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20代ミュージシャンが語る“譲れない価値観”
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「違和感の中に私が伝えたいことがある」 和田彩花がアイドルを名乗り続ける理由

10歳からアイドル活動を始め、昨年までモーニング娘。’20などを抱えるハロー!プロジェクトのアイドルグループ「アンジュルム」に在籍し、ハロー!プロジェクトの6代目リーダーを務めた和田彩花(以下、和田)。

彼女が長年活動の拠点とするアイドルの世界では、「こうでなければならない」という規範が強く存在する。「若くなくてはいけない」「恋愛してはならない」「従順でなければならない」「可愛らしくなければならない」……。

時代の変化とともに、結婚を公表したり、バラエティー番組で毒舌を披露したりするようなアイドルも増えているが、その度に「型破り」「前代未聞」としてニュースに取り上げられている様は、これまでの抑圧の強さの裏返しではないだろうか。

和田も、グループ在籍時からジェンダーの視点をもった「アイドルらしからぬ」発言が目立ち、良くも悪くも注目された一人。彼女の現在のホームページには「私が女であろうが、なかろうが、私がアイドルであろうが、なかろうが、私の未来は私が決める」という言葉が最初に表示される。

「自分自身のカラダや生理について気がねなく話せる社会」を目指す「#NoBagForMe」プロジェクトにも参加し、ますます社会的なメッセージを発する場を増やしている彼女。

グループを卒業し、個人として発言する自由度も高まった今もアイドルを名乗り続ける真意はどこにあるのか。

ジェンダー規範について考えるきっかけとなったアートとの出会い、改めて考える自由の形など、20代の折り返し地点を疾走する26歳の彼女に語ってもらった。

先入観を打ち壊した美術との出会い

和田がハロー!プロジェクトのオーディションを受けたのは2004年、10歳のころ。歌やダンスのレッスンには通っていたものの、アイドルになりたいとは思ってもいなかったという。憧れ、目標にしたアイドルがいたわけでもなかった。

母親の勧めでオーディションを受け合格、デビューを目指す研修生「ハロプロエッグ」としてレッスンや新人公演に出演する毎日が始まった。

09年に「スマイレージ」(14年に「アンジュルム」に改名)でのデビューが決定し、リーダーに就任。「日本一スカートの短いアイドルグループ」が当初のキャッチコピーだった。

「今考えれば色んな危険性を孕(はら)んだキャッチコピーだと思いますが、当時は単純に『お洒落でかわいい衣装が着られてうれしい』と思っていました。他のグループの子に羨(うらや)ましがられて、ちょっと誇らしかったですね」

スマイレージがデビューするのとほぼ同じころ、高校1年生になった和田は人生を大きく変える出来事に遭遇した。

「偶然、お母さんと一緒にエドゥアール・マネ(19世紀フランスの画家。印象派に大きな影響を与えた)の展覧会に行きました。そこで見た『死せる闘牛士』という絵が、本当に衝撃的だったんです」

この絵は一人の闘牛士が胸に手を当て横たわっている様がキャンバス一杯に描かれている。これを見た瞬間にそれまで持っていた「美術=きれいなもの」という先入観が崩され、アートが表現できることの豊かさに心がときめいたという。

これを機に様々な画家や芸術家の展示に出かけ、図録を買い、関連書籍を読むようになると、興味の的は次第に芸術家そのものに。

芸術家たちは何を考え、どのように生きたのか。より深く知るために、アイドル活動と並行して大学へ進学し美術史を専攻、大学院にまで進むことになった。

男性中心主義にもとづくアイドル像に抵抗する

美術を学べば学ぶほど、アイドル活動のなかで疑問をもつようになっていった。 

「美術史を勉強することで、芸術家や芸術作品は彼らが生きた時代の社会と常に密接な関係にあることを知りました。また、現代アートで扱われていたジェンダーやフェミニズムなどにまつわる社会問題を知ってから、 私もそれらの問題を身近に感じるようになったんです」

美術の世界では女性画家の存在は長い間陰に隠れてきた。「巨匠」として歴史に名を残しているのは男性ばかり。歴史に埋もれてしまった女性アーティストを再発見し、彼女たちの活動の場を広げる取り組みとして1960〜80年代に「フェミニズムアート運動」が起こった。

こういったジェンダーの不均衡を美術を通して学んだ時、和田は自分を取り巻く環境の不自由さにも自覚的になっていった。

衣装やCDジャケット、ミュージックビデオなどの作品を制作する過程で、様々な場面に男性中心主義的な目線を感じとるようになった。

アイドルを始めた幼いころは気にもかけなかったが、和田の胸中に芽生えた違和感は日に日に大きくなっていったようだ。

「例えば、髪形やメークにも男性目線に基づく価値観が反映されていました。髪をちょっと派手な色に染めたり、濃いめのメークにしたりすると『不自然だ』と言われてしまう 環境がありました。そういう価値観の下では、純粋なイメージを想起させる見た目が『自然』なんですよね。メークやファッションに興味が出てきて、外見で自己表現し始める年頃なので、そういった主体性を制限されることには違和感を感じていました」

当時中学生だったアンジュルムのメンバーのブログに、ファンから「口紅が濃い」というコメントが多数届いたことがあった。彼女はそれを受け「これからは年相応を目指します」とブログを更新した。

直後のライブのMC中にスタッフもファンも見ている前で、和田は彼女に「これからも好きな色のリップ塗りな」と語りかけた。「あなたの自由を奪う規範に従う必要はない」という力強い宣言だ。

「次の世代のために、アイドルを取り巻く環境をよくしたいという気持ちはありますね」 

しかし、和田は自分の考えを伝え、後輩たちを啓蒙(けいもう)しようとは思っていないという。

様々なものに触れ、感受性を育てていく大事な時期に、一つの思想を押し付けることはある種の洗脳になってしまうからだ。和田は彼女が美術と出会ったことによって新しい考え方にアプローチしたように、後輩たちにも自発的に何かにたどり着いてほしいと願う。

Zepp Tokyoでおこなれたワンマンライブ『和田彩花 2020 延期の延期の延期』

2020年8月1日にZepp Tokyoでおこなれたワンマンライブ『和田彩花 2020 延期の延期の延期』

「キュートで清純な、いわゆる“一般的なアイドル像”に憧れてアイドルになり、活動することに喜びを見いだしている子たちもいます。それを否定してはいけないと思うんです。育った環境や考え方、アイドルを好きになったきっかけも違う。私のやり方だけが正しいとは言えません。その人が自分で選び取ったものであれば素晴らしいし、応援したいです」

自分をアップデートしてより自由に生きる

アンジュルムを卒業し、より自由に発言できるよう、個人のSNSアカウントも開設した。「#NoBagForMe」などの活動にも参加し、アートへの愛を語る機会も増えている。

しかし、まだまだ抑圧を感じることも多い。

そんな折、和田は自分の中の「自由」という概念が変化していることに気付いたそうだ。

「これまでは『自分の好きな仕事を思う存分やれる』っていうことが自由だと思っていたんですが、ちょっと違うかなと思えてきて。もしかしたら『女の幸せは結婚と出産』っていう社会規範や価値観に抵抗することでしか自由を見出せなかったのかもしれません。抵抗すること自体に意味を見出していたというか。今後は仕事とプライベートの両方をバランスよく充実させたいと思うようになりました」

図らずも一般化したリモートワークも、和田には合っているという。時間や場所にとらわれず、プライベートを犠牲にすることなく自分のペースで仕事ができる。この取材もリモートで行われ、和田は自宅から参加した。インタビュー開始直前まで家事をこなしていたそうだ。

配信で行われたライブでは、バックバンドのメンバーを後ろに従えるのではなく、円になりみんなで向かい合いながら演奏するなど、新しいことを試すことも楽しんでいる。

Zepp Tokyoでおこなれたワンマンライブ『和田彩花 2020 延期の延期の延期』

2020年8月1日にZepp Tokyoでおこなれたワンマンライブ『和田彩花 2020 延期の延期の延期』

「最近、同年代の友達が結婚や出産することが多くて、おのずとそういったことに興味を持つようになってきました。今までの自分はこういったことにあらがってきたので、自分のこととして捉えてこなかった。でも、改めて自分の体に妊娠という機能が備わっていると思うと、わからない知らないでは済まされないなと思いました。自分の体のことなのに、こんなに無知だったのかと思うとちょっとゾッとしましたね」

かたくなだった自分に向き合い、より自由に生きていくためにアップデートしていく。変化を恐れない姿勢はとても軽やかだ。

「私が今でもアイドルを名乗ることによって、眉をひそめる人もいるし、違和感を覚える人もいると思います。でも、その違和感の中に私が伝えたいことがあるし、問題提起になっていくと思う。だから、私はこれからもアイドルを名乗りながらどんどんアクションしていきます」

そう語る和田の真っすぐな目は、色々な人々がもっと自由に生きていける社会を見据えている。

(文:張江浩司 画像:© 2019 YU-M Entertainment Co., Ltd.)

プロフィール

和田彩花(わだ・あやか)

1994年生まれ、群馬出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。10年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。19年6月18日をもって、アンジュルム、およびハロー!プロジェクトを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せ、美術に関する連載やイベント出演も多数。

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