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BTSの音楽は米国の「壁」を乗り越えた 注目のグラミー賞ノミネートは?

「21世紀のビートルズ」(BBC)とも評される韓国のアイドルグループBTSが世界の音楽市場を席巻している。8月に発売された初の英語曲「Dynamite」は、米ビルボードのシングルチャートで通算3週、1位を記録。10月に開催した有料のオンラインライブは99万人が視聴した。人気を支えるのは「アーミー」と呼ばれる世界中の熱心なファンたち。音楽界最高峰の権威とされるグラミー賞に今月ノミネートされるか、注目を集めている。

米国の音楽界は保守的な側面があると言われ、主要な音楽賞で非英語圏のアーティストが活躍することは珍しい。主要ラジオ局が外国の曲を放送することも極めて少ない。これまで多くのアジア人アーティストが世界最大の市場規模を持つ米国の音楽業界への進出を目指したが、BTSほどに成功した例はない。

7人のメンバー全員が韓国の地方都市出身で、所属事務所もデビュー当時は弱小。韓国の芸能界でもアンダードッグだったBTSが、なぜ、米国で成功することができたのか。そして、BTSの成功は米国社会にどれほどのインパクトを与えたのか。米国の音楽誌で活躍する音楽ジャーナリストで、『BTSを読む』(邦訳は柏書房)の著者であるキム・ヨンデ氏に聞いた。

(取材・文 守真弓)

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ビルボードで2週連続1位、一過性ではない「現象」へ

――8月に発売された、初の英語曲「Dynamite」で、BTSはビルボードのシングルチャート「ホット100」で1位になりました。翌週も1位を記録し、いったんは下落しましたが5週目で再び1位に返り咲き、その後もチャート上位を保持しています。

キム これまで最後に1位をとったアジア人は坂本九さんで、なんと57年前です。でも「Dynamite」が発売直後に1位になったことよりも、2週連続で1位になったことの意味の方が大きかったと思います。これまで、「BTS現象」に懐疑的だった人は、「一部の熱狂的ファンたちが必死で曲を買っているだけだから、持続力はない」と過小評価していた。でも、今回、1位を継続したことで、ファンだけではなく、米国の一般大衆も彼らの音楽を楽しんでいるということが証明されたからです。

『BTSを読む』の著者で音楽ジャーナリストのキム・ヨンデ氏

『BTSを読む』の著者で音楽ジャーナリストのキム・ヨンデ氏

――やはり英語曲だったことが奏功したのでしょうか?

キム 何がヒットの理由か、と聞かれたら、「BTSの曲だから」と答えるしかない。もし、ほかの著名なアーティストが集まって同じ曲を歌ったとしても、これほどは成功しなかったでしょう。2014年の米国デビュー以来、BTSがこれまでアメリカ市場を開拓してきた努力と、アーミーたちと築いてきた関係性の延長線上に、今回の成功がある。BTSのキャリアがついにここまでたどり着いた、ということです。

マイケル・ジャクソンも直面した階層や人種の壁

――今年8月にアメリカの4大音楽賞の一つであるMTVのVMA(ビデオ・ミュージック・アワード)で、K-POPに与えられる「最優秀K-POP・ビデオ賞」だけではなく、「最優秀ポップ・ビデオ賞」を受賞したことにも驚きました。

キム 米国の音楽界というのはとても保守的なところがあります。「何が主流(メインストリーム)か」「何が傍流(サブカルチャー)か」を明確に分けて考える意識が社会の根底にあって、その意識は人種や民族、権力などといった「階層」に基づいている。

たとえば、米国の歴史上、アフリカ系のポップスの大スターは1人しか誕生していないと私は思っています。マイケル・ジャクソンです。でも、彼は常に議論の対象となり、多くの音楽批評家から「ブラックミュージックを捨てた」などと批判されてきました。彼は実際にはブラックミュージックを捨てたのではなく、境界を越えて白人の音楽も取り入れただけだった。こうした批判は、本来は「主流」ではないはずの黒人のアーティストがポップスターになったことが人々にとっては居心地の良いものではなかったということの表れでした。

1970年代に生まれたヒップホップももう40年の歴史があり、市場を席巻してはいても、それでも「主流」とは認められていません。「黒人のもの」とされ、時には危険な音楽とすら言われています。ごく一部の例外を除き、グラミー賞で主要な賞をとったり、主流メディアに認められたりするようなジャンルにはなっていません。ヒップホップすらそうなのですから、アジアのK-POPが「主流」で「意味のある音楽」と認められるのがいかに難しいことか、わかるでしょう?

