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松島を訪れた芭蕉の心に思いめぐらせ 旅行作家・下川裕治がたどる「奥の細道」旅7

下川裕治さんが、松尾芭蕉の「奥の細道」の行程をたどる旅。前回は多賀城、塩釜と歩きました。今回はいよいよ船で松島へ。下川さんが分析した、松島での芭蕉の心境とは……。

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと、相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

(写真:阿部稔哉)

奥の細道を歩く・松島から一関へ

地図

「奥の細道」をたどる旅は、松島に到達。芭蕉は松島をめぐる船に乗り、さらに石巻、登米、一関と進んだ。そのルートをなぞろうとしたが、東日本大震災の影響もあり、バス路線が減り、鉄道の廃線も加わって思うようにはいかない。芭蕉が歩いた道は、現在の宮城県から岩手県に抜ける道。県をまたぐ路線バスの運行はかなり少なくなる。県境を歩いて越えていくことも考えたが、接続がうまくいかない。バス路線の迷路に入り込むような旅になっていった。

「奥の細道」は、1689年、松尾芭蕉が約150日をかけ、東京(江戸)から東北、北陸などをまわった紀行文。馬や船も利用しているが、基本的には歩き旅である。発刊は芭蕉の死後の1702年。

短編動画

芭蕉は松島を「奥の細道」の旅の山場とも考えていた。船に乗り、松島をめぐる。しかしなぜか句が浮かばない。「奥の細道」では、「松島や鶴に身をかれほとゝぎす」という曾良の句を載せている。「松島のみごとな景観のなか、ホトトギスも美しい鶴の身を借りて飛べ」といった解釈が一般的か。

今回の旅のデータ

列車と船、路線バスを利用する移動になる。路線バスは市民バス。このバスは、市町村が民間バス会社に運行を委託する形で運営されている。かつては民間のバス会社が運行させていた路線が、利用者が減り運休に。それでは高校生や老人など地域の人は困る。そこで行政が住民サービスの一環として運行を引き継ぐ形になった。路線や時刻表は、バス会社のホームページより市町村のホームページを見たほうが効率がいい。市町村の担当に連絡すると丁寧に教えてくれる。この回では登米(とめ)市市民バスを乗り継いでいった。運行はミヤコーバス。運賃は乗車距離に関係なく100円だった。

松島から一関へ「旅のフォト物語」

Scene01

松島

奇妙な形の小島が点在する松島湾。昔もいまも有名な観光地だ。しかし芭蕉は句が浮かばなかった。この景観を詠んだ和歌や句はかなりある。多くの弟子を抱える芭蕉にしたら、へたな句はつくれない。そのプレッシャー? 「奥の細道」で、「句ができずに夜も眠れない」と吐露している。その心境、少しわかります。

Scene02

船

マリンゲート塩釜を出港した遊覧船「芭蕉コース巡り」は、小島の間を縫うように進み、松島海岸駅に近い桟橋に着いた。50分ほどで1500円。芭蕉もこの区間は船に乗っている。歩くことに比べたら船は本当に楽。芭蕉も実感したはず……。いや、それより句か。津波で斜面が崩落した小島もあったが、眺めは松島だった。

Scene03

瑞巌寺

芭蕉も参詣(さんけい)した瑞巌寺(ずいがんじ)は、遊覧船の桟橋からすぐだった。入り口までの高低差もほとんどない。「こんなに近かったのか……」。つい周囲を見渡してしまった。周辺の街に比べてこの一帯の津波は低く、津波が到達したのは、瑞巌寺の参道の途中あたりまでだったという。瑞巌寺が避難所になった当時の報道を思い出した。(写真は瑞巌寺洞窟遺跡群)

Scene04

碑

松島海岸駅へ行こうとすると、芭蕉が泊まった宿というこの碑。つい足が止まってしまった。一帯には芭蕉という文字がそこかしこにあるのだが、ここが、「奥の細道」に「風雲の中に旅寝するこそ」と書かれた宿の跡? なかに入ると土産物が並び、2階は食堂という観光客向けの店舗でした。

Scene05

カキ

芭蕉が泊まった宿という碑の脇を入ると、「殻付き焼牡蠣(がき)」という看板。2個で600円。遊覧船の船内放送でもカキの養殖場の案内があった。「せっかく松島まできたんだしなぁ」と食べてみました。松島湾のカキは生食用が多いとか。しょうゆがいらないぐらい、潮がたっぷりの味でした。

Scene06

防潮堤

この日は一関までいくつもりだった。先を急がなくては……と松島海岸駅から列車で石巻に向かう。線路脇には、東日本大震災後につくられた防潮堤が続いた。芭蕉と曾良は松島から石巻を通らずに一関に行くことも考えていたようだが、人があまり通らない海岸線の道を進んだ。仙石線はその道にほぼ沿っている。

Scene07

石巻駅

石巻駅で僕らを待っていたのは仮面ライダーやサイボーグ009。石ノ森章太郎が生んだキャラクターだ。芭蕉とは縁がない? 実は道でつながっている。石ノ森章太郎は石巻から36キロほどの登米市の出身。少年時代は自転車を3時間以上こぎ、石巻の映画館によくきたのだとか。その道がひょっとしたら芭蕉の歩いた道?

