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村民総出の生誕劇も イタリア式クリスマスの風物詩「プレゼペ」

イタリア中部トスカーナのカーゾレ・デルサで隔年開催されるクリスマス行事「プレゼピウムPRAESEPIVM」。村民がキリストの生誕劇を演じた=2019年12月26日撮影

街のあちこちに ツリーよりも古いクリスマス飾り

今年もクリスマスの足音が近づいてきました。イタリア語でクリスマスはNatale(ナターレ)。ラテン語のNATIVITAS(誕生を意味する言葉)に由来します。国民の多くがカトリック教徒であるイタリアで、イエス・キリスト生誕を祝う大切な季節の到来です。

クリスマスといえば世界中の街角が華やかなイルミネーションで彩られますが、「所変われば品変わる」の諺(ことわざ)どおり、イタリアにはひと味違った伝統的な装飾があります。「プレゼペ(またはプレゼピオ)」です。

北部ボルツァーノの旧市街に置かれた等身大のプレゼペ
北部ボルツァーノの旧市街に置かれた等身大のプレゼペ

馬小屋で生まれたとされる幼子イエス、聖母マリアと父ヨセフ、東方の三博士、そして羊飼いなどのミニチュアを飾るジオラマです。語源はラテン語で馬小屋を示すPRAESEPIVM(プレゼピウム)で、そのルーツはアッシジの聖フランチェスコとの説があります。13世紀に聖職者として活動した彼が、岩穴に飼い葉桶(おけ)をしつらえて人形を飾り、本物の動物も連れてきて聖夜を再現したというものです。聖書が読めない人々にもキリスト誕生物語を理解させるためだったと伝えられています。イタリア半島でプレゼペは、北欧発祥とされるクリスマスツリーが普及する遥(はる)か以前から親しまれてきた風物詩なのです。

プレゼペは教会のほか、市庁舎、街の広場などでも目にすることができます。バチカン市国のサン・ピエトロ広場に設置されるもののように、ミニチュアではなく実物大の馬小屋と人形を飾るところもあります。そうした街なかのプレゼペを見てまわるのも、この季節の楽しみです。

私が暮らすシエナ市の庁舎内に飾られたプレゼペ。表情豊かな人形にひきつけられます
私が暮らすシエナ市の庁舎内に飾られたプレゼペ。表情豊かな人形にひきつけられます

イエスの飾り付けは? プレゼペ飾りのしきたりとは

いっぽう家では、玩具店やスーパーマーケットなどで売られるミニチュアのプレゼペを飾ります。バラ売りされている人形を、毎年少しずつ買い足しては各家庭で代々受け継いできたプレゼペに加えて楽しみます。

私はといえば、イタリアに居を移して初めての年に早々と買い込み、日本のクリスマス飾りの習慣にならって、11月に入って人形たちをずらりと並べてみました。幼い日に雛(ひな)人形を並べたときのような、ワクワクした気持ちがよみがえってきたものです。

ところが、大みそかに我が家を訪れたイタリア人の友達が「あなたのプレゼペは、どこに飾ってあるの?」と尋ねるのです。日本のクリスマスツリーのように、12月25日を過ぎてとっととプレゼペを片付けていた私は、なぜそんな質問をされるのか不思議でした。すると友人の口から思わぬ言葉が飛び出したのです。「プレゼペは年明けの1月6日まで飾っておくものなのよ!」

実はプレゼペを飾るシーズンには、しきたりがあったのです。まず、並べ始めるのにふさわしいのは12月8日(無原罪の御宿りの日)。ただし、この日に飾るのは聖母マリアとヨセフ、動物ぐらいなのだとか。

イエス・キリストの生誕場面をミニチュア人形で再現するプレゼペ
イエス・キリストの生誕場面をミニチュア人形で再現するプレゼペ

「主役のイエスは?」と言いたげな私を察した友人がすかさず続けました。「イエスは12月25日に生まれるでしょ。だから24日の深夜、日付が25日に変わる0時に飼い葉桶の上に寝かせるのが正解なのよ」