Big Hit Entertainment提供

Big Hit Entertainment提供

――では、BTSはなぜここまで米国市場を席巻できたのでしょうか。

キム 保守的なアメリカの音楽市場を、BTSはなぜ変えられたのか。BTSというよりも、BTSを熱烈に支持するアーミーたちが変えたのです。私は2014年に米国で開かれたK-POPのコンサート「KCON」でBTSのライブを見て、目の前でたくさんのアーミーが誕生する瞬間を目のあたりにしました。この時、熱狂したファンたちがBTSの考え方や発するメッセージについて熱く語っていたのが印象的でした。それまでのK-POPファンは、アーティストの見た目やパフォーマンスについて話すことはあっても、メッセージ性について言及することはほとんどなかったからです。

――それまでK-POPは、工場で作られる製品のように画一的だとして「ファクトリー・アイドル」と呼ばれていた、と著書で指摘していましたね。

キム K-POPの世界は、顔の表情や発言、態度まで、事務所から細かく指示をされるのが普通です。でもBTSのメンバーは、そうしたルールや秩序に従っていない。ファンと普通に交流を重ねる中で、自然に今の彼らになっていった。ファンにとっても、BTSは、事務所やラジオ局に作られたアイドルではなく、自分たち自身が魅力を発見したということが重要で、だからこそ情熱的に支持できる。

ただ、BTSの前にK-POP人気の足場を築いてきたグループの影響も忘れてはいけないと思います。2009年頃、私が米国の大学院で教えていた時に、女の生徒から「(K-POPグループの)Big Bangがとてもセクシーで大好きです」と言われて驚きました。当時はアジア人男性をセクシーだと捉えるような表象は欧米メディアではほとんどありませんでしたし、米国社会の根底にある見えない階層の中で、「アジア人男性」は最下層にあるように思っていました。

もちろん、当時のK-POPファンはアジア系を中心とする、ごく一部の層に限られていましたが、Big Bangなどのグループが根気強く米国市場を開拓してきたことが、現在のBTS人気の基礎を作ったとはいえると思います。

BTSの音楽は米国の「壁」を乗り越えた 注目のグラミー賞ノミネートは?

国連児童基金(ユニセフ)の会合で演説するBTSのリーダー、RMさん(中央)=2018年9月、米ニューヨーク国連本部、タマラ・エルワイリー撮影

トランプ現象への反動がファンの団結を呼んだ

――アーミーは熱烈な貢献ぶりに定評があります。SNSなどを主戦場として、BTSの曲を買うよう呼びかけ合ったり、BTSに対して不当な扱いをしたラジオ局やテレビ局に対して抗議をしたり。米国にいるファンがBTSの曲をたくさん買って米国の音楽チャートで順位を上昇するように、海外のアーミーがファンドを設けるような、国を超えた活動もしています。

キム アーミーたちが、欧米の排外主義や人種的なステレオタイプに対抗するためにいかに戦っているかを見るたびに、私は感動してしまいます。米国の主流ラジオは、英語ではない限り、もしくは米国人アーティストとコラボしていない限り、K-POPの曲をほとんど放送しませんでした。

それでもアーミーたちの情熱的な戦いが、こうした境界を少しずつ取っ払ってきた。その結果、傍流とみなされてきたK-POPがメインストリームに躍り出て、ついにビルボードで1位をとった。ずっと音楽業界を見てきましたが、こんな現象は見たことがありません。本当に歴史的瞬間だったのです。それを目撃できたのは、本当に幸せなことだったと思います。

アーミーの並ならぬ情熱の背景には、2017年に誕生したトランプ政権も影響していると思います。アメリカで生きている多くの人々は今、自分や身近な人に対して向けられる人種差別や排外主義について大きな苦悩を感じています。ファンたちは意識的に政治的になろうとしたわけではなかっただろうけれど、自分や身近な人たちが直面している差別と、BTSに向けられる差別、2つの差別に対する苦しみが自然に合わさって、さらなる情熱が生まれていったのだと思います。

