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パリの外国ごはん ふたたび。
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外出規制前、スパイスのパンチを補給。あれこれ楽しいインドカレー/Saravanaa Bhavan

連載「パリの外国ごはん」では三つのシリーズを順番に、2週に1回配信しています。
《パリの外国ごはん》は、フードライター・川村明子さんと料理家・室田万央里さんが、暮らしながらパリを旅する外国料理レストラン探訪記。
《パリの外国ごはん そのあとで。》では、室田さんが店の一皿から受けたインスピレーションをもとに、オリジナル料理を考案。レシピをご紹介します。
この《パリの外国ごはん ふたたび。》は川村さんによる、心に残るレストランの再訪記です。

10月28日水曜日の夜に大統領演説があり、翌日、木曜日の24時(=金曜日0時)をもって外出規制を施行すると発表された。その週、フランスの学校は秋休みだった。すでに夜間外出禁止令が出されていたものの、移動距離に制限は設けられていなかったから、バカンスに出ている人たちもたくさんいた。それで、秋休みが明ける前の週末までは動けると予測していた。ところが、待った無しでの外出規制施行となった。時間の猶予を与えると、それだけ人が移動すると見越しての決定だったのかもしれない。バカンスから帰宅する人たちの移動に関しては許可された。

おかげで木曜日は慌ただしくなったのだが、その状況で無性に、わさわさした、ざわめきのある場所へ行きたくなった。思いついたのは、大きな駅だ。そして、心身が休まるような優しいごはんではなく、少しパンチのある味のものが食べたいとも思った。ちょうど北駅の近くに立ち寄りたい店がある。駅の脇にあるインド料理店Saravanaa Bhavanを思い出して、行くことに決めた。あそこなら昼と夜のサービスの区切りなく、ノンストップで営業している。

いくつか用事を済ませて、北駅に向かった。店に着いたのは14時45分。ランチタイムをとうに過ぎてはいても、普段ならこの店は旅行者の姿も多く、広い店内の半分くらいは席が埋まっている。けれど、この日は5組しかいなかった。

外出規制前、スパイスのパンチを補給。あれこれ楽しいインドカレー/Saravanaa Bhavan

窓際の席に案内され、早速メニューを開く。以前は文字だけだったメニューが、カラー写真付きにリニューアルされていた。でも、ラインナップされている料理の数は相変わらず多く、試してみたいものがいくつもあった。それでもこの日は、ミールスに気持ちが固まっていた。「Saravanaa Special Meals」と店名を冠した南インド料理の盛り合わせだ。そう、この店、料理名は現地の言葉と英語のミックスで、料理の説明はフランス語で書かれている。飲み物は、塩味のラッシーを頼むことにした。

注文を済ませ、外を眺めた。人通りが多い。いつもよりも心なしか、皆が足早に過ぎ去っていく。街中は目を見張るほどの渋滞だった。そんな街の空気にも、この日の心持ちにも、スパイスの利いた料理は相性が良い気がした。

ラッシーがすぐに運ばれてきた。言ってみれば、飲むヨーグルトだ。いつからか塩味のヨーグルトドリンクに抵抗がなくなり、好んで頼むようになった。脂分も味もしっかりした料理の前に飲むと、胃の、食べる準備が万全になるように思う。中近東料理の店で出てくるさらっとしたタイプに比べると、この店のものはだいぶトロッとしていた。まだ私はインドを旅したことがないのだが、本場でもこうなのだろうか。

外出規制前、スパイスのパンチを補給。あれこれ楽しいインドカレー/Saravanaa Bhavan

ほどなくして、ミールスも登場。テーブルの上に置かれたのを見て、「そうだった、この中にもヨーグルトが含まれていたんだ」と思い出す。何かで、ミールスは濃度の濃いカレーから食べて、味が薄いものへと移行すると読んだことがあるのだが、いちばん手前にあるものから食べることにした。