Scene08

像

石巻の高台にある日和山公園へ。芭蕉もここにのぼり、「金華山を海上に見渡し……」と「奥の細道」に書いているが、これは想像。実際は牡鹿(おしか)半島が邪魔をして見ることはできない。「奥の細道」は事実と違うところがときどきある。文学作品の要素がある本なのだ。公園内にある芭蕉と曾良の像の顔も文学者風?

Scene09

石巻

同行している阿部稔哉カメラマンは岩手県の出身。東日本大震災後の被災地の写真を撮り続けている。これは2011年4月5日、日和山公園からの撮影。津波がこのあたりをのみ込んでから24日後だ。ほとんどの家が消えてしまっている。「これからどうしていいのかわからない」という住民の声が聞こえそうな光景だ。

Scene10

石巻

Scene9の写真と見比べてほしい。2011年4月と変わらないのは、中央のイチョウ、松、寺、奥に見える橋ぐらいだろうか。震災から9年、広い道がつくられ、新しい建物も姿を見せている。いまも復興事業は続いている。小春日和のなか、工事車両の音が、高台にある日和山公園でもかすかに聞こえた。

Scene11

柳津駅

芭蕉と曾良は石巻から北上川に沿った道を進み、柳津から登米に着いている。しかしいろいろ調べても、石巻から柳津までの路線バスがない。そこで石巻線から気仙沼線に乗り換えて柳津に着いた。震災の被害を受け、気仙沼線の列車は柳津駅が終点になってしまった。駅表示がその状況を生々しく教えてくれる。

Scene12

車両止め

気仙沼線はここが終点。写真中央の車両止めがその証し。しかしその先になにかバス停のようなものがある。案内を見ると気仙沼線BRTという表示。BRTはバス高速輸送システム。鉄道が被災し、復旧が難しい区間をバスで結ぶシステムだった。石巻駅に柳津から気仙沼までの運賃が出ていた謎が解けました。

Scene13

バス停

柳津駅前から登米市の中心地区に向かうバスは1日4本。最終は17時59分。すっかり暗くなってしまった。周囲には車も人の姿もない。「もしバスがこなかったら……」。不安が脳裏をよぎる。アジアではバスがこないことが何回かあった。ところが時刻ぴったりにバスの灯が。「おぉぉぉー。やはり日本はすごい」と声が出て、阿部カメラマンに笑われた。

Scene14

バス

やってきたのは登米市市民バス。登米市が民間のミヤコーバスに業務委託したバスだった。運賃は一律100円。登米市民ではない僕らが乗ることが申し訳なく思える料金だった。運転手は女性。丁寧に対応してくれる。登米市の中心にあるミヤコーバス佐沼営業所まで約45分。少ない乗客を乗せて夜道を粘り強く走ってくれた。

Scene15

一関

ミヤコーバス佐沼営業所から、さらにもう1路線、登米市市民バスに乗って石越駅へ。いろいろ探したが、この方法しかなかった。もちろん運賃は100円。そこからJR東北線で一関へ。着いたのは夜9時前だった。この時間になると、一関の街の人通りも……こんな感じに。冷え込む晩だった。

※取材期間:11月4日
※価格等はすべて取材時のものです。
※「奥の細道」に登場する俳句の表記は、山本健吉著『奥の細道』(講談社)を参考にしています。

【次号予告】次回は一関から鳴子温泉へ。

<お知らせ>
下川裕治さんと、連載「美しきインドの日常」の写真家・三井昌志さんによるオンライントークイベント『旅をするために生まれてきたの?』を2021年1月8日(金)に開催します。詳細はこちら

■「沖縄の離島路線バス旅」バックナンバーはこちら
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BOOK

松島を訪れた芭蕉の心に思いめぐらせ 旅行作家・下川裕治がたどる「奥の細道」旅7

2019年に連載された台湾の秘境温泉の旅が本になりました。

台湾の秘湯迷走旅(双葉文庫)
温泉大国の台湾。日本人観光客にも人気が高い有名温泉のほか、地元の人でにぎわうローカル温泉、河原の野渓温泉、冷泉など種類も豊か。さらに超のつくような秘湯が谷底や山奥に隠れるようにある。著者は、水先案内人である台湾在住の温泉通と、日本から同行したカメラマンとともに、車で超秘湯をめざすことに。ところがそれは想像以上に過酷な温泉旅だった……。台湾の秘湯を巡る男三人の迷走旅、果たしてどうなるのか。体験紀行とともに、温泉案内「台湾百迷湯」収録。

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