平井かずみ×在本彌生 人もまた花なり
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手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん

フラワースタイリスト・平井かずみさんと写真家・在本彌生さんが、「有機的なものづくり」に携わる心ひかれる方々に会いに行きます。伺ったお話をもとに平井かずみさんがイメージした一輪の花を生け、在本彌生さんが写真に写します。

今回は、書家の華雪さんにお話を伺いました。

手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん
手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん

華雪(Kasetsu)
書家。1975年京都生まれ。92年より個展を中心に活動を続ける。刊行物に、京都新聞での連載をまとめた「石の遊び」(2003年、平凡社)、写真集やアートブックを多く手掛ける赤々舎から「書の棲処」(06年)、写真家ホンマタカシ氏ディレクションによるプライベートプレス「ATO 跡」(09年、between the books)などがある。
http://www.kasetsu.info

 

漢字一文字を書く仕事

一瞬の静寂を待って、一字を書く。体の中で蠢(うごめ)く思いが、筆の先まで伝わって、字というかたちで表現される。その書はそこからまた葉を伸ばす植物のように、エネルギーをたたえている。だから見る人の胸をうつ。

華雪さんは書家であり、一字の書を通して身体表現をする人。ライブパフォーマンスを含めた書の展示をさまざまな場所で行ってきた。

「この場所で何かを作ってくださいという依頼を受けることがなぜだか多くなりましたね。小さなギャラリーとか、築100年の蔵とか。11年前『こういう場所があるから展示していいよ』とお声がけをいただいたことがきっかけです」

「その空間の中に、二次元の書をどう飾るか考えたときに、壁にかけようとすると額がいるし、お金もかかる(笑)。空間を使ってどう表現したらいいかと試行錯誤の末、ライブパフォーマンスも含め、空間の真ん中に一枚の書を吊(つ)るすということを思いついたんです。苦肉の策ではあったけれど、吊るすと紙が揺れるということに後から気づいて。時間によって光が変わることで、見え方も変わるんです。光の透過によって紙自体の美しさにも気づくことができて、ああ、私はこういうことがやりたいんだと」

 

生命を感じる心と表現すること

そのひとつがあるだけで、場の空気をガラリと変えるものがある。日常の中でいちばん身近なものはきっと植物や花。例えばキッチンのグラスに一輪花を挿したとき、リビングの花器に花を生けたとき――。

命ある存在が一つあることで、その周りの空気が体温を持ち始める。そんな植物の力を感じたことがあるのではないでしょうか。華雪さんの一字も、一枚で場の空気を変える、そんな力を持っている。それはきっと、一字の中に、華雪さんの命の一片を見ているから。

「今、漢字一文字を書く仕事を続けていますが、思い起こすともう小学生の時に毎週やっていたんです」と華雪さん。もともとは妹の左利きを直すための習字教室に付き添いで行ったことが書の道へのきっかけだったそう。

手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん

「その先生の影響が今でもすごく大きいんです。近所の子ども書道教室だったのですが、いわゆる書道何級と昇級を目指していく教室とは違っていて。子どもの表現力をいかに伸ばすかということが主軸にあったんですね。だから多くの時間を割いたのは書を通した表現についてでした。たとえば『今週面白かったことを思い浮かべて、それを一文字で表現してみて』とか、『絵本を読んで感じたことを文字だけで表現して』とか。今思えば、大学の書道科で教わるようなことを小中学生で教えてもらっていたんですよね。『ただ書くんじゃなく、なんでそれを書きたいのか、そこが大事よ』と言われた言葉が今でもずっと響いています」

自分と向き合い、自分に問い、自分の内側を見る

なぜ書くのか、なぜその字なのか。それを自分に問いかけることで、自(おの)ずと自分と向き合うことになったと華雪さん。内側へ、内側へ。「それはかなり辛い作業だった」と言う。その内側のエネルギーは、間違いなく彼女の体と手の先を伝わって、人へ届くのだ。

そういえば、この一年はコロナウイルスの感染拡大によって、自分自身と向き合うことになった。家でどう過ごすのかという身近なことから、これからどう生きていくのかという未来のことまで。向き合うことは辛い。でも自分と向き合い、根っこを見つめることは、植物が根を張り、エネルギーを内側に溜(た)め込むことに似ているかもしれない。そしてそのエネルギーが青々とした葉を伸ばし、花を咲かせるように、外側に向かうエネルギーになる。華雪さんの作品のように。

手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん

華雪さんの文字には物語が潜んでいる。ただ文字を美しく書くのではなく、自分と向き合い、書を置く空間と向き合いながら、手と筆で魂を込める。ある空間に一枚の書が置かれた時、その空間の隅々まで、体温のようなものが充満する。彼女の佇(たたず)まいも彼女の書に似ている。だから私は、それを感じて、撮るだけ(在本彌生)

内側を見つめることは、気づけなかったことにも目を向けるきっかけにもなったと華雪さん。とある画材店でワークショップをしたときのこと。墨の原料である膠(にかわ)と煤(すす)を別々に混ぜて、自分で墨を作ることを思いついたのだそう。

「墨の研究者が店のスタッフにいたんです。自分が何気(なにげ)なく使っていたもののことを、あまりにも知らなかったことに気づいて。膠と煤を混ぜることで自分なりの工夫をすることもできるし、場所とのかかわり合いで、素材を調達することもできる。その場所の土を微細なものにして混ぜることもできる。自然を相手にできたら、もっと表現が広がったんです」

書を通じて出向いた場所で、素材を調達して、その土地の水と混ぜて。「水によっても発色が変わるから、その土地ならではの色になる」

手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん

写真左:華雪さん、右:平井かずみさん

書を書く場所の思いも内側に内側に。「そうやって歩み寄るのが好きなんですね」と言う華雪さんは、この日いちばんの微笑みを見せてくれた。そして、一拍置いたあと「そこまでくると、私のものであって、私でなくなることも書の面白さなんです」と華雪さん。

「書をはじめて40年たちますから、筆の技術は身についているんですね。だから、字を『どう書くか』とか『どんなかたちがいいか』みたいなことを落とし所にもできてしまう。でも最後はそれを捨て去って、その土地と墨と筆に任せて書く。そうすると作為の及ばないものが生まれるんです。書は生き物みたいだなあと思います。その予測不能なところに、ずっと私自身が惹(ひ)かれているのかもしれないですね」

彼女の書が植物のようである理由がわかった気がした。

平井かずみさんが生ける一輪の花 「露草」

華雪さんに選んだ花は露草(つゆくさ)。朝咲いた花が昼にはしぼむ特徴を持つ露草は英名で「Dayflower」、つまり一日花とも呼ばれている。一文字に魂を込める華雪さんの書。1日で命を全うする露草の花。短いからこそ感じる美しさを重ね合わせて。

手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん

華雪さんが書いた象形文字の「花」。露草の茎や葉の形と、心なしか似ている。植物が持つ普遍的な美しさを、人は文字にして残したのかもしれない。(平井かずみ)

手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん

(花生け・平井かずみ/撮影・在本彌生/文・竹田理紀)


「テヲ フル〓〓ワシテ カイテユク」 書・華雪 詩・赤塚豊子 展
会場:東根市公益文化施設
まなびあテラス 特別展示室
会期:2020年9月12(土)~11月8日(日)
開館時間:9:00~18:00/入場無料
https://www.manabiaterrace.jp/event/art-gallery/teofuruwasitekaiteyuku/

手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん

華雪作品集『ながれる』
書・文:華雪
http://colonbooks.com/portfolio/kasetsu-nagareru/
〈2019. 11〉size:182×128㎜ 64頁 並製本
発行:華雪
装幀:湯浅哲也
価格:2,200(税別)
store:HARUKAITO


平井かずみ(ひらい・かずみ)

手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん

フラワースタイリスト。ikanika主宰。草花がより身近に感じられるような「日常花」の提案をしている。東京を拠点に「花の会」や「リース教室」を全国各地で開催。雑誌や広告などでのスタイリングのほか、ラジオやテレビに出演。著書『フラワースタイリングブック』『ブーケとリース』『あなたの暮らしに似合う花』ほか多数。http://ikanika.com

PROFILE

  • 手と筆で魂を込めた一文字には物語が潜んでいる/書家 華雪さん

    在本彌生(ありもと・やよい)

    写真家。東京生まれ。大学卒業後外資系航空会社で乗務員として勤務、乗客の勧めで写真を撮り始める。複数のワークショップに参加、2003年に初個展「綯い交ぜ」開催、2006年よりフリーランスフォトグラファーとして本格的に活動を開始、雑誌、書籍、展覧会で作品を発表している。衣食住にまつわる文化背景の中にある美を写真に収めるべく世界を奔走している。写真集「MAGICAL TRANSIT DAYS」(アートビートパブリッシャーズ)「わたしの獣たち」(青幻舎)「熊を彫る人」(小学館)

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