いしわたり淳治のWORD HUNT
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女子中高生間で流行「きゅんです」 TikTokが取り戻す音楽の娯楽性

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の5本。

 1 “ポケットからきゅんです”(ひらめ『ポケットからきゅんです!』)
 2 “油のさんずいをとった字”(マツコ・デラックスのマネジャー)
 3 “もっとひょうきんなこと言えばよかった”(アマイワナ)
 4 “サンタクロースは新型コロナウイルスの免疫を持っている”(WHO疫学者マリア・バンケルコフ)
 5 “身の程を知りました!”(新庄剛志)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

     ◇◆◇

女子中高生間で流行「きゅんです」 TikTokが取り戻す音楽の娯楽性

12月4日放送のABCテレビ『JC・JK流行語大賞2020〜女子中高生・流行の最先端はコレだ!〜』でのこと。コトバ部門の1位に「きゅんです」が選ばれた。TikTokでひらめさんの曲『ポケットからきゅんです!』に合わせて指で小さなハートマークを作る振り付けが流行したけれど、女子中高生は日常生活の中でも「ノート貸してくれてありがとう。きゅんです!」みたいに感謝を表すときにもこの言葉を使ったりもするそうだ。

私は日頃からかつての歌謡曲が全盛だった頃のように、いわゆる歌の歌詞から流行語が生まれる時代が戻ってきて欲しいなと思っている。お笑い芸人の考えたいわゆる歌ネタ・リズムネタなどからはスマッシュヒットの流行語がいくつも生まれるのに、本職であるはずのミュージシャンが作る歌からは、一向に流行語が生まれないのは、内心でずっと寂しく思っていた。

世の中にTikTokが浸透したことで、音楽の生まれ方や使われ方は大きく変わってきた気がする。メジャー、インディー、プロ、アマ、曲の新旧に関係なく、面白い歌や、動画に使いやすい歌が、どんどん拡散していく。それはある意味で、とても健全な音楽の在り方だなと思う。音楽はアーティストの深い精神性や卓越した技巧を表現する場でもあるけれど、必ずしもそうである必要はない。音楽には娯楽のひとつ、という側面もあるのだ。TikTokでバズった曲を聴いていると、たしかに音楽には日常生活を楽しくする娯楽としての役割が色濃くあるという、忘れかけていたとても大事なことを思い出させてくれる感じがする。

女子中高生間で流行「きゅんです」 TikTokが取り戻す音楽の娯楽性

11月28日放送の日本テレビ『マツコ会議』でのこと。若手作曲家特集に登場した諭吉佳作/menさんの、その物珍しい名前の話題になった時、マツコさんがふいに思い出したように、自身のマネジャーが「自由の由って言えばいいのに、“油からさんずいとった字”っていう不思議な説明をしてた」というエピソードを話していた。

今でこそインターネットで様々な手続きができるようになったので、電話などで口頭で自分の名前の漢字を相手に伝える機会はかなり減ったけれど、数年前までは結構こういうやりとりをしていたなあと思った。

私の名前の「淳」の字を口頭で伝えるのはいつも困った。「自由の由」みたいにその漢字を使った有名な熟語があればいいのだけれど、「淳」の字を使った有名な熟語はひとつもないのである。仕方なく「桜田淳子の淳です」と言ったりもしたのだけれど、「さくらだじゅんこって順番の順でしたっけ?」などと聞き返されたり、そもそも相手が桜田淳子を知らない世代だったりする。そんなわけで、結局は「さんずいになべぶたにくちにこどものこのやつです」と長々と説明するはめになる。

たぶん、人それぞれに自分の名前の漢字を口頭で説明するときの定型文があると思う。「油のさんずいとった字」なんていうのはかなり面白いケースだと思うけれど、「自分の名前の漢字を教えて」とあらためて周りの人に尋ねてみたら、意外と面白い答えが聞けるかもしれないと思った。

女子中高生間で流行「きゅんです」 TikTokが取り戻す音楽の娯楽性

11月11日放送の日本テレビ『徳井と後藤と麗しのSHELLYと芳しの指原が今夜くらべてみました』でのこと。「20代なのに80‘sアイドルに憧れる女たち」の回で、シンガー・ソングライターのアマイワナさんが、“ライブの最後に感極まる80’sアイドルのモノマネ”というのを披露していた。鼻にかかった甘ったるい声で、「今日のこと、絶対に忘れない。心のノートに書き留めて、みんなのこと、絶対に忘れない。……もっと、ひょうきんなこと言えばよかった」と言った。

最後の「ひょうきんなことを言えばよかった」の「ひょうきん」という単語の破壊力がすごい。このモノマネはおそらく当時のアイドルにおけるある種の「あるある」みたいなものなのだろうから、そう考えると80年代は「ひょうきん」という言葉を、皆が普通に使っていたということなのだろう。今からは想像もできないけれど。でも、思えば80年代に、かなり攻めたお笑いをやっていたのは、『オレたちひょうきん族』という番組だったことを考えると、「ひょうきん」は当時はむしろイケてる言葉だったのかもしれないなと思う。

ひょうきんな人。今あらためて口に出して使ってみると新鮮で、ちょっといいかもしれない。面白い人とか、明るい人とかともちょっと違う、なんだか人の良さそうな、仲良くなりたくなる感じのする言葉の響き。自分の周りにもそんな人がいるかしらと考えたら、一人思い浮かんだ。これからあいつのことは「ひょうきんなやつなんだ」と人に紹介しよう。