そして1月6日は、三博士が東方からイエスのもとに到着した公現祭といわれる祝日です。したがって、本来なら三博士を並べるのもこの日が正解なのですが、同時に教会暦のクリスマス期間が終わり、プレゼペを片付け始めるタイミングと重なってしまいます。「それだと人形が勢ぞろいした姿を長く楽しめないから、三博士も早い時期から飾ってしまうけれどね」と友人は教えてくれました。

いずれにせよ、以来毎年プレゼペを取り出すたびに、おきて破りをしでかしたクリスマスを思い出して頬を赤らめている私です。

ナポリの職人によるプレゼペも有名です。馬小屋だけでなく町全体を再現した模型も
ナポリの職人によるプレゼペも有名です。馬小屋だけでなく町全体を再現した模型も

人が演じるプレゼペ 聖書物語へタイムスリップ

実はプレゼペは人形だけではありません。人間そのものが演じる「プレゼペ・ヴィヴェンテ(生きたプレゼペ)」と題したイベントも、イタリア各地で開催されます。

円形闘技場のセットでは剣闘士の戦いが繰り広げられます
円形闘技場のセットでは剣闘士の戦いが繰り広げられます

ここに紹介するのは、12月26日から1月6日にかけて中部トスカーナ州のカーゾレ・デルサ村で奇数年に開催される「プレゼピウム PRAESEPIVM」です。旧市街のほとんどである約3万平方メートルをまるまる舞台にしたキリスト生誕劇です(写真は2019年撮影)。

威勢の良い声に導かれて小道に迷い込めば、食品や衣料を売る市場が
威勢の良い声に導かれて小道に迷い込めば、食品や衣料を売る市場が

煉瓦(れんが)の壁に挟まれた小道を進むと、いにしえの街角を彷彿(ほうふつ)とさせる場面が次々と現れます。「エルサレムの円形闘技場」では剣闘士がぶつけ合う剣の音が響き、「市場」では商人たちの威勢の良い声が飛び交います。やがて「職人街」や果ては「奴隷市場」までも。

兵士も奴隷も演じているのはすべて村民。迫真の演技を見せつけます
兵士も奴隷も演じているのはすべて村民。迫真の演技を見せつけます
 

それぞれのセットで役者顔負けの演技を見せてくれるのは、子どもから大人まで約300人の村民たちなのです。村巡りのクライマックスである「ベツレヘムの馬小屋」にたどり着く頃には、訪問客自身も聖書物語の登場人物になったような感覚に包まれます。

ウサギを抱く少女たち。動物も大切な脇役です
ウサギを抱く少女たち。動物も大切な脇役です

ある村民は「家族や仲間と生誕劇を演じることは、今はまだ宗教的な意味を理解できない子どもたちにも尊い経験となるはずです」と語ってくれました。

【動画】で見る『プレゼピウム PRAESEPIVM』 迫力ある剣闘士の戦いも

今年のプレゼペは――日常の回帰を願いながら

かくも人々は、プレゼペを通じてクリスマスを迎える喜びを感じてきたのです。

ところが、2020年冬は新型コロナウイルスの感染拡大により、例年とは異なる過ごし方をせざるを得ません。首相令によって、12月21日から年明け1月6日までは、全土において州及び自治県を越えた移動が禁止されます。また12月25日、26日、及び1月1日の各祝日は自治体を越えた移動も禁じられます。家庭での食事会については制限されないものの、非同居者の招待を回避することが強く推奨されているのです。

知人で、夫と二人暮らしの60代女性は「独立して遠くに住まう息子や娘が帰ってきたらキスをして抱きしめる。そんな毎年当たり前の行為が、実はとても幸せなことだったのだと痛感しています」と話します。

今年のプレゼペには、平穏な日常回帰への願いも込められているに違いありません。

子どもたちの演技も自然そのもの。家族総出で生誕劇を盛り上げます
子どもたちの演技も自然そのもの。家族総出で生誕劇を盛り上げます

(写真・動画:大矢麻里 Mari OYA)

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