&M

大御所シェフのいつものごはん
連載をフォローする

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

卓越した技術・味覚・知識を持つ料理界のトップランナーが、行きつけの飲食店を明かす連載「大御所シェフのいつものごはん」。

今回から3回連続でフレンチの大御所・田中彰伯シェフが通う店を紹介します。初回は東京・赤坂にあるジンギスカン専門店 「札幌成吉思汗『しろくま』赤坂店」です。

 

今回の大御所シェフ

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

田中彰伯さん(たなか・あきのり)
1961年、東京生まれ。15歳でフランス料理の道へ。85年に渡仏、パリの「ラ・ブールドール」でシェフ代行、「アランレイエ」で魚部門シェフをつとめ、南仏の「レ・サントン」ではシェフとして1つ星獲得の快挙を達成。帰国後、代官山「ロジェ・ベルジェ」総料理長を経て、93年に南青山「レ・クリスタリーヌ」を独立開店。現在、渋谷「コンコンブル」、新宿「クレッソニエール」のオーナーシェフ。料理ボランティアなどの地域活動にいそしむ一方で、フランス料理を題材とする画家としても活躍中。

 

オススメの飲食店

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

札幌成吉思汗「しろくま」 赤坂店
厳選したオーストラリア産ラム、アイスランド産ラム、ニュージーランド産マトン、北海道産羊肉が楽しめるジンギスカン専門店。赤坂店のほか、札幌、新橋など計4店を展開。

 

羊肉、タレ、野菜、道具……全て完璧で一目ぼれ

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

本店は札幌すすきのに2005年オープン。赤坂店も「ここは北海道?」という雰囲気

15歳からフランス料理ひとすじだった田中彰伯さんが、各種料理の外食に開眼したのは、2001年に「コンコンブル」を開いたのがきっかけだった。

本格的な家庭料理や郷土料理を驚異的お手頃価格で食べられるコンコンブルは、“カジュアルフレンチ食堂”のはしりになった店。1店目の「レ・クリスタリーヌ」もリーズナブルなレストランだったが、さらに「安くておいしいフランス料理を」という夢を実現させた田中さんは、おいしいものを適正価格で食べさせる店はどんな商いをしているのか、外の世界を勉強したくなって食べ歩きをはじめた。

フランスでは羊料理が発達していることもあり、ジンギスカンはとくにお気に入りのジャンルになった。最初は新宿御苑近くにあった店に通いつめたが、突如、閉店。困った田中さんは、知人に聞く、ガイド本を読む、ネット検索と、あらゆる手を尽くして調べ、都内のジンギスカン屋へしらみつぶしに行ってみた。でも、全部がどこか少し違う。

「違う、違う」とさまよい続け、9年目でついに巡り合ったのが「しろくま」だった。

はじめて訪れたとき、たまたま芳賀亜由美店長が肉を手切りする正面の席に座らせてもらい、注文が入ってから切る様子をつぶさに見ることができた。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

ロース、バラ、ヒレなど各部位に切り分けたかたまりから、注文ごとに手切りする芳賀店長

「羊は他の肉と比べて表面の酸化が速いんですが、切り置いている店が大半で、切りたてを食べさせる店は珍しい。しかも、産地や品種や月齢の違う複数の羊肉が用意されていて、店長は肉の状態や部位によって厚みや切り方を丁寧にかえていた。突き出しまで羊で、どんだけ羊が好きなんだ、と思いました」

細いスリット状の穴があいた鉄鍋と炭火の七輪という道具も理想的で、タレも好み、野菜も実においしい。田中さんは一目ぼれしてしまった。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

北海道産羊肉、同じく道産のタマネギとジャガイモを塩味で煮込んだ突き出し

グルメ垂涎「茶路めん羊牧場」の羊肉も

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

羊肉の風味を最大限に引き出すべく配合されたタレ。好みでトウガラシ粉、ニンニクを加えても

北海道のジンギスカンは、タレに漬け込んでから焼くのが原型だが、しろくまの場合は焼いてからタレか塩で食べる。タレは、甘み控えめのあっさり、すっきり味。

メニューに載る羊肉は、オーストラリア産ラム、アイスランド産ラム、ニュージーランド産マトン、北海道産の4種類。道産は7カか所の牧場と提携し、なかでも突出した品質の「茶路めん羊牧場」が羊肉を卸しているジンギスカン専門店は、全国でも札幌と東京のしろくまだけだ。