女子中高生間で流行「きゅんです」 TikTokが取り戻す音楽の娯楽性

WHOの定例記者会見で新型コロナウイルス対応の技術責任者のマリア・バンケルコフ氏が「高齢のサンタクロースのことを子供たちが心配していることは理解している。彼はウイルスの免疫を持っている。プレゼントを配るために世界中を移動できる」と述べた。

でも時すでに遅し。我が家の6歳の長男にはサンタが本当はいないことをもう伝えてしまった。というのも、親も寝静まった真夜中に、枕元まで誰かが勝手に入ってきていることを子供が怖がり始めたら、日頃からうそはよくないと教えている手前、真実を伝える方が得策だと思ったのである。伝えた瞬間、息子は鳩(はと)が豆鉄砲をくらったような顔をした。そして、「ごめんなさい。ぼく知らなくて、おとうさんに今までいっぱいお金使わせちゃった。サンタさんがくれるんならいいかって、そこまでに欲しくないものも頼んじゃったりしてた……」と、泣き出しそうな声で言った。どうやら、サンタがいないことよりも、親がプレゼント買って用意していたことに驚いたようである。彼は「アマゾンの置き配」のように、サンタの格好をした実は普通の人が善意でおもちゃを配って回っている、みたいなイメージをしていたようだ。いやはや、ませた現代っ子である。

そして、その長男は今日もまだ3歳の弟に「サンタはいるんだよ」と上手にうそをつき続けている。そのポーカーフェースぶりを見ていると、親としてはなかなか心苦しいものがあって、こんなことならWHOでも誰でもいいから、この際、正式に「サンタクロースはいません」と発表してくれたほうがありがたかったのにと心底思った。

女子中高生間で流行「きゅんです」 TikTokが取り戻す音楽の娯楽性

48歳でプロ野球現役復帰に挑戦した日本球界のスーパースターで元メジャーリーガーの新庄剛志さん。トライアウトでは3打数1安打1打点と結果を残したけれど、オファーはなく、復帰を断念することとなった。自身のSNSで「1%の可能性を信じてやって来たが、今日0%になりただただ悔しいし情けない、身の程を知りました!応援してくれた皆んな、サポートしてくれた皆んなに申し訳ない! しかしいくつになっても挑戦した自分に悔いはなし!みんなも挑戦する楽しさをわかってほしいなぁ!短い1年だったけど応援してくれた皆さん有難うございます感謝します!!」(原文ママ)とコメントした。

当初からトライアウト後に6日間でオファーがなければ、一切野球から離れることを発表していた。一年で体を仕上げて48歳でプロ野球選手になるのは格好いいけれど、挑戦のインパクトも日々薄れていく中でさらにもう一年トレーニングを続けて再挑戦するのは、彼にとって本望ではないし、美学に反することなのだろう。彼が見せたいのは頑張る背中ではなく、成功して輝いている真正面の姿なのだ。それがスーパースターなのだから。

それにしても、彼の「身の程を知りました!」の一言で、夢というものは身の程知らずだけが見ることの出来るものなのだと、あらためて気づかされた。身の程を知っている人が見る夢など、本物のチャレンジャーからしたら夢なんて呼べないものなのかもしれない。いつまでも身の程知らずでいたいものである。
 

<mini column>
ひとりくのいちこき

6歳の長男が漢字に興味を持ち始めて、唐突にトリッキーな問題を出してくるようになった。「もんだい。ききにしょう、なぁ〜んだ?」という具合に。ちなみにこの答えは「禁」である。漢字の木と木と二と小を足して禁というわけである。近所の公園にある「ボール遊び禁止」の看板を見て覚えたらしい。大人はそんな風に分解して漢字のことを捉えてはいないので、急に問題を出されると答えられないことも多い。

ある夜、長男と一緒に風呂に入っていると、ぼそっと「おとうさん、ひとりっておおきいだね」と言われた。そして、そのすぐ後に「ふたりっててんごくだね」と言われた。突然、何を言い出したのだと思ってドキッとしたが、何のことはない。一に人と書いて「大」だし、二に人と書いて「天」だ、ということを伝えたかったようである。

「何だよ、その哲学的なコメント。なんか深いこと言うじゃん」と言ったら、「え、なにが? どこが? どういうところが? どこがよかった?」としつこく聞いてくるので、「んー、一人でいろんなことを出来るようになるのが大きくなるってことだし、大切な誰かと一緒にいたら天国みたいに楽しいでしょう。ほら、二人で入ったほうがお風呂も楽しいじゃん? 漢字って、その通りだなあと思ってさ」と言ったら、満面の笑みで「そうだねー、かんじっておもしろいよねー。おとうさん、ひとりくのいちこき」と言った。いや、そこは素直に「お父さん、大好き」のほうがよかったな。

BOOK

女子中高生間で流行「きゅんです」 TikTokが取り戻す音楽の娯楽性

言葉にできない想いは本当にあるのか

いしわたり淳治さんの著書「言葉にできない想いは本当にあるのか」が2020年12月14日、筑摩書房より発売されました。

本書は朝日新聞デジタル&Mの人気連載「いしわたり淳治のWORD HUNT」で2017年11月から2020年9月までに取り上げた歌詞、流行語、広告コピー、著名人の発言などから、118ワードを厳選し、著者独自の視点で言葉の強さの理由を解剖したもの。書き下ろしのコラムも加わり、人気作詞家による“アイデアと思考の処方箋”と言える一冊に仕上がっています。税別1400円。

 

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