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花のない花屋
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うつから立ち直るきっかけは、美容院での「お店に花を飾りませんか?」の一言

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

岩田凜さん(仮名) 57歳 女性
東京都在住
無職

     ◇

2年前の異動で、激務の部署の配属になりました。合わない仕事、始発で出勤し、終電を逃してタクシーで帰宅する日々。玄関で力尽きて寝てしまうこともしばしばありました。段々ろれつが回らなくなり、口から言葉が出てこなくなり……。心療内科で「うつ病」と診断され、3月から休職しています。

10年前に子どもを心臓病で亡くし、その後離婚。もちろん落ち込みましたが、ジム通いやヨガ、ランニングなどの運動や料理など多趣味で、「いつも元気だよねー」と周りからあきれられるほど、楽しみを見つけるのが得意でした。

それだけにうつ病になり、ベッドから起き上がることもままならない今の状況は自分でも信じ難く……。体重も10キロ以上増え、着られる服もなく、自信を失いどうしていいかわからない日々を過ごしていました。

このままひとりで暮らしているとダメだと思い、友人宅へ転がり込むようにルームシェアを始めました。

他に知り合いもいない土地――。ほとんど唯一といってもいい外との接点は、1カ月半に1回ほど通う、最寄り駅前の美容室でした。スタイリストさん2人だけの小さな美容室ですが、インテリアが静かに温かく、置かれている観葉植物はカッコよく、かわいい小物もさりげなく置いてあります。オーナーの高橋翔太さん(仮名)とも話が合い、とても好きな場所になりました。

休職から半年ほど経った9月、焦りを感じ始めていました。仕事するほどの力はない、けれど何か約束があると少しは動くことができることも分かりました。

そこでオーナーの高橋さんに、思い切って休職していることをお伝えし、「お掃除を手伝わせてくれませんか?」とお願いしました。とにかく毎日外に出るきっかけが欲しいという一心でした。

ところが返答は「お掃除は間に合っていて……。週に一度お花を飾ってもらう、というのはどうですか? それくらいしか思いつかない」というものでした。

期待していた答えとは違い、がっかりして帰ってきました。その夜、そのことを美容師をしている友人にLINEで伝えると「今からでも受けなよ、そんな提案してくれる人なんて、この世のどこ探してもいないよ!」と言われました。そして、そこのインテリアが好きなんでしょ?、とも。

翌日勇気を振り絞って電話をし、10月から週に一度、お花を飾らせてもらうことになりました。それから私の世界は180度変わりました。

最初はたった3本の花を選ぶのに、1時間も悩んでしまいました。自信はなかったのですが、花をいけてみると、高橋さんが「センスがありますね!」と絶賛してくれたのです。それから少しずつ、自分に自信が持てるようになっていきました。

週に一度だけとはいっても、大好きなインテリアの雰囲気を壊したくない思いで、様々な花屋さんのパトロールを始めました。また小物に使えるものはないか、と100円ショップも巡るようになり。自分の勉強のために花のサブスクリプション(定額制)会員にもなり、私の部屋は花であふれるようになりました。毎日手入れに集中していると、いつのまにか辛い記憶を忘れる時間が増えてきました。

花のアレンジをお客さんから褒められることもあります。元通りとはいきませんが、からだも動かせるようになり、体重も戻りつつあります。心療内科への通院の回数も減りました。

花の力を今、改めて実感しています。そして回復のきっかけを与えてくれた高橋さんに、心から感謝しています。12月は実家へ帰省するため、花を飾ることができません。美容室にぜひ、東さんのアレンジメントを添えたいです。

花のない花屋
≪花材≫プロテア、チランジア(キセログラフィカ)、シルバーブローニア、コチア、アストランチア、カンガルーポー、エリンジウム、リューカデンドロン、ヒバ(ブルーアイス)

花束を作った東さんのコメント

優しいオーナーさんですね。美容室のイメージに合わせて、今回初めてシルバーの器を使ってみました。また花も、全体的にスモーキーな色合いで、かっこいい感じにまとめました。一番上で目立っている、垂れ下がったような形の植物はキセログラフィカというエアプランツです。エアプランツは最近、インテリアとしても人気が高いですよね。自然界では夜露など空気中の水分を吸って生きているので、たまに霧吹きなどで水をかけてあげると長く楽しめます。ブルーのイガイガした実はエリンジウム。左側のぴょんぴょんと飛び出ている、先端が緑で全体が紫色の植物はカンガルーポーといいます。他にもプロテアなどを使いました。どれもオーストラリアなど乾燥した土地が原産国の、ネイティブフラワーと呼ばれる植物たち。きっと美容室の雰囲気にも合うのではないかな、と思います。投稿者様にも、花のパワーが伝わって欲しいと思います。

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(写真・椎木俊介)

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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