常にストップウォッチを持っている自分がいたかもしれない。本当は、それを手放したかったんですけどね。

『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』はPART3まであるので、求められるなら『ドロステ』3までいきたいですね
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はPART3まであるので、求められるなら『ドロステ』3までいきたいですね(土佐)

撮影当初は、撮り終えられるかどうか不安で、「なんとか完成させたい」思いが強かった。撮影を終えた段階で「かなり満足していた」という土佐さんだが、試写での反応や見た人からの感想を聞くうちに、「もっと言葉が欲しい」「たくさんの人に見てもらいたい」気持ちへと変化していった。

土佐 一昨年が劇団の20周年だったんです。これからも演劇は続けていくと思いますが、集団として何か新しいところへ踏み出したいと思っていた。そこに映画があって、それをきちんと生み出せたことで、また一つ、幅が広がったのかなと思います。

(脚本の)上田は、2分という時間の発見に喜んでいましたね。1分じゃなく3分でもなく、2分という絶妙な長さ(土佐)
(脚本の)上田は、“2分”という時間の発見に喜んでいましたね。1分じゃなく3分でもなく、2分という絶妙な長さ(土佐)

「一晩、泣いた」(土佐)「何もしなかった」(朝倉)、それぞれのステイホーム

自粛期間にはテレビや映画製作、すべてが中止になった。ステイホームの時間に「映画やドラマを一気見した」「掃除や断捨離に挑戦した」「筋トレを始めた」など、様々な過ごし方があったようだが、2人はどう過ごしたのだろうか。

朝倉 とことん横になって、自分のことを振り返ったり、必要なことは何なのかと考えたりしていました。要は、だらだらしていましたね(笑)。何もしない、明日のことは明日考える、朝起きてから何をするか考える生活です。家にいる状況が、全く苦じゃなかったです。

土佐 僕は、一晩泣きましたね(笑)。「もう役者の仕事ができないんじゃないか」と不安になって。でも同じ気持ちの人もいっぱいいるんじゃないかと思ったら、楽になりました。あとは、毎日子供とケンカしてました。イヤイヤ期全盛の2歳の子がいるので、ずっと戦っていましたね。

朝倉 自粛中にインスタライブやYouTubeを始める有名人が多くいたじゃないですか。仕事でご一緒したことがない憧れの方の動画を見ていると、「ああ、普通の人なんだなぁ」と思って。みんな同じように感じ、模索している最中なんだと。現場に戻れるかという不安もありましたが、みんな同じだから焦らなくてもいいと分かり、楽になれました。役者の仕事では、ありがたいことにやりたいことを全部やれてきているので、その中で今また違うものを模索している最中です。土佐さんは、役者の仕事で何が一番面白いですか?

土佐 お芝居において、すべてのことがバチッと合う瞬間ですかね。ほんの一瞬のことだと思うんですけど。今回の映画は、その瞬間を多く感じることができました。

朝倉 私もそれが役者の仕事の中で一番好きな部分です。その瞬間を通じて(共演者や芝居を見に来られたお客様、スタッフなど)人とつながっていると感じていたから。自粛期間はそれがなかった分、不安になったり、悩んでしまったりしたのかもしれない。それに気づけただけでも貴重な時間だったと思います。

それぞれのキャラクターが魅力的。登場人物同士のやりとりなど、細かいネタを追って見ていくのも面白いと思います(朝倉)/ヘアメイク:野中真紀子、スタイリング:嶋岡 隆(Office Shimarl)
それぞれのキャラクターが魅力的。登場人物同士のやりとりなど、細かいネタを追って見ていくのも面白いと思います(朝倉)/ヘアメイク:野中真紀子、スタイリング:嶋岡隆(Office Shimarl)

劇中とは一味違う、なごやかなムードで会話を弾ませる2人。よく笑い、互いに質問しあう“ドロステ”コンビの息はぴったり。続編も期待大だ。

“タイムテレビ”に翻弄(ほんろう)され、パズルのように絡み合うキャストと時間にまみれる『ドロステのはてで僕ら』。たった2分されど2分、不思議な時間の交錯に振り回され続ける、新感覚の映像体験をぜひ味わってほしい。

(文/武田由紀子、写真/花田龍之介、動画/佐瀬醇・高橋敦)

『ドロステのはてで僕ら』作品情報

キャスト:土佐和成 藤谷理子 石田剛太 諏訪雅 酒井善史 中川晴樹 角田貴志 永野宗典 本多力 / 朝倉あき
原案・脚本:上田 誠
監督・撮影・編集:山口淳太
主題歌:バレーボウイズ「タイトルコール」
製作:トリウッド ヨーロッパ企画
配給:トリウッド
日本/カラー/70 分/ビスタ
(C)ヨーロッパ企画/トリウッド 2020
TOHOシネマズ池袋、TOHOシネマズ日比谷、下北沢トリウッドほか全国順次公開
http://www.europe-kikaku.com/droste

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