ケーキのメレンゲをくしゃっと崩しながら、高まるティータイムへの期待 ブンブン紅茶店

鎌倉駅西口から西に向かう市役所通りの、トンネルをひとつ抜けた先。緑多い閑静な一角に、品のよいティールームがたたずむ。佐助の地で43年間続く「ブンブン紅茶店」だ。
階段をあがってポーチから店内へ。扉を開けると、イギリスのカントリーハウスのような温(ぬく)もりのある空間が広がっている。
メニューブックには、同店が定番とする「ヨークシャーティーゴールド」とともに、「2020年 ダージリンファーストフラッシュ タルボ農園」「2020年 ヌワラエリア クオリティシーズン」など、旬のおすすめが産地とともに並んでいる。「アッサム」「ウヴァ」「キャンディ」など豊富なラインナップは、店主の小木曽榮(おぎそ・さかえ)さん(62)と、姉でティーインストラクターの初鹿野(はつかの)みのぶさんがふたりで選び抜いた茶葉ばかり。
ポットでサーブされる紅茶のお供には、イギリスの伝統的なお菓子をベースに、オリジナルレシピでつくるケーキたち。おなじみのスコーンをはじめ、「ヴィクトリアサンドイッチケーキ」「レモンドリズルケーキ」など、メニューには10種類ほどがずらり。これに魅了されない人はいないだろう。
創業は1977年。当時、紅茶の専門店は、まちではまだ珍しかった。
「喫茶店といえば、今も昔もコーヒーが主流ですが、私の家は家族そろって紅茶党で、私も子どものころから紅茶好き。それが今にいたるまで続いているんですね」と、小木曽さん。情熱の原点は、創業時にインドの茶園まで足を運んで、目の覚めるようなフレッシュな紅茶を飲んだこと。
「ひと口に紅茶といっても、産地、茶園、収穫の時期などによって、味わいがまったく違ってきます。茶葉の向こうには、ワインと同じような奥深い世界が広がっている。これはやめられないな、と」
大英帝国が世界を制した時代に、インドやスリランカで収穫される紅茶は、本国イギリスに運ばれて、暮らしを彩る文化として花開いた。
イギリスには現在も、古き良き紅茶文化を伝える老舗がいくつも残る。そのひとつ、ヨークシャー州の「Betty’s(ベティーズ)」のあり方に共感を覚えると、小木曽さんはいう。
「全英に知られる人気店なのですが、ヨークシャー州以外の土地には店を出さないというポリシーをずっと守っている。自分たちの歴史と誇りを捨てないというのが、私が考えるイギリス流。そこに惹(ひ)かれますね」
地域に根付く伝統と文化を大切にする心意気は、小木曽さんが育った鎌倉の土地柄にも通じている。ブンブン紅茶店の立地は、観光客が行き交う駅前から離れた場所だが、だからこそ近所の人たちが安心して集まってくる。そして、そのコージー(くつろいだ)な雰囲気に誘われて、はじめてのお客さんも、ここでのひとときを楽しむことができる。
「個人経営の喫茶店は、いまや絶滅危惧種などともいわれていますが、いいお客さまに恵まれたおかげで、長く続けてこられたと思います。常連さんの中には、通算来店数が1300回以上という方も。1000回に達したときに記念のティーパーティーを開きましたが、それ以降もずっといらっしゃっています」
産地限定の茶葉だけでなく、オリジナルブレンドやチャイも種類が揃(そろ)っていて、それぞれにおいしい。はじめての人向けの、小木曽さんによるおすすめは、ヨークシャーティーゴールドの紅茶と、イギリス名物菓子「イートンメス」のブンブン流アレンジ、「スノーフレーク」の取り合わせ。
本場のイートンメスは、イチゴが旬の時期にメレンゲと生クリームを合わせて、「メス(かき混ぜて)」の状態でいただくものだが、ここではフルーツと生クリームの上に三角のメレンゲが載っているという、何とも面白い造形。くしゃくしゃっとかきまぜながら、紅茶の時間への期待が高まっていく。
ブンブン紅茶店
〒248-0017 神奈川県鎌倉市佐助1丁目13−4
TEL:0467-25-2866