白糠町にある茶路めん羊牧場の開設者、武藤浩史さんは「日本の緬羊(めんよう)史を変えた」として知られる人。道産材料を配合したオリジナルの餌による飼育、食肉加工と販売、羊毛製品生産を一貫して手がける。

芳賀さんは武藤さんのもとで1週間研修し、羊の世話や餌の内容、病気のことまで学んだ。「羊とのふれ合いで、ジンギスカンに対する意識がかわりました。産地や品種、餌によって肉質がかわることも知り、おかげで自信を持ってお客さんに説明できるようになりました」という。

慣れていない客には店員が焼いてくれるが、田中さんは自ら焼く。「本当においしそうに焼いてくれて、見ていてうれしいし、勉強にもなります」と芳賀さん。この日も田中さんに4種類を全部焼いてもらった。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

産地や部位に合わせて微妙に焼き方をかえる田中さん。まさに手つきはプロ

最初は香りがおだやかで肉質も繊細なオーストラリア産ラム。なお、羊の年齢は歯でわかる。国によって規格は異なるが、一般的に生後1年未満で永久歯が生えていない子羊をラム、1歳以上2歳未満で永久歯1〜2本が生えはじめた若羊をホゲット、永久歯が3本以上生えた成羊をマトンと区別する。

鉄板が温まったら、まず脂をてっぺんに、周囲の溝にタマネギを表面が上になるようにのせる。この向きだと、タマネギが屋根になって下に熱がたまるのだそうだ。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

スリット入り鉄鍋は溶けた脂が炭に落ち、より香ばしく焼ける。タマネギは北見産を使用

脂が溶け出して鉄板が熱くなったら脂を全体にならし、はじめて肉をのせる。

「半生で食べたいが、焦げた香りもほしいので、表面はしっかり焼き、裏返したらさっと。ラムはあっさりしているので塩で。表面だけにふります」

この塩、実はたいへんな手間をかけている。モンゴル産の岩塩を、2時間かけて細かい粉状になるまでゴリゴリすりつぶすのである。「料理に愛情がないと、そんなことしないよね」という田中さんの言葉どおり、ここまでする甲斐(かい)のある塩味がつけられるそうだ。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

表面全体にきつね色の焼き色がついたらひっくり返し、裏側は軽く焼く。いい羊肉は加熱しても水分があまり出ない

 

次は、アイスランド産ラム。9世紀にバイキングが島に持ち込み、他品種と交配することなく保たれた世界でも類を見ない古代種で、輸入量のわずか1%という希少品。飼育は放牧中心で、穀物や配合飼料はいっさい与えられない。

肉にするのは生後4〜5カ月の子羊。脂身が少なく、女性に人気が高い。「オーストラリア産よりさらにあっさり。ずっと食べ続けられる淡泊さがいい」と、田中さん。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

アイスランド産ラム1人前1300円。脂身が少なく、赤身の色は淡くて繊細な肉質だ

様々な月齢の羊肉を味わい尽くす 

3番目は、茶路めん羊牧場のホゲット。月齢20カ月の肉はラムより赤みが強い。部位は、ロース、内もも、シンタマ、外ももの盛り合わせだ。

芳賀さんは、肉をさわったときの弾力で味と食感が判断できる。茶路の羊に関しては一度も悪い肉に当たったことがなく、「いつでも感動的においしいです」ときっぱり。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

北海道産の羊肉は1頭丸ごと買いつけて、一度も冷凍せずに提供。サフォークは肉用として代表的な品種

田中さんは肉を見て、「脂と赤身とのバランスが最高。注目してほしいのは、食べるときに表面が上になるよう、脂の側を下に皿に盛りつけてあることです」。なるほど、この向きのまま鍋にのせれば、ひっくり返して食べるとき、脂が上側の美しい姿になるわけだ。

さっと焼いてひと切れ食べた田中さんは「前に食べた16カ月齢のホゲットより、味が濃い。道産の羊は月齢によって味も色も香りもぜんぜん違う。部位によっても、それぞれのおいしさがある。そういう味わい方ができるのは、唯一この店だけです」と、これまたきっぱり。

