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幸せの定義って? 漠然とした不安が消えません(コンシェルジュ:FROGMAN)

読者の皆さまから寄せられた相談やお悩みに、映画を愛する様々な分野の方々が寄り添い、最適の作品を紹介する隔週連載。

コンシェルジュは映画コメンテーター/タレントのLiLiCoさん、CGクリエーター/映画監督のFROGMANさん、Base Ball Bear・小出祐介さんの3人です。今回のコンシェルジュはFROGMANさんです。前々回掲載した家族の幸せについての相談を、相談投稿者の方のリクエストによりFROGMANさんにもお答えいただいています。

幸せの定義って? 漠然とした不安が消えません(コンシェルジュ:FROGMAN)
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PROFILE
FROGMAN

映像クリエイター、声優、監督。長年、実写映画・ドラマの世界に身を置く。2006年DLE入社。07年9月より取締役就任(現任)。06年に「秘密結社 鷹の爪」を地上波で発表した後、07年には劇場公開。その後、テレビ・映画シリーズを次々と公開。その他「古墳ギャルのコフィー」や「土管くん」などオリジナルIPを多数創出。独自の世界観とプロデュース手法が人気を呼び、「島耕作」シリーズ、「天才バカボン」等の有名原作のパロディー化によるリプロデュースにも従事。08年度ニューヨーク国際インディペンデント映画祭にて、「アニメーション部門 最優秀作品賞」「国際アニメーション最優秀監督賞」をダブル受賞。12年4月、しまねコンテンツ産業振興アドバイザー(しまねだんだん★メディアアドバイザー)就任。13年11月、松江市観光大使就任。

〈相談者プロフィール〉
白石 みどり(仮名) 30歳 女性
宮城県在住 会社員

地方勤務の30代、会社員女性です。恋人はいませんが、結婚、出産願望があります。

複雑な家庭環境で育ちました。仕事一筋の父は家事育児にあまり参加せず、母はそれに腹をたて、怒りを我々子供たちにぶつけました。暴力と暴言の絶えない家庭でしたが、なんとか大人になりました。

「信頼できる伴侶をもち、伴侶と仲良く子を産み育て、家族みんなが笑って幸せに過ごすこと」が私の人生最大の夢です。ところがこの夢が、かえって夢の実現から遠ざかっている遠因になっているのかもしれないと感じます。

かつて結婚を意識した恋人がいましたが、彼はいつも自分のことに精いっぱいでした。一緒になったとしてもあまりこちらを向く余裕がないかもしれない。そうすると、両親と同じような関係になってしまうかもしれない。そう考え、別れを選びました。

同年代の友達は次々と結婚、出産していきます。祝福の一方で、うらやましさと焦りを感じます。

私は暴力と暴言の絶えない家庭しか知らないので、いったいどのようにして、どのような伴侶を得て、どのようなコミュニケーションを重ねていけば、家族みんなが幸せな家庭を築けるのか、道筋を描けずにいます。

他の家庭の話を聞いていると、それぞれに光と闇があるようで、幸せの定義は一筋縄にはいかないということも感じます。 私の思い描く、暴力と暴言のない家庭の「幸福」、私の夢は、果たして幻想なのでしょうか? 夢の実現のためには、何をしたらいいのでしょうか。漠然とした不安が消えません。

きっかけがあれば変われるんです それも自分が予想もつかない方向に

なかなか重いご相談で、当人でなければわからない苦しみがあると思いますので、軽々しく「じぇんじぇ~ん~心配ないでごじゃるよ!」なんて言えませんよね。

いきなり結論から言いますと、私では相談者さんが納得するような明快な答えは出せません。だって全てが仮定の話で、なんの確証もないことですから。

でもその不安が原因で家庭を持ちたいのに持てないのであれば、それは悲しいことです。だったらこれを見たらいいじゃない!と、ご紹介したいのが山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ(1977)』。