――だからこそ、アーミーたちは米国の人種差別抗議活動「ブラックライブズマター(BLM)」を熱烈に支持したのでしょうか。BTSの事務所がBLMに1憶円を寄付したことが報じられると、ファンもわずか1日で同額を集めました。

キム まさにそうです。また、K-POPという音楽自体が1980年代からずっと、ブラックミュージックを取り入れて作られてきたという背景もあります。そういう意味では、K-POP文化というのは間違いなく、ブラックカルチャーに負うものがある。K-POP業界やそのファンたちがBLMを支援するというのは、そういう意味ではブラックミュージックに対する恩返しでもあったと言えると思います。

BTSの音楽は米国の「壁」を乗り越えた 注目のグラミー賞ノミネートは?

韓国の7人グループ「防弾少年団(BTS)」=2017年5月、ソウル・ロッテホテル、武田肇撮影

――以前、BTSに取材したことがあるそうですね。

キム ラッキーなことに2018年のビルボード音楽賞の際に実際に会って取材することができました。私はBTSについて初めて米国メディアで記事を書いた記者だったし、ちょうどBTSについての本を書こうとしていたので、声をかけてもらえたのです。

最初は時間が15分と決められていたのですが、時間が来るたびにリーダーのRMとラップ担当のSUGAが、マネージャーに合図して、「もっと時間が必要だ」と言ってくれました。彼らはおそらく、好きな食べ物とかコラボしたい米国のミュージシャンとかについてインタビューされるのに疲れていて、音楽について話したかったのだと思います。私が曲についての細かい点を指摘すると、とても喜んでくれた。

彼らは当時すでに、米国のポップスターからもサインをねだられるような大スターになっていましたが、その成功について、彼ら自身が「まだ信じられない」と言っていて、その謙虚さがもっとも印象に残りました。私がその会話について書くかもしれないとわかっていながら、他のグループとの敏感な関係性や音楽への思いを率直に話してくれて、とても驚きました。ほかのK-POPアイドルにはありえないことですから。

その時の様子を見ていて、事務所が彼らのアルバムやコンセプトをある程度プロデュースしてはいても、BTS自身が主体性を持つグループだとわかった。彼らの音楽が本物の声を持っている理由はそこにあるとわかりました。

K-POPとJ-POPの違いは「世界への視点」

――ビルボードやVMAの成功を受けて、グラミー賞に期待が高まっています。これまでBTSは2019年に初めて、賞のプレゼンター役として壇上に立ち、今年は、他のミュージシャンとコラボする形でごく短時間ではありましたが、アジア人グループとして初めてのパフォーマンスを披露しました。来年はついに賞にノミネートされるでしょうか?

キム グラミー賞は、良い音楽ならばもらえるかというと、そうではないんです。すでにBTSは批評家や記者、音楽業界の関心を集めてはいますが、グラミー賞をとるためには、選考委員を感心させなければなりません。委員の大半は高齢の白人男性で、音楽世界で何が起きているかよくわかっていない。

そういう意味では、「Dynamite」がビルボードホット100を3週獲得したのは、大きな起爆剤になるでしょう。今年出したアルバム「MAP OF THE SOUL : 7」と11月に発売予定の新アルバム「BE」も話題になるでしょうし、十分にノミネートされる可能性はあると思います。

Big Hit Entertainment提供

Big Hit Entertainment提供

――最後におうかがいしたいのですが、アメリカを席巻できたK-POPと、J-POPとの差はどういう点にあると思いますか?

キム 正直に言いますね。質の問題ではなくて、視点の問題だと思います。K-POPは本当に初期から世界を見ていました。例えばBoAは、当初から韓国と日本のアーティストとして育成されました。一般的に日本のポップカルチャーは東京や大阪といったローカルシーン、地元の客層に受け入れられることを何より重視していると思います。日本はすべての文化が到達する終着点で、すべてのものが日本化していくという印象があって、西洋のポップカルチャーも日本に入れば、日本化していく。

でも韓国はできるだけオリジナルに忠実にしようとするところがあって、ラップをやるならば、アメリカのヒップホップスターそのものになろうとする。良い悪いではなくて、それが違いだと思います。世界で受けやすいという意味で、韓国のポップカルチャーには強みがあるのかもしれませんし、韓国文化が世界とアジアをつなぐ架け橋にもなるのかもしれないと思います。

(TOP写真:Big Hit Entertainment提供)

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