この頃になると、タマネギが下に落ちた脂を吸って、いい感じに火が入っている。天地を返し、適量の塩をふってシンプルに甘みを引き出すのが田中さん流だ。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

2時間かけてすりつぶした塩は、岩塩とは思えないほど粒子が細かい。国産羊はそのものの味を楽しむため、田中さんは塩で食べる

最後は、ニュージーランド産マトン。大人の羊だから、脂がのって赤色が濃い。香りが強く、味もしっかり。歯ごたえがあり、かめばかむほどうま味が出てくる。「これぞザ・羊」と表現する田中さんは、タレをたっぷりつけて楽しむ。

脂の多さにためらう人もいるが、羊の脂はコレステロールを下げる働きをする不飽和脂肪酸が多く、赤身には体内の脂肪の燃焼を助けるカルニチンという栄養素が豊富に含まれる。なにより田中さんが「羊の脂は本当においしい」というように、脂自体に味がある。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

ホゲットのシンタマ。非常に柔らかな赤身なので、たたき程度に両面さっと焼くのがベスト

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

味が濃く、香りが強く、脂の量も多いニュージーランド産マトンは「ザ・羊」の風格ある肉

「最高のしめ」はもちろんご飯で

しめは、ひとくちカレー。道産羊の肉とすね骨、タマネギを2日間かけて煮込んだ人気メニューである。ご飯は北海道の銘柄米「ふっくりんこ」。甘みが強く、ふっくらやわらかなご飯と羊カレーの相性が最高だ。

田中さんもうひとつのおすすめが、お茶漬けである。残ったタレをご飯にかけ、熱々のほうじ茶を注ぐ。タレに移った肉のうま味と脂が広がって、なんともいえない香ばしさと妙味が生まれる。「スープがわりにもなって、最高のしめでしょ」と田中さん。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

白いご飯にタレを適量かけ、ほうじ茶を注ぐ。ジャスミン茶でもおいしいそうだ

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

具がたっぷりのひとくちカレーは400円

豚、牛、鶏、海鮮といろいろな専門店で経験を積んだ芳賀さんにとって、羊はそれまで以上に情熱をわき上がらせる素材になった。

いまは仕事が楽しくて仕方がない。もっとおいしく、もっと気持ちよく食べてもらいたいと、定休日にも店に来て仕込みや掃除にいそしむ日々。羊の脂は粒子が細かいためか壁や家具にこびりつきやすく取りづらいが、店内はピカピカと清潔そのものだ。

「これだけの店を探し当てられたことは、人生でも多くはない。出会えて本当によかった」。田中さんにそこまで思わせるのが、しろくまと芳賀さんである。

「ジンギスカンは、もうここで決まりだ」9年して巡り合った感動の羊肉

芳賀亜由美店長(右)と、しろくまで働いて8年目の鈴木佐和子さん

(撮影=小島マサヒロ)

 

 

店舗情報

札幌成吉思汗「しろくま」 赤坂店
東京都港区赤坂3-6-13 アニマート赤坂2F

地下鉄千代田線「赤坂」駅より徒歩3分、銀座線「溜池山王」駅より徒歩5分、丸ノ内線「赤坂見附」駅より徒歩5分
03-3583-4690
営業時間  平日18:00〜25:00(L.O 24:30)/土17:00〜23:00(L.O 22:30)
定休日:日曜、祝日
公式サイトはこちら

 

田中彰伯シェフのお店

コンコンブル
東京都渋谷区渋谷1-12-24 707渋谷ビル1F
JR「渋谷」駅より徒歩2~3分
03-5467-3320
ランチ 11:30~14:00(L.O.)/18:00~22:30(L.O.21:00)
定休日:火曜
公式サイトはこちら


クレッソニエール
東京都新宿区新宿3-4-8 京王フレンテ新宿3丁目 B1F
丸ノ内線、副都心線「新宿三丁目」駅より徒歩1分
03-3350-4053
営業時間:11:00~16:30(L.O.15:30)/18:00~22:00(L.O.21:00)
定休日:不定休(ビルの閉館日に準じて休業)
公式サイトはこちら

REACTION

LIKE
COMMENT
0
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら