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“天気がいいので仕事が休みに” 世界の「翻訳できない言葉」で知る、何が大切か

“天気がいいので仕事が休みに” 世界の「翻訳できない言葉」で知る、何が大切か
撮影/猪俣博史

『幸せに気づく世界のことば』

旅に出かけたとき、地元の人たちが集うお店を訪れたり、その土地の日常に溶け込んだような空間に足を踏み入れたりすると、より深いその土地の魅力に出会えたようで、心が躍る経験がしばしばあります。『幸せに気づく世界のことば』は、まるでそうした旅をしているかのように、世界各地の50の「ことば」を通して、さまざまな国の人々と出会うことができます。受け継がれる文化や、そこに住む人たちが日々の暮らしの中で大切にしている生きる術には、私たちにとっても大切なヒントがたくさん詰まっています。

著者のメーガン・C・ヘイズさんは、イギリスの大学の教壇に立ち、心理学の研究をしながら幸せや心の健康を言葉で表現するメソッド「ポジティブ・ジャーナル」を広める活動をしています。この本が紹介する一つひとつの言葉に彩りを添えているのが、『Flow』や『The New York Times』にも携わる、画家イェレナ・ブリクセンコヴァさんのあたたかみのあるイラストです。本書は、お二人が案内人となって、その土地の文化にひそむ「翻訳できない」言葉を集めながら、世界各地の幸せを巡っていきます。

「翻訳できない言葉」があるというのは、じつは正しくありません。そう称される言葉が人の心をとらえるのは、じつのところ誰にでも理解できる感情や社会や身体にまつわる経験へと翻訳「できる」からにほかなりません。

中には初めて知る言語もあり、それが思わぬ旅先に出かけたようで、どんどん引き込まれていきます。私にとって、その一つが南アフリカでバントゥー語系のズールー族とコーサ族が話す言葉でした。

南アフリカ諸国では、“人は一人で生きるのではなく、コミュニティーと分かちがたく結びついている存在”という伝統的な思想があり、コミュニティー全体にとって善なるものだけが個人の善となりえる、と考えられているそうです。“すべての人をつなぐ一致団結の絆”を意味する「ウブントゥ」という言葉は、こうした思想が根底にあるといえます。

風土も、文化も、歴史も違うけれど

世界には日本と全く異なる文化があるということも、この本は教えてくれます。特に印象的だったのは、アイスランドで使われている「ソラーフリ」という言葉でした。亜寒帯気候の地域では、天候が安定しないため、晴れた日のあたたかい日差しはとても貴重です。「ソラーフリ」は、この時間を最大限に利用しようとするアイスランドの文化、“天気がよいので急に仕事が休みになること”を表しています。

ほかにも、日本でも少しずつ知られるようになってきた言葉もあります。生を養うこと、健康を保つことを意味する北京語の「養生」や、ヨガ哲学にもある不殺生、非暴力を意味するサンスクリット語の「アヒンサー」、デンマークやノルウェーで心地よく気楽な居場所を作り出して幸福感を高める暮らし方を表す「ヒュッゲ」などもその一つです。

“天気がいいので仕事が休みに” 世界の「翻訳できない言葉」で知る、何が大切か
『幸せに気づく世界のことば』メーガン・C・ヘイズ(著)、イェレナ・ブリクセンコヴァ(絵)、田沢恭子(訳) フィルムアート社 1,600円+税

特に「ヒュッゲ」は、ここ数年、日本でも暮らしのお手本として支持されているように感じます。北欧の冬は、日照時間も短く寒さも厳しいので、人びとは自分が心地良く、ぬくもりを感じるような「もの」「こと」を楽しみながら冬を過ごすといいます。日本でも、寒い日にあたたかい部屋で過ごす時間は心が落ち着くひとときですが、これを一言で表すには、なかなか適当な言葉が思い浮かびません。厳しい自然と共存しながら、より豊かな暮らしを追求する北欧だからこそ生まれた言葉なのかもしれません。

世界中から集められたどの言葉にも、その土地から生まれたストーリーがあり、その中心にいるのは、幸せな暮らしを願う「ひと」です。風土も、文化も、積み重ねてきた歴史もそれぞれ違いますが、よりよく生きようとする思いは、世界のどこにいても同じです。帯には「翻訳できない言葉が教えてくれるいろとりどりの幸せのカタチ」とうたわれています。

日本語にも「翻訳されない言葉」はあるのか?と思っていたところ、しっかりと紹介されていました。「生き甲斐(がい)」「幽玄」「静寂」です。

最後に、「生き甲斐」の紹介から、幸せに生きるためのヒントの一文をご紹介したいと思います。

自分の生き甲斐が何か、あなたはすぐに言えるだろうか。それともこの深遠な目的意識という理想について、まだ懸命に探求している最中だろうか。(略)生き甲斐とは静止した状態ではなく、自分にもとから備わる可能性を開花させていくゆるやかなプロセスなのだ。

“天気がいいので仕事が休みに” 世界の「翻訳できない言葉」で知る、何が大切か
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PROFILE
藤井亜希子

ふじい・あきこ
湘南 蔦屋書店 旅コンシェルジュ
旅行会社勤務時代は、海外ホテルやオプショナルツアーなど現地への手配を担当。その経験を生かし、ハワイ・北欧・フランス・イギリスなどを中心に、旅行書の選書をはじめ世界各国の自然や文化、人々の暮らしなどその土地にまつわるフェアや旅行イベントを提案。プライベートでは、自他ともに認めるハワイラバー。

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