美しきインドの日常
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インド北部の辺境 崖の上にたたずむ僧院<11>

インド北部の辺境・ザンスカール地方に住む人々の大半はチベット仏教を信仰している。僧侶たちが暮らす僧院は「ゴンパ」と呼ばれ、農民が暮らす集落から離れた険しい岩山や崖の上に建てられていることが多い。俗世間からできるだけ離れた場所で、修行に集中するためなのだろう。

インド北部の辺境 崖の上にたたずむ僧院<11>

ストンデ・ゴンパで行われていた勤行の様子。朝と昼と晩、1日3回の勤行は1時間以上続く(撮影:三井昌志)

僕が訪れたストンデ・ゴンパも、標高3800mの岩山の上に建てられていた。この僧院には約20人の僧侶が静かに暮らしている。朝昼晩1日3度の勤行(ごんぎょう)を行い、それ以外の時間は仏教の勉強や瞑想(めいそう)をして過ごしているという。

僧院の食事はきわめて質素だった。主食は「ツァンパ」と呼ばれる大麦を煎って粉にしたもの。これにバター茶やお湯を加えて手でこね、団子状にしてから、野菜をヨーグルトであえたおかずをつけて食べる。冬になると野菜はほとんど手に入らないので、ヤクから搾るミルクと、チーズやバターなどで栄養を補っているそうだ。

9歳と12歳の少年僧たちの役割は、勤行中の先輩僧侶たちにお茶を注いで回ること。そして師匠についてお経を読み、仏教を学ぶことだ。ザンスカールでは、ごく最近まで「一家から一人は僧侶を出す」という暗黙のルールが守られていたという。僧侶になれば食事の心配をせずに勉強に集中できるので、僧院は貧しい農村の子供たちの教育機関としての役割を担っていたようだ。

インド北部の辺境 崖の上にたたずむ僧院<11>

ザンスカール地方にあるバルダン・ゴンパ。切り立った絶壁の上に建てられた僧院だ(撮影:三井昌志)

ザンスカールには、尼さんが住む尼僧院もいくつかあった。そのうちのひとつ、チューチグジャル尼僧院には、40人ほどの尼僧が暮らしている。僕が訪れたとき、尼僧たちは家畜のエサとなる干し草を運ぶ仕事をしていた。村で分けてもらった大量の草(25kgもの重量がある)を背負って、標高3800mの山道を登るのは、男性でもきつい仕事だ。尼僧たちは頻繁に休憩を取りながら、一歩ずつ進んでいく。

「今日は3往復もしたんですよ」と尼僧の一人は息を弾ませて言った。「大変な仕事だけど、これをやらなければ冬は越せないですから。尼僧院で飼っているヤクは、この草を食べてミルクを出すんです」

眼下には絶景が広がっていた。ほとんど木が生えていない荒々しい山並みと、麦の刈り取りを終えたばかりの畑、そして雲ひとつない澄み切った青空。

「実家は農家なので、こういう仕事には慣れています。尼僧になってからも、のんびり昼寝している暇なんてありません。草を運んだり、僧院を掃除したり、お経を覚えたり、やることがたくさんありますから。一番の楽しみは食べることですね。知っていますか? 集中してお経を覚えていると、とてもおなかが空くんですよ」

インド北部の辺境 崖の上にたたずむ僧院<11>

25kgもの草を背負って山道を登る尼僧。標高3800mでのハードワークだが、表情は明るかった(撮影:三井昌志)

ザンスカールの僧侶と尼僧たちは、日々複雑さを増していく現代社会から物理的にも精神的にも遠く離れた場所で、静かに暮らしていた。ただひたすら、お経を唱え、瞑想を深める日々。テレビもないし、携帯電話もつながらない。これ以上ないほどシンプルな暮らしだった。このような場所が、今もなおこの世界の片隅に残されていること自体が驚きだった。

「僧侶になって、私はとても幸せです」

ストンデ・ゴンパの住職をつとめるツィリン・プンツォさんは言った。

「毎日お経を読み、修行をする。そのことに集中していれば、悩みや不安は消え、穏やかで満ち足りた気持ちになります。我々がよい行いを積み重ねていれば、来世もきっと人間として生まれ変わることでしょう。それが私の望みなのです」

    ◇

インドに魅せられ、バイクで8周してきた写真家の三井昌志さんが、文と写真でつづる連載コラム「美しきインドの日常」。隔週木曜更新です。

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