赤唐辛子が顔をのぞかせた、いかにもスパイスがいくつも入っていそうな色のそのカレーは、マスタードシードとカレーリーフの香りがたち、食べた途端に目が覚めた。結構辛い。具はズッキーニだ。トマトの酸味が利いている。

少し辛さに驚いて、右隣にあるきっとマイルドだろうクリーム色のカレーに手を伸ばす。こちらの具はインゲン。色は薄いけれどとてもカレーらしい香りがしたのはクミンシードが立役者のようだ。オクラのようなものも入っている。だが、ものすごく筋張っていて、噛(か)み切れない。これは困った。筋ではない部分がなくなるまで噛んで、どうにか飲み込んだ。でも、それだけ噛んでも味がわからなかった。何かスパイスの一つなのだろうか?

外出規制前、スパイスのパンチを補給。あれこれ楽しいインドカレー/Saravanaa Bhavan

にんじんと玉ねぎのシンプルな炒め物は、マスタードシードが存在感たっぷりで、そのまま日本のカレーのベースになりそうだった。

少し口の中が落ち着いたところで、サラサラとしたスープ状のカレー、ラッサムと思われるものをひと口。とてもおいしい。トマトとコリアンダーのスープ、カレー風味という感じなのだけれど、最初の香りは何度食べてみても紫蘇だった。何から来ているのだろう? インパクトはそれほど強くない味なのに、すごく食欲を刺激された。

ここまでですでにじんわり顔に汗をかいた。なんだか爽快だ。

ひと息ついて、サンバルとおぼしきカレーに手をつけた。黄色いレンズ豆をベースに、トマトとオクラも入り、マスタードシードの香りが立っている。カレーリーフと大きな赤い唐辛子が積極的に使われていたが、身構えたほどには辛くない。豆が入ったものは、お米よりもチャパティで食べる方が好きだ。

外出規制前、スパイスのパンチを補給。あれこれ楽しいインドカレー/Saravanaa Bhavan

その上にあるオレンジ色のペーストは確か甘いのだよな、と記憶をたどりながら、スプーンの先にほんの少しのせ、なめてみた。ショウガ味に思えるけれど、スーッとした辛みはなく、やはり甘い。コンフィなのかなぁ。だとしたら、このプルプルした生地は何でできているのだろう? 聞いてみたら、全くショウガは入っていないらしい。カシューナッツとカルダモンなどを合わせてペーストにしたもので、全部自然なものだよ、と言われた。面白いなぁ。ショウガかと思った香りは、カルダモンだったのだ。

残り一つは、カリフラワーのカレー。これがいちばんマイルドだった。マスタードシードも他のスパイスも主張する香りはなくて、とても食べやすい。

あとはコリアンダーの葉を浮かべた液状のヨーグルトと、生の玉ねぎにマスタードシードを混ぜたヨーグルト。辛いカレーには、チャパティにヨーグルトを塗って、それでカレーを包むようにして私は食べてしまうけれど、もし片手でこれを食べるとしたらどうすればいいのだろう?といつも思う。

それにしても、ミールスにして大正解だった。こっちをひと口、お次はあっち、とどこかしらに共通するものがありながらも異なる風味を食べ比べながらの食事で、すっかり気分転換ができた。

外出規制前、スパイスのパンチを補給。あれこれ楽しいインドカレー/Saravanaa Bhavan

終わりは、チャイで締めることにした。それほど大きくはないカップに、グリーンカルダモンが2粒。いろんなスパイスで刺激された口の中が、洗い流されたように、あっという間にスッキリした。

いい食事だったなぁ。もう半年以上、意のままに異国へ出かけることが不可能な状況の中で一度も欲したことはなかったのだけれど、ふと、そろそろ旅に出たいなぁと思った。

外出規制前、スパイスのパンチを補給。あれこれ楽しいインドカレー/Saravanaa Bhavan

Saravanaa Bhavan

170, rue du Faubourg Saint-Denis 75010 Paris

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