ちょっとベタかな? でも掛け値なしの名作ですから推薦させてください。

主人公は三人の男女。まず先に登場してくるのが武田鉄矢演じる欽也です。失恋して自暴自棄になり、新車を購入して(このマツダのファミリアが渋くてかっこいい!)北海道に一人旅に来るところから始まります。そこに同じように傷心旅行に来ていた桃井かおり演じる朱美、そして殺人の罪で服役していた高倉健演じる島勇作が偶然にも一緒になります。欽也はアバンチュールを求めてやって来て、どうにか朱美をモノにしようと必死にアプローチを繰り返しますが、朱美は朱美で不幸な出自とグズグズの男関係で傷つき、北海道にやってきたという女。

物語の序盤は二人の凸凹なやり取りが続きます。でもそんな凸凹のやり取りのかいあって、無口な勇作が少しずつ自身のことを語り始めたのでした。勇作が殺人で服役していたこと。そして愛するが故に倍賞千恵子演じる妻に離縁を申し渡していたこと。しかしそれを悔やみ、もう一度だけ会いたいと願い、もし待っていてくれるなら玄関先に黄色いハンカチを掲げてほしいと手紙を送ったこと。

そこで三人はかつて勇作の家があった夕張に走ると、そこには約束していたたくさんの黄色いハンカチが風にたなびき、妻は勇作の帰りを待っていた……そんなお話です。

これ、Netflixで今でも見られますので、もしまだ見たことがなければ、ご覧いただきたいですね。相談者さんの背中を押せるかどうかは分かりませんが、時代を超えた邦画の傑作なのでご覧いただいて損はないはずです。

で、先に結論として明快な答えは出せませんと申しましたが、ちょっとその前に私のことを申し上げましょう。私は20代まで、映画やドラマの業界でフリーランス制作部として働いておりました。フリーランスなんて聞こえはいいですが、言ってみれば単なる現場の使い捨ての労働力でして、誰も保障もしてくれませんし、けがしたらそれでおしまいという、その日暮らしでありました。

その癖当時の業界の常で職場はブラック。早朝から深夜、文字通り真っ黒になるまで働かされますから、掃除や洗濯、三度の飯も適当で、さらに業界の嫌な部分や、理不尽な仕打ちに心はすさみ、自分自身も今振り返ると、本当に嫌なやつだなぁと軽蔑したくなるような人間でした。

でも縁あって今の奥さんと結婚し、お金はないけど島根で楽しく暮らすようになると、あら不思議。すっかり毒気が抜けてまともな人間になっていったんですねぇ。

正直結婚なんかしても自分は変われないし、変わりようがないと思っていましたけど、何かきっかけがあれば変われるんです。それも自分が予想もつかない方向に。

相談者さんは常に最悪なパターンの自分の未来を想像していらっしゃるようですが、人生なんか2秒後にはスマホが破裂するかもしれませんし、その5秒後にはスマホの神様が新しい金のスマホと銀のスマホを立ってほほ笑んでいるかもしれません。

『幸福の黄色いハンカチ』の勇作も、妻を愛しながらも自分の出所まで待ってくれてはいないと勝手に決めつけていました。

でも誰かが言っていましたが(実は息子がネットで拾い読みした記事ですが)心配ごとの80%は実際に起きないとアメリカのどっかの大学の人が話していたそうです。さらに残りの20%のうち16%は事前の準備で対応が可能なので、実のところ不可避な問題は4%に過ぎない、つまり96%は起きないそうです。

どっかの大学の人なので、ひょっとすると教授じゃなくて、大学の廊下をたまたま歩いていたおじさんの話かもしれませんが、だとしてもアメリカの大学の人なので、きっと信じられる数字だと思います。

それと、「結婚=幸せになる」という考え方は捨てたほうがいいと思いますよ。結婚しようがしまいが人は幸せになるべきですし、幸せになる手段の一つとして結婚があるだけですから。思うがまま生きたほうがいいですよ。こんなこと言っている私も今は幸せですが、ある日妻が私をベッドに縛り付けて、映画『ミザリー』のようにハンマーで足を砕くかもしれません。でも96%起きないと思います。

FRGOMANさん推薦作品

幸福の黄色いハンカチ

監督:山田洋次

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