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「川のワイン」を訪ねて
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高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

川はどのようにワインに恩恵をもたらすのか? その答えを求めてイタリア、スペイン、フランスのワイン産地を訪ねる旅。第2回は、イタリアのエミリア地方とロマーニャ地方のワイナリーを1軒ずつ訪ねる。
(文:ワインジャーナリスト・浮田泰幸、写真:吉田タイスケ、トップ写真は発酵中のサンジョヴェーゼ)

広大な敷地の「ヴェントゥリーニ・バルディーニ」

エミリア地方、レッジョ・エミリアの南西、クアットロ・カステッラという人口約1万3千人のコムーネ(町)にある「ヴェントゥリーニ・バルディーニ」は、緑なす丘陵の森の中に開かれたエステート(ブドウ栽培からワイン醸造まで一貫して手がける生産者及びその土地)だ。この辺りはポー平原とアペニン山脈の境界線上にあり、言わば「里山」的な環境である。西に向かって数キロ行けば、ポー川の支流、エンツァ川の流れに出くわす。

高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

ジュリア・プレスティアさん

オーナーファミリーの一員、ジュリア・プレスティアさんが案内してくれた。

「まず見ていただきたいのは、この地方で最古のアチェタイアです」

アチェタイアはバルサミコ酢の熟成庫のこと。ジュリアさんについて格納庫のような形をした古いレンガ造りの建物に入った。「築400年です。1階は物置に使っています。アチェタイアは2階です」

一段ごとに軋(きし)む木造の階段を上がると、天井の低い、薄暗い空間が広がっていた。暗がりに目が慣れてくると、ビッシリと並んだ樽(たる)が見えてきた。ワインを眠らせる樽と比べて、明らかに小さい。ワインの熟成には冷涼で温度変化の少ない地下のセラーが使われるのに対し、熟成にある程度の高温と温度変化が必要なバルサミコ酢はこのような屋根裏部屋で寝かせるのだ、とジュリアさん。

高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

築400年のアチェタイア

バルサミコ酢の最高峰「アチェト・バルサミコ・トラディッツィオナーレ」は、ワインの場合と同様に原料や製法、熟成期間が法律で厳格に規定されていて、モデナとここレッジョ・エミリアで造られたものだけが品質保証の証しであるDOP(原産地呼称保護)を名乗ることができる。

日本人の感覚では酒造と製酢は別々に営まれるものだが、イタリアの、とりわけポー平原では、ブドウを原料とし、醸造と熟成を経て造る二つは同じ農園に共存していることが多いのだ。

ジュリアさんがアチェタイアの扉を開け、美しい森の広がりを見せてくれた。エステート全体で130ha、そのうち、ブドウ畑は30haであるとのこと。「この自然の一部にワインやバルサミコ酢の生産があるというのが私たちの考えです」。その考えがエミリア=ロマーニャ州で最初の有機栽培認証をこのワイナリーが取得したことに表れている。

高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

エステート内に建つヴィラ・マノドーリ。その歴史は16世紀までさかのぼることができる


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収穫を終えたばかりのブドウ畑


高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

自然と歴史がよく溶けあっている


高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

「ロンコロ1888」は、敷地内の宿泊施設。ワインが生まれる環境で過ごす一夜は忘れがたい思い出になる

醸造家フェッリーニ氏がテコ入れ

ワインはランブルスコ(発泡性の赤ワイン)を中心に、スパークリングと非発泡性の赤を造る。ランブルスコは複数の品種をブレンドして、複雑味を出すスタイル。近年はイタリアを代表する敏腕醸造家、カルロ・フェッリーニ氏をコンサルタントに招き、品質が向上。ワイン評価誌の評価も非常に高い。

テイスティングはワイナリーの近くにあるレストラン「カ・マチルデ」で行った。

高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

カデルヴェント

「カデルヴェント」は、パウダーピンクの色合いが印象的なロゼ・スパークリング。ワイン名は「風の通る場所」という意味。ブドウ畑のある標高300mの砂混じりの粘土質土壌の土地の名に由来している。使用品種はソルバーラ(淡い色合いとフローラルな香り)とグラスパロッサ(野性味のある味わい)。ローズヒップの香りとプラムの風味があった。「ロゼですが、あくまでもランブルスコであることが大事だと考えて造っています」とジュリアさん。

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グリーンピースのピュレに生ハムを浸した一皿

「T.E.R.S. 2014」は、ランブルスコ系品種のひとつで希少品種のマルボ・ジェンティーレ単一で造った非発泡性の赤ワイン。ワイン名の四つのアルファベットはオーナー夫妻の子供たちのイニシャルから取った。先述のフェッリーニ氏を招聘(しょうへい)して初めて造ったワインで、生産はわずかに1000本のみとのこと。畑は標高240mにあり、粘土石灰質土壌。赤い果実のチャーミングな香りにリコリスを思わせる甘いスパイスが優しく混じる。フレッシュでありながら、上品な余韻が長く続く。

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「T.E.R.S. 2014」には香ばしく焼かれた子牛を合わせた

VENTURINI BALDINI
Via Filippo Turati, 42, 42020 Roncolo di Quattro Castella
https://venturinibaldini.it/

