美しきインドの日常
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無駄があるからこそ美しい。グローバル化する中、インドで見つける「美」

インドの女性たちが身に着けているサリーは、とても色鮮やかな民族衣装だ。サリーは長さが5mほどもある長方形の布で、体全体を包むように巻き付けて着用する。同じインドでも地方によってサリーの着方はさまざまだが、どの地域でも原色に近いビビッドな色合いが好まれているようだ。太陽光線が強烈なインドでは、地味な服装は似合わないと考える人が多いのだろう。

無駄があるからこそ美しい。グローバル化する中、インドで見つける「美」

畑で豆の収穫を行うラバリ族の女性。白い腕輪を全部で50本以上身に着けて働いている(撮影:三井昌志)

ピアスやネックレスなどのアクセサリー類も、貴金属を使ったきらびやかなものが多い。インドでは一部のお金持ちだけでなく、庶民のあいだにも金や銀を使った装飾品が普及しているのだが、これは「銀行にお金を預ける代わりに貴金属や宝石を買うことで財産を守る」という昔からの習慣が大きく影響しているようだ。

北西部ラジャスタン州の乾燥地域に住んでいるラバリ族の女性たちが身に着けている装飾品も、とてもユニークだった。彼女たちは「チュラ」と呼ばれる腕輪を何十本も腕に着け、それで腕全体を覆っているのだ。その昔、チュラは象牙や陶器などで作られた高級品で、金や銀と同じように「持ち運べる財産」としての意味合いが強かったようだが、安いプラスチック製品が大量に出回るようになった今では、普段使いのファッションアイテムになっているという。

無駄があるからこそ美しい。グローバル化する中、インドで見つける「美」

大きな水がめを頭に載せて運ぶ女性。このような力仕事の場面でも、腕輪は外さない(撮影:三井昌志)

ラバリ族の女性たちは、このチュラを一日中着けたまま生活している。畑で農作業を行うときにも、頭に水がめを載せて運ぶときにも、幼い子供をあやすときにも、腕輪を外すことはない。硬いプラスチックでできているから着け心地は良くないだろうし、仕事の邪魔にもなるはずだ。赤ちゃんにしたって、硬い腕輪越しではなく、お母さんの腕に直接抱っこされた方が気持ちいいだろうと思う。しかし、彼女たちは利便性や着心地よりも、見た目の美しさの方を優先させている。

こうしたインド女性のユニークなスタイルが伝えているのは、「文化とは合理的なものではない」という事実だ。動きやすさや機能性という点で、サリーよりも優れた服はいくらでもあるだろうし、もし着心地を優先するのなら、チュラを外して生活した方がいいに決まっている。にもかかわらず、彼女たちはただ「美しい」という理由で、それを選んでいる。そこに合理的な意味はない。つまり「役に立つか」「立たないか」という尺度では決して測れないものが、固有の文化であり、美意識なのだ。

無駄があるからこそ美しい。グローバル化する中、インドで見つける「美」

腕輪を着けたまま我が子を抱くラバリ族の女性(撮影:三井昌志)

近年、グローバル化とIT化が急速に進んだことによって、地球上の誰もが瞬時に同じ情報を共有できるようになり、誰もが似たような考え方、価値観を持つようになっている。インド人もアメリカ人も日本人も同じプラットフォームのSNSを使い、同じように写真をシェアし、メッセージを交換し合っている。人工知能を使った翻訳サービスのおかげで、言語の壁さえ取り払われようとしている。

このような「世界的規模の価値観の統合」は今後も続いていくだろう。しかしたとえそうだとしても、それぞれの地域に固有の美意識が消えることはないはずだ。むしろ、民族や共同体が独自に持っている文化の価値は、これまで以上に高まるのではないかとさえ思う。

やっぱり、みんな同じじゃつまらないから。人間は「人と同じでありたい」と思うと同時に、「人とは違っていたい」と願う生き物だから。ため息が出るほど色鮮やかなサリーを身に着けたインド女性を見るたびに、僕はいつもそう思う。文化とは本質的に無駄なものであって、だからこそ美しいのだ。

僕らがわざわざ遠い異国を旅するのも、「違い」を求めているからだ。自分が生まれ育った土地とは違う世界に触れたくて、僕らは旅をする。自分が慣れ親しんだものとは違う文化や美意識を持つ人に会いたくて、僕らは旅に出るのだ。

僕はインドでさまざまな「美」に出会い、それぞれの個性的な「色」を写真に収めてきた。

インドは、そして世界は広大だから、まだ誰にも知られていない「美」は数限りなく存在しているはずだ。

そこにしかないユニークな「美」を求めて、これからも僕は旅を続けていくだろう。

三井昌志さんの連載「美しきインドの日常」は、今回の第16回をもって終了します。ご愛読いただき、ありがとうございました。

三井さんの新刊『Colorful Life 幸せな色を探して』(日経ナショナル ジオグラフィック)が、2020年12月に刊行されました。

バーチャル写真展「The Essence of Work」が開催中。

>>「美しきインドの日常」連載一覧へ

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