こだわりがあっても、とらわれない そんな自由なサブカルチャーの空気が茅ケ崎に カフェ「BRANDIN」

茅ヶ崎の住宅街の中の一軒家。ミュージックライブラリー&カフェ「BRANDIN(ブランディン)」の扉を開けて、今日もお客さんたちが、そぞろにやってくる。遠くの地から、近所から、音楽の話と、何てことはない世間話をするために。
(→前編から続きます)
カフェの営業は、金曜から火曜までの午後1時から6時まで。メニューはコーヒー、紅茶、カフェオレ、ビールとシンプルで、食べ物は出していないが、ここには約1万枚のLPレコードコレクションを中心に、あふれんばかりの音楽の泉がある。
ピンク・フロイド、ジョン・レノン、山下達郎……。LPならではの少しくぐもったアナログな音が流れる中で、お客さんを迎えるのはBRANDINの主人、宮治淳一さん(65)の妻ひろみさん(58)だ。
淳一さんとの出会いは、新卒で入社した音楽ソフト企業だったというひろみさんは、自身も筋金入りのミュージックラバーだ。大学時代にアルバイトをしていた西新宿の中古レコード店は、音楽通が通う場所として有名で、1970、80年代サブカルチャーの自由で知的な空気に満ちていた。
サブカルチャーは、こだわりがあっても、とらわれないという、自在な人生のありかたに通じる。90年代後半、淳一さんの赴任に伴ってロサンゼルスに暮らした後、茅ヶ崎の自宅でこのミュージックライブラリー&カフェを2人で開いたときも、「カフェができたら面白いね」と、自然な流れだったと、ひろみさんはいう。
そこには淳一さんと同じく、アメリカで体験したブックカフェへの思いがあった。
「地元の小さなカフェだけでなく、大手の書店でもソファを置いていて、自由な雰囲気にカルチャーショックを受けました。人々が本や音楽を介してひとつの場所に集って、ゆるくつながっていく。そんな発想がすてきだな、と」
近年では、ブックカフェやミュージックカフェとともに、縫い物、繕い物、刺繍(ししゅう)などの手仕事にいそしめる「ソーイングカフェ」も、人々を媒介するものとして人気を集めている。
BRANDINでは、カフェの定休日である木曜日に、隣の藤沢市内に住む磯部尚子さん(65)、岡崎昌代さん(61)が1日オーナーとなり、「ソーイングカフェ 縫い」を開いている。
もとは2人とも、BRANDINのお客さん。磯部さんはアパレルのパタンナーとして、ウェディングドレスの制作を手がけてきた人で、岡崎さんは屈指の音楽好き。フランス在住の友人から、パリで人気のソーイングカフェの話を聞いた磯部さんが「ミシンを使えるカフェを近隣でも催したい」と考えたことが発端だった。
「でも、普通に物件を借りると高いですし、1週間を通しての営業もできません。そんなことを、カウンター越しにひろみさんに話していたら、『だったらウチでやれば!?』と、話がトントンと決まったんです」(磯部さん)
店内には、直線縫いミシン、ロックミシン、刺繍(ししゅう)ミシンと、洋裁道具を備え、お客さんは布だけ持ってくれば大丈夫。普段はひろみさんが立つキッチンでは、岡崎さんが木曜日用のメニューを用意して、カフェをまかなう。
私たちが訪ねた日は、ひろみさん自身もコットンドレスに取り組み、参加者がわきあいあいと手を動かしていた。そのかたわらでは、常連のお客さんがコーヒーを1杯。自室でテレワークをしている淳一さんも、ふらっと来ては、コロナ禍のご時勢における日本政府のふがいなさをサカナに、一席ぶっては、またふらっと自室に戻っていく。
茅ヶ崎という開けた街に、ひろみさんの悠揚とした度量が重なり、湘南の日常がひときわ明るく感じるのだった。
BRANDIN(ブランディン)
〒253-0031 神奈川県茅ヶ崎市富士見町1-2
TEL:0467-85-3818