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亡き彼女へ捧げる、深紅のバラの詩画集がつないだ不思議なご縁

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
里中慶子さん(仮名) 60歳 女性
東京都在住
主婦

     ◇

今から15年以上も前のことです。私には思春期の娘がいて、子育てが思い通りにいかないことに悩んでいました。難しい年頃の娘にどう接すればいいのか。どう向き合うべきなのか。知人に悩みを相談したところ、「きっと心動かされると思う。すごくいい本だから」と、ある1冊の本を手渡されました。

墨色の枠の真ん中に、凜(りん)とした深紅のバラが描かれている表紙の本。タイトルは『深紅のバラを一本』。30歳でこの世を去った、とある女性の詩画集でした。心を病みながらも、大好きな絵を描き、書くことを楽しみ、懸命に生きた彼女。私は時間を忘れて読みふけりました。

その本は、亡くなった女性のお母様が、遺品の中から選んだ絵や詩、エッセーをまとめたものでした。亡くなった彼女の作品にも確かに胸を打たれたのですが、それ以上に私は同じ娘を持つ母として、お母様のお気持ちを思わずにはいられませんでした。

「今日もまた/一つ捨てます/娘の遺品/わが身を少し/削られるごと」

「書くことの/好きだった娘は/エッセイの/活字となりしを/知らずに逝きたり」

本のおわりに載っている、お母様が詠まれた歌の一部です。遺(のこ)されたものをえりすぐり、一冊の本にまとめて、自費出版するということは、その母娘のこれまでを具(つぶさ)に思い出す旅でもあります。辛く、苦しかっただろうに、なんて強い方なのでしょう。

私はそのお母様に、本の感想を書いたお手紙を送ったところ、お返事をくださったのです。何回かやりとりを続けるうちに、実際に会って近況報告をしあう仲となりました。

会うのは決まって、クリスマスの頃。ふたりで温かいココアを飲みながら、お母様は、お嬢様との思い出話を実に楽しそうにお話してくださいます。たった2時間あまりのひと時ですが、私にとっては1年に1度のかけがえのない時間になっています。そして、私は毎年、亡くなった女性の誕生日である12月12日には、深紅のバラを贈っています。彼女はバラが大好きだったそうです。

私は残念ながら一度も彼女に会ったことはありません。しかし、彼女が精いっぱい生きたからこそ、私は彼女のお母様と交流をする機会に恵まれました。

お母様は私のたわいもない話や尽きない子育ての悩みなどを、聞いてくれます。年は離れていますが、私にとっては、十年来の大切な人。つくづく不思議なご縁だなぁと思っています。

今年もまた、感謝の気持ちを込めて、バラを贈りたいと思っています。

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≪花材≫バラ、カーネーション、ハラン

花束を作った東さんのコメント

深紅のバラが大好きだったという詩画集の作者さんをイメージして、バラが中心のアレンジにしました。真ん中にバラ、周りはカーネーション。カーネーションで囲んだのは、バラを引き立たせるためです。バラ1種類だけのアレンジより、ワンクッション置いた方がバラが引き立つのです。また深紅よりワントーン明るい赤のカーネーションを置くことで、明るさもプラスしてくれます。グリーンも、使ったのはハラン1種類ですが、フリルのようなアレンジとリボンをくるんと巻いたようなアレンジの2層仕立てにしています。
心を病みながらも、詩や絵画に没頭したお嬢様の情熱は、シンプルでストレートなアレンジが似合うと感じました。お嬢様がつないだご縁が、末永く続きますように。

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(文・五月女菜穂 写真・椎木俊介)

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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