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大御所シェフのいつものごはん
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30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

卓越した技術・味覚・知識を持つ料理界のトップランナーが、行きつけの飲食店を明かす連載「大御所シェフのいつものごはん」。今回の大御所シェフは、二回目の登場となるフレンチレストラン「マッシュルーム」のオーナーシェフ山岡昌治さん。オススメの店は東京・目黒にあるイタリアン「SABA」です。

今回の大御所シェフ

30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

山岡昌治さん(やまおか・しょうじ)
1956年、愛媛県松山市生まれ。今年で28年目を迎えたフレンチレストラン、恵比寿「マッシュルーム」のオーナーシェフ。23歳で料理の世界に入り、27歳で渡仏。16世紀に創業したフランス随一の老舗「トゥール・ダルジャン」など多くの名店で約5年修業。料理界屈指の「キノコ博士」として知られ、1年を通してそれぞれの季節が旬の野生種、希少価値の高い栽培種を活用している。「マッシュルーム」はフレンチの枠を超え、全国からキノコ好きが集まる店としても有名。

 

オススメの飲食店

30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

SABA
東京・目黒にあるイタリアバル。前菜約10種、パスタとメイン各5〜6種のなかから、そのときの腹具合に合わせて好きに選べ、グラスで頼めるワインも充実。旬の食材を使った一期一会のメニューも多い。

 

噂以上のうまさ 絶品のトリッパ

キノコに関して博識なだけでなく、みずから山へ採りに出かける実践派でもある山岡さん。富士山麓(さんろく)での採集に同行取材したことがあるが、樹木や草がうっそうと茂る森林から、目当てのキノコを見つける鋭敏な感覚には目を見張らされた。

山岡さんがおいしい店を見つける感度も、キノコに負けず劣らず。下目黒の「SABA」は、トリッパ(牛胃の煮込み)が絶品という評判を聞きつけて訪ねてみたら噂(うわさ)以上で、シェフ勝瀬耕治さんの非常にていねいで個性あふれる料理作りも気に入り、ちょくちょく寄るようになった。

30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

目黒通り沿い、真っ赤なドア枠が目印。詩人の名前をそのまま店名にした

SABAという店名は、「20世紀イタリア最大の詩人」と呼ばれるウンベルト・サバに由来する。場所はJR目黒駅、東急目黒線・不動前駅からそれぞれ約1キロと離れているが、山岡さんは店が終わると目黒から歩いてきてワインと料理を楽しみ、祐天寺の自宅まで歩いて帰るのが常。さすが山で鍛えているだけある。

トリッパは、牛の第2胃ハチノスをトマトソースで煮込んだ料理。たいがいのイタリアンにある定番だけに、それが絶品というのは、聞き捨てならない。

できあがった姿を一目見て、違いがわかった。通常のトリッパが、ハチノスがトマトソースにまみれた真っ赤な姿で出てくるのに対して、ソースはからんでいる程度で色は薄いオレンジ。かわりに薄く削ったパルミジャーノ・レッジャーノ(パルメザンチーズ)とイタリアンパセリがたっぷりかかっている。勝瀬さんによると、作り方は「完全な自己流」。

30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

「トリッパのトマト煮込み」1290円。下ゆでから煮込みまで全工程5時間かけて作る

「トマトトマトしていなくて、ハチノスを食べているという実感がある」と、山岡さん。ひと言でいうと「きれいな味」で、「すいすい食べられ、もっと食べたいと思っちゃう」そうだ。

内臓料理がきれいな味なのは、下ゆでや煮込みに見えない手間をかけている証拠だ。重視するのは全体のバランス。野菜の甘みと香草の香り、トマトソースと塩味がひとつも出しゃばることなく、ハチノスの食感と味を引き立てなければならない。

「絶品と褒められるのはうれしいですが、次にがっかりされないよう、プレッシャーを感じます」という勝瀬さんに、「いや、いつ食べてもおいしい。味が安定しているのは、自分の核になるものを持っているからだよね」と山岡さん。

 

徳島県阿南市生まれの勝瀬さんが、料理人を志したのは30歳と遅かった。地元の花屋で働いていたが、町を歩いているとき突然「あ、そうだ。イタリア料理のシェフになろう」とひらめいたのだそうだ。

それまでイタリア料理を食べた経験も、イタリア文化との接点もなく、理由はいまだにわからないが、ともかく人生で「なにかになろう」と思ったはじめての体験だった。

徳島のイタリア料理店で1年間働き、すぐイタリアに渡って2年修業。調理技術は未熟でも目的意識がはっきりしていたので、修業は「初日から死ぬほど楽しかった」という。

30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

30歳でイタリア料理の修業をはじめ、11年で目標のオーナーシェフになった勝瀬耕治さん

他業種から転身したのは山岡さんも同じで、アパレルの仕事から23歳で料理の道に入った。「ゼロからのスタートだから、自分が急速に進歩していく確信が得られて、最初からおもしろかった」という。勝瀬さんも、自分に必要なものを乾いたスポンジが水を吸うように吸収し、イタリアで核になる味をつかんだのだろう。

勝瀬さんいわく「ひと皿のなかに、南北イタリアの飛びきりおいしいものを詰めこんだ」のが、前菜盛り合わせ。手前のスプーン上は、南部でしか採れないチェリー型赤トウガラシに自家製ツナとシチリア島産の塩漬けケッパーをのせたもの。北部の工業都市に出稼ぎに来た南部の人が、故郷を懐かしみながら作ったのがはじまりの料理だそうだ。

「ピリッとして、スターターとして最適」と山岡さん。サラダの手前の生ハムはプレスせずに熟成させた最上級のパルマ産、横には産地の異なる2種類のサラミ。手前のモッツァレラは水牛のミルク製と、材料は惜しみなくぜいたくなものを選び抜いている。

30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

「前菜盛り合わせ」1690円。その日にある冷たい前菜すべてを盛ったお値打ちなひと皿だ

鮎の味が躍動するパスタ、素材のうまさを再発見する肉料理

30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

「鮎とボッタルガのタリオリーニ」1580円。パスタメニューにはスパゲティと手打ち、海の幸と山の幸がバランスよく並ぶ

イタリアのパスタ事情をざっくり説明すると、南部はスパゲティなどの乾麺を使うことが多く、中部から北部にかけては手打ちパスタ作りが盛ん。北部ピエモンテ州の郷土料理店で土地の珍しい手打ちパスタ料理を学んだ勝瀬さんには、アニョロッティ(小さな詰めものパスタ)やタヤリン(細切りの卵麺)をはじめ、得意とするレパートリーが多い。

タリオリーニは、コシが強い卵入りの細麺。ソテーした鮎(あゆ)の身と内臓、ツルムラサキ、トマトであえ、ボッタルガ(イタリアのカラスミ)のパウダーを上からたっぷりかけてある。川の魚と海の魚の出会いのひと皿だ。

ひと口食べた山岡さん、即座に「しっかり鮎ですよー、という味だね。わたの苦みもちょうどよく効いている」と、満足そう。ツルムラサキ独特のぬめり、土の香りと鮎の相性も素晴らしい。実は山岡さんのスペシャリテのひとつが「鮎のムース」で、しばらく二人は鮎の骨からとるだし談議で盛り上がった。

30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

鮎には一家言ある山岡さんが、このタリオリーニには大満足。「香魚」の別名を持つ鮎の香りが麺にしみわたっている

SABAのメインディッシュは肉一本で5、6種類がメニューに並ぶ。ベルガモ(ミラノの北東にある街)の2つ星店で肉担当シェフをつとめた勝瀬さんの、肉に対する自信と愛着が伝わる料理ぞろいだ。

山岡さんから「どれもシンプルで、火入れの加減が抜群」と聞いていたが、出てきた鹿肉ソテーの想像以上のシンプルさに驚いた。強火で一気に焼き、しばらく休ませて肉汁を落ち着かせる。味つけは塩だけだ。

30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

「九州鹿ロース肉のソテー」2600円。夏の鹿の繊維質が細かくて上品な赤身肉を、塩だけで爽やかに味わう

勝瀬さんは、夏は九州大分産のキュウシュウジカ、冬は北海道産のエゾシカと、季節によって鹿肉を使い分けている。日本に生息する7亜種のうち体が最大のエゾシカの肉は味が濃く、鉄分の風味が強いのに対し、ひとまわり体が小さいキュウシュウジカの肉は繊細で、あっさりしていて夏向けだ。味の違いは、同じ鹿肉と思えないほど大きい。

山岡さんは、「ここまでシンプルだと、知っている素材でもどんな味だったのか、再発見できますね」と感慨深げだ。フランス料理では、ひとつの料理にひとつのソースが基本。毎日、何種類ものソースを作っている山岡さんにとって、ソースなしでおいしい肉料理を食べることは、ソースの意味や存在理由を考え直すきっかけになるという。

しめのデザートは、シロップで煮た桃と、ハチミツジェラートの組み合わせ。シロップには、黒こしょうとシナモン、ジュニパーベリー(ジンの香りづけに使うスパイス)が効かせてある。勝瀬さんのデザートは、どんなに料理とワインで満腹していても、するすると喉(のど)を通るくらいのソフトさが特徴。かまずに飲めるのが理想だそうだ。

30歳で突然ひらめきイタリアンのシェフに 素材を生かしためくるめく「自己流」料理

「桃のコンポート ハチミツのジェラート」680円。果物は皮と身のあいだがいちばんおいしいという考えから、皮はむいていない

緊急事態宣言下の休業中、勝瀬さんは毎日店に通ってこれまで作ったことのない和洋中の料理の試作を繰り返した。イタリア料理との違いを発見するなど、気づきの連続だったという。ふんだんに考える時間が持てたなかで、普段ではありえないような「思いつき」も得られたそうだ。

外食業にとってこれ以上の試練はないコロナ禍だが、ピンチにめげず、前向きに自分の料理を見つめ直している勝瀬さん。その手から繰り出される味は、さらに個性をきわめていくことだろう。突然のひらめきでシェフになった人だから、今度の思いつきがどのように結実するかも、心待ちにしよう。

(写真・小島マサヒロ)

店舗情報

SABA
東京都目黒区下目黒4-11-21 ケープハイム目黒101
JR「目黒」駅、東急目黒線「不動前」駅より徒歩10分
03-3715-3880
18:00~ *閉店時間は未定
定休日:月曜
Facebookページはこちら

山岡昌治シェフのお店

恵比寿マッシュルーム
東京都渋谷区恵比寿西1-16-3 ゼネラルビル恵比寿西101
JR、日比谷線「恵比寿」駅 徒歩4分、東急東横線「代官山」駅 徒歩6分
03-5489-1346
営業時間:12:00~15:30(L.O. 14:00)/18:30~23:30(L.O. 21:00)
定休日:月曜、不定休あり 
公式サイトはこちら

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