谷の傾斜地に広がる「ファットリア・ゼルビーナ」

ロマーニャ地方で訪ねたのは、「ファットリア・ゼルビーナ」。陶器の町として知られるファエンツァの南、マルツェーノの谷の複雑な地形の傾斜地にエステートが広がる(ブドウ畑の標高は90m〜225m)。

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白ブドウ「アルバーナ」の収穫

当主のクリスティーナ・ジェミニアーニさんはブドウ畑にいた。ちょうど「スカッコマット」という甘口白ワインに使う果実の収穫の真っただ中だった。貴腐ブドウを使ったこのスタイルは、クリスティーナさんがボルドーで学び、ロマーニャに持ち帰ったものだ。

このワインは産地の評価を一変させた1本と言っていい。ここではブドウは房ごとではなく、果粒で収穫される。
「この粒はレーズン、こっちはヴィネガーになってしまっています。ハチがたくさんいるでしょう。彼らは良いブドウを知っているのです」。ボトリティス・シネレア菌によって貴腐したブドウは官能的な香りを放ち、濃縮された甘みを持つ。ハチはそれをかぎ分けて集まるのだ。

クリスティーナさんが理想的な果粒を摘んで見せてくれた。素人目にはカビの生えたブドウにしか見えなかったが、食べてみると糖蜜のような甘みが舌先を溶かすようだった。

高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

理想的に貴腐したブドウ粒


高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

貴腐する前のブドウは黄金色


高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

ペルゴレッタ・ロマニョーラというこの土地独特の仕立てで栽培されるアルバーナ

「ファットリア・ゼルビーナ」はクリスティーナさんの祖父、ヴィンチェンツォ・ジェミニアーニ氏が創業した。最初にブドウを植えたのは1966年のこと。クリスティーナさんはフランスのボルドー大学醸造学部で学び、87年に祖父の跡を継いで家業に参画した。「ロマーニャは長らくローマ教皇領だったこともあり、保守的な土地でした。多くの栽培農家はブドウを共同組合に納めていたので、“質より量”の時代が近年まで続いていたのです」

地域で初めての貴腐ワイン

高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

クリスティーナ・ジェミニアーニさん

クリスティーナさんがまず行った「改革」は、土地固有の品種――黒ブドウではサンジョヴェーゼ、白ブドウではアルバーナ――に注力したこと。サンジョヴェーゼは数あるクローン(接ぎ木して生まれた系統)の中から、小粒の実を付け果皮の厚くなるものを選別、樹間を狭め密植にして栽培。収量をうんと減らして、濃縮感のある果実を得た。アルバーナでは5年間の試行錯誤を経て、地域で初めての貴腐ワインを造った。

高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

その形状から「アンフィテアトロ(古代ローマの円形劇場)」と名付けられた畑。サンジョヴェーゼが植えられている

カンティーナ(醸造所)は小規模で飾り気なく、置かれた機材からも実質重視であることがうかがわれた。縦置きにされたオーク樽に入れられた黒ブドウが発酵していた。この工程一つからも、チャレンジングでアルチザナル(職人的)な醸造であることが見て取れる。

高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

ピエトラモーラ2001

テイスティングは、サンジョヴェーゼ100%の赤「ピエトラモーラ2001」から。グラスに鼻を近づけた途端に思わずほほえんでしまうようなドライフルーツの甘く熟した香り。そこにハーブ、杉の葉、アーシーなトーンが交じる。口に含むと、たくましさがあり、包み込まれる感じが心地よい。長い余韻が遠い記憶を呼び覚ますようだ。

「アンフィテアトロ2016」は、今年国際見本市でお披露目が予定されている、単一畑のブドウによる新銘柄だ。サンジョヴェーゼ100%。房の風通しが良くなるように、果粒がルーズに実るクローンを採用し、かつて川が流れていた石ころだらけの土地に、株仕立てで栽培した。「土地伝統の株仕立てでないと出せないクオリティーがあると思って」とクリスティーナさん。一般的な垣根仕立てと比べて、手間はかかるが、ここでも彼女は合理を捨て、品質を求めている。ワインはカシス、ベイリーフに白檀(びゃくだん)を思わせる独特の香りが混じる。鼻では軽快で、口に含むと厚みが感じられるのは「ピエトラモーラ」と共通する特徴だ。豊かなミネラル感が背骨を成し、端然とした印象。

高評価ランブルスコと地域初の貴腐ワイン (2) イタリア・ポー川とエミリア=ロマーニャ州

スカッコマット2015

「スカッコマット2015」は、アルバーナ100%の貴腐ワイン。アプリコット、サフラン、ハチミツ、オレンジピール……次から次へと香りの要素が浮かんでは溶け込んでいく。上品さとデカダンスの共演というイメージ。口の中ではトロリとして密度が高く、液体なのに固体を含んでいるような錯覚に陥る。

FATTORIA ZERBINA
Via Vicchio, 11 48018 Faenza – Ravenna
http://www.zerbina.com/

(つづく)

【取材協力】
Enoteca Regionale Emilia Romagna

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