鎌倉から、ものがたり。
連載をフォローする

あなたの毎日に、1本の彩りを 鎌倉の“まちの花屋さん”を目指す「CHIC FLOWER STAND」

鎌倉駅西口、御成商店街の裏手は、駅から至近距離にありながら、木造の住宅街がいまも息づく一画だ。そんな路地に、横長の大きなピクチャーウィンドーが目をひく店がある。昭和の面影を残す外観に「喫茶店?」と一瞬思うが、ガラスのドア越しに中をのぞくと、ピンク、紫、白、黄色と、色彩のグラデーションを描いた花々が、美しく並んでいる。大松和子(おおまつ・かずこ)さん(45)が昨夏、オープンした花屋「CHIC FLOWER STAND(シックフラワースタンド)」だ。

「鎌倉のまちにふさわしい色や形を、意識してそろえています」と、大松さんが語る花々は、シックな中に、かわいらしさと気品を感じさせる。

横浜市出身の大松さんは、大学で国文学を専攻した後、ブライダルホール、いけばなの財団法人、現代美術館のミュージアムショップなど、「その時々で興味のある世界」に飛び込みながら、事務やショップスタッフなど、さまざまな仕事を経験した。

「当初は花屋になることなど、考えてもみなかった」という彼女の心境に変化が訪れたのは、20代後半でデザイン事務所に勤務したとき。アート&デザインの世界で生きる同僚たちは、いずれ独立することを前提に、それぞれの創造性やスキルを磨いていた。

「その姿に私も刺激を受けたのですね。私が夢中になれるものって何だろう、と考えたときに、『花』というテーマに行き当たったのです」

実家では両親が丹精する庭に、季節の花々がいつもきれいに咲いていた。仕事先のブライダルホールや、いけばなの財団法人では、まさに「花」が重要な位置を占めていた。

29歳で六本木にある「ゴトウフローリスト」に入社。花の種類やアレンジメント技術など、クオリティーが高いと評判の同店で、15年をかけてフローリストに必要なあらゆる仕事を学んだ。

それでも30代までは、独立は視野になかったという大松さん。その背中を押したのは、鎌倉駅西口にあるカフェ「ザ・グッド・グッディーズ」だった。13年に内野陽平さんが開いた同店は、おいしいコーヒーとともに、コミュニティーの交差点となって、多様な人々を惹(ひ)きつけていた。あるとき内野さんと、こんな話で盛り上がった。「コーヒーを飲みに来たお客さんが、帰りに花を1本、買っていけるようなコーナーがあるといいですね!」

そこから週末に、グッディーズの店頭で花を売るフラワースタンドがスタート。週日は都心の六本木、週末は鎌倉という日々を送るようになった。

「六本木のお店では、ブライダルの仕事やブランドショップのいけこみなど、華やかな現場もまかされていましたが、私がいちばん好きだったのは店頭での接客。鎌倉では、まちの人たちがカラフルなウッドデッキを見て、『あ、今日は土曜日なのね!』と声を弾ませてくれて、さらにうれしかった。ここでなら、お客さまともっと近い距離で、接することができると思いました」

2018年、西口で半世紀以上にわたって地元の人たちに愛されてきた焼き菓子の店「Mitch(ミッチ)」の閉店があった。界隈に一抹のさみしさが漂う中、「あの場所でお店をやってみたら」と、内野さんが大松さんに声をかけてきた。「この人たちの近くでなら、やれるかもしれない」。大松さんがそう思ったとおり、会社を辞めて、店づくりに踏み出したら、周囲の人たちが惜しみないサポートを与えてくれた。

大松さんが理想とするのは、「まちの花屋さん」。大人にまじって、近所の子どもたちが500円玉を握りしめて、お花を1本、買いにきてくれる。そんな温かさのある店を目指したいという。

それにしては、シックで、美意識にあふれる空間なのだが――。

「私があこがれるのは『花の職人』。花で自分を表現したい、という気持ちは一切なくて、どうしたらお客さまに喜んでいただけるか、それだけがすべてなんです」

もうすぐ来るクリスマス、そしてお正月。新しい年には、大切な人の誕生日や、卒業式、入学式などの節目が、まためぐってくる。ひとりひとりのシーンに合うよう、ひとつひとつ心をこめてつくる花束に、彼女の思いが宿っている。

CHIC FLOWER STAND
〒248-0012 神奈川県鎌倉市御成町9-42-1F
0467-33-5838

フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)

「鎌倉から、ものがたり。」は、前段の「葉山から、はじまる。」(2012年~14年)を受けて、14年から連載をスタートしました。

鎌倉から逗子、葉山、そして三崎へと続く三浦半島の一帯。鎌倉の西側に広がる藤沢、茅ヶ崎、辻堂という湘南エリア。海沿いのまちを舞台に、お店の紹介という体裁を取りながら、時代の少し先を行くライフスタイルと、それを支える新しい価値観を、お伝えしてきました。

ここでご紹介した方々は、「お金」や「効率」の意味を知りながら、それ以上に、自他の「幸せ」を大切に考えるライフスタイルを、みずから選び取った人たちです。その価値観にもとづいて、自分の好きなまちで、自分ならではの仕事をつくり出し、周囲とゆるやかにつながりながら、さまざまな形の「幸せ」を人々に届けています。コロナ禍で、そのような生き方への志向はますます高まり、また、その動きも全国で起こっていることを感じます。

「鎌倉から、ものがたり。」は、ここでいったん終了しますが、同時代の日本で生まれている新しい波を、またみなさまに読んでいただける機会がありますよう願っています。ご愛読いただき、どうもありがとうございました。

「鎌倉から、ものがたり。」紹介店舗マップ(店舗情報は記事公開時のものです)

REACTION

LIKE
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら