「救われてはいけない」 ジェノサイドの性暴力から生まれた親子を記録した写真集を見て思うこと

(TOP写真:『あれから――ルワンダ ジェノサイドから生まれて』より、アリスとジャスティーン親子 (c)Jonathan Torgovnik)

「20世紀最大の悲劇の一つ」と言われる、1994年にアフリカのルワンダで起こった大量虐殺(ジェノサイド)。約100日間におよそ80万人が虐殺され、多くの女性が性暴力の犠牲となり、それによって妊娠、生まれた子は約2万人とも言われている。性暴力の被害者である母親と生まれた子。その親子30組を写したポートレートとインタビューをまとめた写真集『ルワンダ ジェノサイドから生まれて』が2010年に出版された。その10年後となる今年、前書に登場した30組のうち16組の親子に再びポートレート撮影とインタビューを行った『あれから――ルワンダ ジェノサイドから生まれて』が刊行された。

本書の刊行に際し、訳者の竹内万里子さんと社会学者の岸政彦さんによるオンライントークイベントが行われた。ジェノサイドの悲劇から25年、親子の言葉から私たちは何を考えるべきなのか。

前書となる『ルワンダ ジェノサイドから生まれて』が誕生したきっかけは2006年、Newsweek誌のフォトグラファーだった写真家ジョナサン・トーゴヴニクがルワンダを訪れた際に出会った女性・オデットだったと竹内さんは話す。

今年刊行された『あれから――ルワンダ ジェノサイドから生まれて』の表紙(右)とウラ表紙(左)。写真はどちらもアリスとジャスティーン親子

今年刊行された『あれから――ルワンダ ジェノサイドから生まれて』の表紙(右)とウラ表紙(左)。写真はどちらもアリスとジャスティーン親子

オデットは学生時代にジェノサイドで性暴力に遭い、息子のマーティンを出産する。オデットら被害女性たちの多くが目の前で家族を惨殺され、HIVにも感染していたという。精神的にも肉体的にもダメージを受ける中、子供が12、13歳に成長した当時も「敵の子を産んだ不名誉な存在」として家族や親戚から受け入れられず、十分なケアをされないまま村の外れで貧困を強いられていた。その後、トーゴヴニクはルワンダを再訪し30人の被害女性に交渉し、撮影、インタビューを行ったのが前書だ。竹内さんがその写真集と出合ったのは2009年7月、10月には日本で出版することを決め、2010年に日本語版を刊行する。

竹内 初めて見た時、ガツンとやられました。簡単にのみ込むことのできない何か、異物がそのまま異物としてありました。そのような表現方法を初めて見たような気がしました。単純な悲劇として語ることを超えた、ゴツゴツとした手触りがあり、これを日本の方に届けないといけない、と思ったのがきっかけです。

当時子供たちは自分の生い立ちを知らなかったが、その後、母親から事実を明かされる。12年後、トーゴヴニクは親子を再訪し、母親と20代になった子供たちに撮影とインタビューを行った。本書には、現在と12年前の親子の写真が掲載されている。以前と比べ、親子の表情はいくらかやわらいでいるように見えるが、まっすぐこちらを見る強いまなざしは変わらない。

——マーティン
僕自身、この事実を受け入れるのにまだ時間がかかることでしょう。単純に受け入れられるものじゃない。
——マーティンの母・オデット
息子との関係は良くありません。息子は私を尊敬していません。事実を伝えた時、私に同情したふり、気の毒に思ったふりをしました。

(本書のインタビューコメントより抜粋)

2018年のオデットと息子マーティン

2018年のオデットと息子マーティン

——トマス
性暴力を受けた結果、自分が生まれたということは、僕の乱暴なふるまいに影響していると思います。父親が暴行犯だと知って、とても辛かったです。殺人犯から生まれたという烙印(らくいん)を押されたように感じました。
——トマスの母ジョゼット
本人に父親のことを伝えると、はじめはひどく乱暴になりました。私から聞いたことを受け入れるのに、とても苦しんでいました。彼は私と同じトラウマを経験したと思います。

——アリス
打ち明けられて以来、母との関係は良くなりました。母が私を産んだことには、もう一つ理由があったように思うんです。つまり、私が母の世話をして養うということです。おそらく私がいたからこそ、母は生きて一生懸命働こうと思えたでしょう。
——アリスの母・ジャスティーン
娘が学校に行けているのは、私自身が立ち直るために大事なことなんです。おかげで生き続けるための希望と理由を得られたと思っています。

(本書のインタビューコメントより抜粋)

左は2006年のアリス、右は2018年のアリス (c)Jonathan Torgovnik

左は2006年のアリス、右は2018年のアリス (c)Jonathan Torgovnik

竹内 親子それぞれ、一人ひとり考え方がバラバラなんです。時間が経ったから希望が見えてきたという人もいるし、子どもを愛せないという母親もいる。たくさんの困難を抱えている。トラウマはずっと続いていくものであり、ハッピーエンドはないんです。そうであっても気をつけたいのは「ルワンダ=ジェノサイドの悲劇」と決めつけてはいけないということです。そこに生きている個々の方が苦しみながらも生きているという、その強さを受け止めることが大切だと思っています。

岸 戦争や事件のトラウマ描いた時、「どう乗り越えたか」が注目され、「こうしたらいい」と答えを求められがちです。トラウマとリカバリーがセットで描かれるケースも多いのですが、それはとても複雑で一言で言えないほど難しい。「トラウマからの回復」「親子の愛情」「子供への愛」みたいな簡単な物語にして、安易に理解しないでほしい。私たちが勝手に解釈して、救われてはいけないんです。

