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篠原ともえ アイデアのありか
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文通相手の「彼」と再会。10代から憧れ続ける、月のような存在

先日、ラジオの収録で23年ぶりにある方と再会し、2人で懐かしい思い出や現在の仕事についてなど、積もる話に花が咲きました。

いつものように私が「本日のゲストは~」と元気よくナビゲートすると、「…………」。なにも言わない彼。第一声は「なんだか、胸がいっぱいで言葉にならないよ……」。そのひとことは、お会いしていなかった23年という時の流れと様々な想(おも)いを噛(か)み締めていらっしゃるようで、私も胸が熱くなりました。

その人こそ、今では日本を代表する国際的アーティストの奈良美智さんでした。

1996年ごろ、ある雑誌の編集者から、ドイツに在住の日本人アーティストを紹介したいと声をかけられ、出会ったその日に意気投合し、対談の連載が始まったのです。

連載が始まった当時ドイツ・ケルンにいらした奈良さんとは、帰国したタイミングで対談などをさせていただいたのですが、それが叶(かな)わない時は、わたしが描いたイラストをドイツへ送り、それに応えてくださる形で奈良さんも絵を送ってくださいました。時にはFAXなんかでも。絵の文通のようなこの企画はお仕事ではありましたが、なんだか仲の良いお友達とやり取りをしているようで、多忙を極めていた当時の私の生活において、癒やしの時間でもありました。

文通相手の「彼」と再会。10代から憧れ続ける、月のような存在

奈良さんからいただいたおもちゃと写真(1997年)

お会いした時に一緒に描いた作品もありますし、奈良さんが私の顔を描いてくれたり、私は代わりに手作りの腕輪をあげたりなんかして、アトリエでは仕事を忘れてほとんど遊んでいるような感覚でした。そんな中、筆を持った奈良さんは絵を描き出すとすごく自由で、でもふとした瞬間の筆さばきや、時折あらわれる真剣なまなざしはペインターそのもの。あんな風に心のままに絵を描いてみたいなぁと、10代の私にはその姿がまぶしく、憧れだったことを覚えています。

文通相手の「彼」と再会。10代から憧れ続ける、月のような存在

青森県立美術館の奈良さんの作品「あおもり犬」と(2015年撮影)

その後、奈良さんは国内外で活躍され、世界的なアーティストに。私の当時の淡い憧れの対象は、手が届かないほどの存在に変わってしまいましたが、その代わり、奈良さんの作品に各地で出会える機会が増え、ずっとつながっている感覚がありました。

その中でも奈良さんの故郷、青森県にある青森県立美術館には奈良さんの作品が多数コレクションされており、私も訪れた際、たくさんの刺激をもらいました。大きな彫刻・インスタレーション作品には、大人から子どもまで常に周りは人だかり。奈良さんは「あんな大きい犬、誰が作ったんだろうね」と冗談まじりにおっしゃっていたけれど、多くのかたを惹(ひ)きつけ、笑顔にする作品の魅力は、紛れもなく奈良さんが創り出しているものだと、そのお人柄からあらためて実感しました。

文通相手の「彼」と再会。10代から憧れ続ける、月のような存在

六本木・森美術館で開催中の「STARS展」にて

奈良さんの作品は今、六本木の森美術館で開催中の「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」(1/3まで)でもご覧いただけます。ここでも多くのかたが笑顔で作品をご覧になっていたのが印象的でした。個人的にはやっぱりペインティングやドローイングに目が行ってしまったのですが、絵の文通をしていた当時の記憶もよみがえり、心が月のようにほんわり明るく、あたたかくなりました。

文通相手の「彼」と再会。10代から憧れ続ける、月のような存在

「STARS展」にて

奈良さん個人のコレクションも展示されていて、中でも興味深かったのは、壁一面にディスプレーされたレコードや、子どもたちからもらったお手紙など。パンクな一面とピュアな心が交差するこの空間には、奈良さんの「アイデアのありか」が詰まっていました。いつも音楽を聴きながら制作をされるという奈良さん。没頭するとどんな爆音も耳に入ってこなくなるそうで、私も制作中同じようなゾーンに入ることがあり、共通点にちょっとうれしくなりました。

文通相手の「彼」と再会。10代から憧れ続ける、月のような存在

近年わたしが描いているのは抽象画。絵を見てもらいたくて私のアートブックの線画をお見せすると「この線、続けた方がいいよ」と言ってくださいました。今はまだ探り探りの自分の線だけれど、23年前と変わらない奈良さんの優しい言葉に、描く気力がわいてきました。

ものだけでなく、人とのつながりの中にも創作へのインスピレーションはたくさんあります。今回の奈良さんとの再会で感じた想いやいただいた言葉が、今後私の作品にどう反映されてくるでしょうか。私自身楽しみにしながら、また今日も手を動かします。

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