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パリの外国ごはん ふたたび。
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恋しいあの街並み。そうだ、ポルトガルの総菜を買いに行こう/Don Antonia

連載「パリの外国ごはん」では三つのシリーズを順番に、2週に1回配信しています。
《パリの外国ごはん》は、フードライター・川村明子さんと料理家・室田万央里さんが、暮らしながらパリを旅する外国料理レストラン探訪記。
《パリの外国ごはん そのあとで。》では、室田さんが店の一皿から受けたインスピレーションをもとに、オリジナル料理を考案。レシピをご紹介します。
今週は川村さんが心に残るレストランを再訪する《パリの外国ごはん ふたたび。》をお届けします。コロナ禍でお店での食事がかなわない今、テイクアウトで「ふたたび」です。

クリスマス直前の週末、サン・マルタン運河近くにあるポルトガル総菜店「Don Antonia(ドン・アントニア)」に電話をかけた。

店にはいつも女性2人が立っているが、電話に出たのは男性だった。「お伺いしたいのですが、来週も、いつもどおりオープンしていますか?」と聞くと、「開いてますよ~。金曜まではいつも通り。月曜だけはお休みだけれどね」と、とてもおおらかな口調で返事が来た。「24日も?」「24日も。あ、でもね、24日は17時まで。17時までと言ったら、17時ぴったりに閉めるからね! ぴったりだよ!」。ちゃめっ気たっぷりに言われて、電話口のこちらとあちらで声をあげて笑った。

昨年の春から、折に触れて、4年前に出かけたリスボンの街並みを思い出している。クリスマス直前に訪れた4泊5日の旅。人々が買い物袋を下げて教会に立ち寄っているのが印象的だった。とても気軽に、でもだからこそ日常の一部であることがわかって、真摯(しんし)に感じられた。天井のフレスコ画がフランスには無い鮮やかな色彩で、対照的に、パティスリーのショーケースは、焼き菓子もしくは揚げ菓子の茶色と、卵の黄色の2色で埋め尽くされていた。

訪れたのが12月だったからか、年末のホリデーシーズンに向かう空気が高まるパリで、またもリスボン旅を思い出して、干し鱈(タラ)のコロッケだとか、エッグタルトをつまみたい気分になった。クリスマス直前はいつも気ぜわしい。落ち着いてランチを用意する余裕もないから、そのタイミングでポルトガルのお総菜を買いに行こう!と思い立った。

恋しいあの街並み。そうだ、ポルトガルの総菜を買いに行こう/Don Antonia

12月15日から、それまでは終日施行されていた外出禁止が、20時から6時までに緩和された。11月にひと月、生活必需品以外を扱う店が閉まっていた反動も手伝ってか、街中は買い物客でにぎわっていた。一方、フランスではPCR検査を処方箋(せん)なしかつ無料で受けることができ、薬局の前に立つ検査のための仮設テントを随分と見かけるようになった。クリスマス前の週には、抗原検査(薬局で受けられる。こちらも無料)と合わせ、多い日には70万人が検査を受けたという。

そんな風にウイルスと共存する日常を過ごす中で迎えた12月21日の週。ポルトガルのクリスマス菓子、ボーロ・レイもあるかなぁと期待しながら、Don Antoniaへ向かった。サン・マルタン運河を渡るときに鳴き声が聞こえ、見ると、カモメが集っていた。水際には、風に当たりながらランチを広げる人たちがちらほらいて、のどかだ。

恋しいあの街並み。そうだ、ポルトガルの総菜を買いに行こう/Don Antonia

店の前に着くと、淡いグリーンの外壁に囲まれたショーウィンドーには、お菓子にサンドイッチ、総菜パンが勢ぞろいしていた。新作、とインスタグラムにアップされているのを見て食べてみたかった、ハムとチーズを折り挟んだ塩味のブリオッシュの姿も確認した。

店内のショーケースには、塩漬け干し鱈“バカリャウ”が主軸の総菜が並んでいる。上の段には、揚げ物が数種類。タコのフライもある。デザートも何か買いたいし……と端から端まで目を走らせて、またいつ来られない状況になるか分からないし、ともかく気になるものは買うことにした。気分はまるで、旅先だ。

会計のときにおなかがなってしまい、言い訳がましく「とてもおなかが空いていて……」というと、この日店頭に立っていたオーナーの奥様が、あめ玉の包みをばらばらばらっと袋に入れてくれた。店から自宅までは45分ほどかかる。地下鉄に乗ってから袋の中を探ると、あめは六つあって、包みには蜂の巣が描かれていた。のどにも良さそうだ、と思いながら、ポルトガルの蜂蜜あめを口に放り込んで家に帰った。

恋しいあの街並み。そうだ、ポルトガルの総菜を買いに行こう/Don Antonia

帰宅するや、オーブンで揚げ物を温めた。買ったのは4種類。まずは、ポルトガルの味、バカリャウの天ぷらから食べることにした。玉ねぎも少し入っていて、塩気の中に甘みもあり、おいしい。

次に、長方形で細長く、イカと言われた方が納得のいくような形状のタコの天ぷら風に口をつけた。ものすごく軟らかい。はんぺんが少し硬くなった、くらいの柔らかさ。衣は、先に食べたバカリャウの天ぷらと同じだろうけれど、こちらの方が厚めで、温かいつゆを張ったおそばの上に載せても違和感がなさそうだ。

恋しいあの街並み。そうだ、ポルトガルの総菜を買いに行こう/Don Antonia

続いて、見るからに香ばしそうなコロッケを食べることにした。見た目にたがわず、噛(か)むたびに衣が軽快な音を立てる。バカリャウとジャガイモ、ハーブを合わせたものだけれど、バカリャウの天ぷらよりも塩気は強い。オリーブオイルもたっぷり加えられている印象で、しゅわしゅわっとしたお酒に合いそうだ。

この後に、牛ひき肉のエンパナーダを揚げたものを食べたら、ほんのり甘く感じた。もしかしたらシナモンが少し入っているのだろうか? そういう甘さだった。

結構衣がしっかりしていたこともあってか、この四つで十分におなかが満たされた。のだけれど、食い意地が張って、バカリャウのおかずも少しだけ食べてみたかった。箱を開けてみたら、どうやって詰めたのだろう?と、その様子を見ていなかったことを後悔する美しさで、それをなるべく崩さぬようにお皿に盛った。

恋しいあの街並み。そうだ、ポルトガルの総菜を買いに行こう/Don Antonia

小粒のジャガイモに粗くほぐしたバカリャウのオーブン焼き。オーブンで温めなおしたら、バカリャウの身がふっくらとして、味も優しくふわっとしていた。冷めているそれは身がしまって、塩味も強かったのだ。こんなにも変わるのか、と驚いた。姿は見えないもののニンニクの香りが食欲を刺激し、かぶの葉が全体の味を引き締めて、上に散らされたブリオッシュ生地かと思われるパン粉が軽やかさを出していた。こんなにおいしい料理には、リスボンでは出合えなかった。家族経営のこの店だからこそ味わえる、これは、家庭の味なのかなぁ。

夕方になってから、濃いめに淹(い)れたコーヒーとエッグタルト“パステル・デ・ナタ”を堪能して、翌朝、ハムチーズ入りブリオッシュを温め直して食べた。やっぱりコーヒーと一緒に。喫茶店のモーニングで出されるチーズトーストに通じる、親しみを覚えるおいしさだった。

恋しいあの街並み。そうだ、ポルトガルの総菜を買いに行こう/Don Antonia

Don Antonia(ドン・アントニア)

8, rue de la Grange aux Belles 75010 Paris

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