オンライントークを行う社会学者の岸政彦さん(左)と翻訳者の竹内万里子さん(右)。竹内さんは本書の出版を迷った時、岸さんの一言に背中を押された

オンライントークを行う社会学者の岸政彦さん(左)と翻訳者の竹内万里子さん(右)。竹内さんは本書の出版を迷った時、岸さんの一言に背中を押された

性暴力は、特殊な状況下で起こると思われがちだ。別世界ではなく「日常にあるもの」と2人は声をそろえる。

岸 性暴力は、男性の問題だと思います。前書を読んでいても、ほとんどの方が集団で暴行されています。セクシュアルなものでなくパワー(権力)、一人前の男であることを競う競争やパワーを仲間に見せつけるために性暴力を行うんです。僕が研究している沖縄戦の記録でも、戦時下での性暴力や慰安所の記録が残っています。それはエクストリームな戦時下だけではなく、戦争が終わった後の日常にもある。発展途上国の愚かな集団行動や暴走ではない、特殊な状況でないと思いました。

竹内 この出来事は、他の時・他の場所へつながっていくものです。特に1冊目を出した時は、ルワンダで起こったことが、読む側にとって地続きの話に感じられるかどうかを強く考えていました。ルワンダは特殊でない、自分と切り離された何かではないことを実感してもらうことが重要な課題でした。

2018年のアネットと息子ピーター (c)Jonathan Torgovnik

2018年のアネットと息子ピーター (c)Jonathan Torgovnik

トラウマから回復した母、できない母。子を愛した母、愛せずに葛藤する母。母親につらく当たる子、母親をいたわる子。途方もない人生を生きる親子の姿から、私たちは何を学び、どう行動すべきなのか。

竹内 ルワンダのために何かする必要はない、というのは語弊があるんですけど、それを受け止めた自分のために何かをしてほしいです。何であってもいい。もちろん被害女性の子供たちへの教育支援の寄付をするのもいいのですが、寄付が正解というわけでもないんです。一人ひとりのアクションは異なっていい。答えになるアクションは、人それぞれにある。それを背負いすぎないでほしいですね。

岸 安易な理解はしないでほしい。そんなに無理して世界の役に立とうとしなくていいんだし、それに集中しすぎることで利用されないように気をつけてほしいです。

竹内 解決したくても、簡単に解決できない現実もある。だからこそモヤモヤを抱え続ける勇気、すっきりしない勇気を持つことも大切だと思います。しかも、理解することを強制することもできないと思うんです。ルワンダで起きたことは強制、つまり義務から行われた殺人でした。「ねばならない」から行動する怖さをジェノサイドは教えてくれます。だから自分の意思でページを開き、読む、もしくは写真を見るだけでもいいんです。義務感によってではなく、自分の意思で一人ひとりが行動を選ぶ他ないのだと思います。

2006年のアネットと息子ピーター

2006年のアネットと息子ピーター

本書は、クラウドファンディングにより支援を受け、制作された。英語と日本語が併記されているが、日本での単独刊行となる。今後は世界に届けることを目指す。

竹内 私は、実は今までルワンダに行ったことがありません。いくつか理由があったのですが、心の準備ができていなかったことと、もう一つはルワンダに行かないでもできることをまずは最大限にしたかったからです。「ルワンダに行った特別な人間だからできたんでしょ?」と言われたくなかった。たとえ現地を訪れなくても、ここまでコミットできるということを自分で確かめたかったんです。第2作で、前回心残りだった子供たちの声がようやく聞けたことで、私自身の心の重荷が変わってきたこともあり、やっと自分の目で確かめてみたいと思えるようになりました。この状況が落ち着いたら、ぜひルワンダを訪れたいと思っています。

(写真=赤々舎提供)

    ◇

岸政彦(きし・まさひこ)
1967年生まれ。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。社会学。専門は沖縄、生活史、社会調査方法論。主な著作に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』、『街の人生』、『断片的なものの社会学』(紀伊國屋じんぶん大賞2016受賞)、『質的社会調査の方法──他者の合理性の理解社会学』(共著)、『ビニール傘』(第156回芥川賞候補、第30回三島賞候補)、『はじめての沖縄』、『マンゴーと手榴弾』、『図書室』(第32回三島賞候補)など。

竹内万里子(たけうち・まりこ)
1972年生まれ。京都芸術大学教授。早稲田大学政治経済学部卒業(政治学)、早稲田大学大学院修了(芸術学)。2008年フルブライト奨学金を受け渡米。「パリフォト」日本特集ゲストキュレーター (2008年)、「ドバイフォトエキシビション」日本担当キュレーター(2016年)など、数多くの写真展を企画制作。国内外の新聞雑誌、作品集、図録への寄稿、共著書多数。訳書に『ルワンダ ジェノサイドから生まれて』(ジョナサン・トーゴヴニク、赤々舎、2010年)、その続編『あれから――ルワンダ ジェノサイドから生まれて』(日英対訳、赤々舎、2020年)など。単著『沈黙とイメージ 写真をめぐるエッセイ』(日英対訳、赤々舎、2018年)は米国の「PHOTO-EYE BEST PHOTOBOOKS 2018」に選出された。

「救われてはいけない」 ジェノサイドの性暴力から生まれた親子を記録した写真集を見て思うこと
『あれから――ルワンダ ジェノサイドから生まれて』
ジョナサン・トーゴヴニク、訳 竹内万里子
http://www.akaaka.com/news/disclosure-jonathan-torgovnik.html

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