過去と未来をつなぐ、現代工芸に出会うギャラリー「toripie KYOTO」

インテリアや暮らしに、小さなアートを取り入れることができる、現代の作り手による工芸。数ある京都のギャラリーやうつわの店の中でも、都会的で凜(りん)としたセレクトに出会えるのが「toripie KYOTO(トリピエ キョウト)」です。うつわや洋服といった実用的なものから、たたずまいを味わうオブジェや骨董(こっとう)まで、暮らしに溶け込んで完成する作品は、選ぶ側の感性も自由になれるもの。心に響くひと品を探しに、扉を開いてみましょう。
現代工芸にも通じる、骨董の美しさを感じて

1階の少し奥まった一室にある。目立たぬ場所ながら、遠方から訪ねてくる人も多い
マンション1階奥のフロアに、ひっそりとたたずむ「toripie KYOTO」。無機質な店内をゆるやかに仕切る金属線が、心地よい緊張感とクリアな視点をもたらす空間です。窓の向こうには、時折柔らかな木漏れ日がさす坪庭が。植物の造形や色、季節によって変わる光の表情が、構築的な内装の中でひときわ目を引きます。

ところどころに使われた細い金属製の什器(じゅうき)や仕切りが、凜とした空気を生む
シンプルで現代的な空間に並ぶのは、陶磁器、ガラス、漆器などの現代の作り手の工芸と、国内外からセレクトした上質なアパレルブランドの衣服、そしてところどころに百年以上前の骨董品。キリッとモダンな造形の品もあれば、土の表情や火の勢いを物語るようなプリミティブなものも。余白を豊かにとったシンプルなディスプレーは、一つひとつの作品とアートのように向き合う時間を生みます。

衣服は、京都在住のデザイナーが手がける「TALK TO ME」、上質な素材とたおやかなパターンの「humoresque」といった国内アパレルブランドのほか、日本では取り扱いの少ない海外ブランドも並ぶ

カウンターの照明はガラス作家・辻野剛氏の作品。個展開催の際にはオーダーも可能
「子どものころから、家の中にまつわることが好きだったんです。自分のできる範囲で、家具や装飾品を作ったり手を加えたりして楽しんでいました。大学では建築や家具の設計を学んでいたのですが、だんだんと、自分は作るより選ぶ方が向いているなと感じるようになって……。おのずと、作家の作品やその人間性に惹(ひ)かれるようになりました」
そう話すのは、オーナーの鳥越智子さん。京都店に先駆けて営んでいた大阪の「toripie」で、骨董の買い付けや販売、作家の展覧会などを手がけるうち、「もっと広々とした空間で、現代の作り手を紹介したい」と京都店をオープンしました。大阪店が古物中心であるのに対し、京都店は現代作家の作品が中心で、うつわや衣服など、より生活に結びついたアイテムを扱うギャラリーショップ。月に約1度のペースで個展や企画展を行うほか、常設の品々もtoripie流のもの選びに感性を刺激されます。
作り手の意思が宿る品を、暮らしの中へ

11月21日(土)〜12月6日(日)個展を開催する、土本訓寛氏・久美子氏の作品。夫の訓寛氏が成形を、象嵌(ぞうがん)という技法による絵付けを久美子氏が手がける
「流行に迎合せず、自分の意思を持って活動する作り手と仕事をしたいと思っています。とりわけ、クラシックとモダンのバランスをうまく取った作品に惹かれます。古いものを知り、自分の糧とし、現代の目線を持ってものを生み出す作家の作品を知っていただけたら」

「TALK TO ME」の定番のブラウス。シックな形ながらも新しさと意思の強さを感じるデザイン
古くは縄文時代の土器から、数世紀前の西洋の時祷書(じとうしょ=中世の装飾写本)、「李朝」として知られる朝鮮王朝の工芸品まで、時代や国の垣根なくさまざまな古美術品にふれてきた鳥越さん。その審美眼が、現代の作家のものづくりに共感し、選び、編集する力の源になりました。「toripie」で現代の工芸に出会う私たちが、さかのぼって、古くから受け継がれる美意識を知ることも少なくありません。

店内には少量だが鳥越さんが買い付けた骨董も。15世紀フランスの時祷書は額装して絵画のように眺めたい
「30代くらいまでの若手の作家は特に、用途の無いものやあいまいなものを作られる方が多いのではないでしょうか。情報の多い時代の中で、ご自身が格好良いと思う表現を選んで、悩みながら形にされていると思います。私はそれも、ものづくりの過程の一つだと思っています。最終的に、ご自身がどういうものを作りたいと思うようになられるのか、それを見つめていられるのは楽しいことです」

ショーケースにはジュエリーが並ぶ。控えめながら存在感があり、取り扱いの衣服とも相性が良い
古典や名作から学び、時に同時代の作り手と刺激を受け合いながら、自分らしい表現を探る作り手の姿勢。作家としての変化や成長をつぶさに見ることができるのも、現代工芸ならではの喜びです。

シンプルで余白を残したディスプレーは「どこに飾ろう」「どう使おう」と想像力をかきたてる
訪れた人は、作品とじっくり対話しながら、暮らしに寄り添うひと品を迎え入れる。日々の食卓でお茶をいれたり、花を生けたり、背筋が伸びるようなシルエットの衣服をまとったり……。そこには、ものを選び、使う人の暮らしがするりと溶けこむ、余白があります。さらに、作り手の人物像や作品の背景をひもといてみると、思わぬ物語に出会うかもしれません。アートと暮らしをつなぐ、過去と未来をつなぐ「現代」の工芸の豊かさに、ぜひふれてみてください。
toripie KYOTO
https://www.toripie.com