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インターネットを見すぎてしまう私 「間違った考え」を持つのが怖いです(コンシェルジュ:小出祐介) 

読者の皆さまから寄せられた相談やお悩みに、映画を愛する様々な分野の方々が寄り添い、最適の作品を紹介する隔週連載。

コンシェルジュは映画コメンテーター/タレントのLiLiCoさん、CGクリエーター/映画監督のFROGMANさん、Base Ball Bear・小出祐介さんの3人です。今回のコンシェルジュはBase Ball Bear・小出祐介さんです。

インターネットを見すぎてしまう私 「間違った考え」を持つのが怖いです(コンシェルジュ:小出祐介) 
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PROFILE
小出祐介

2001年に結成されたロックバンドBase Ball Bearのボーカル・ギターを担当。これまで2度にわたり、日本武道館でのワンマン公演を成功させる。また、音楽プロジェクト・マテリアルクラブの主宰も務める。

〈相談者プロフィール〉
三浦 都(仮名)
22歳 女性
東京都在住 大学生

“間違った考え”を持つことが怖く、悩んでいます。

私は現在大学4年生です。ほとんど単位も取り、第一志望ではありませんが希望していた企業に内定をいただき、最近は卒論やバイトや遊びにそれなりに充実した日々を過ごしています。ですが、これから大人として生きていくにあたり“間違った考え”を持ってしまうことへの恐怖感を抱いています。

私はインターネットを見すぎてしまう傾向があり、それもよくないなと思っているのですが、インターネット上では毎日のように前時代的であったり、差別的であったり、配慮のない発言が話題になっては批判を浴びています。私もそうしたものを見て、確かに問題だと感じ嫌悪感を抱いたり、また自分自身の問題に気付かされたりもするのですが、そのうち自分がそうした発言をしてしまう側にならない保証がないことのほうが気になってきました。

私は自分をとても未熟な人間だと思っています。恵まれた環境で育ち、高校生までは色々ありながらも充実した日々を送り、自尊心のようなものも育ったように思います。ですが、大学に入ってから自分の人間的な欠点を痛いほど思い知りました。

夢を持って入学した大学での勉強はサークルと両立できず中途半端になってしまい、そのサークルも責任ある役職に就いたにもかかわらず自分の至らなさや周りとうまく付き合えなかったこと、そもそもサークルの性質が合わなかったことなど色々なことが重なり疲弊してしまい、3年生の夏に辞めてしまいました。

また、今は比較的よくなりましたが、そのときから落ち込みグセのようなものがついてしまい、ささいなことに深く落ち込んでしまうようにもなってしまいました。  

常に問題意識を持ち、一つ一つ学び、よく考え、そもそも何が間違った考えなのかを判断できる知識を身につけた立派な人になることができればよいのでしょうが、自分にそんな膨大な努力ができるととても思いません。

いつも感情に引きずられてしまい、人付き合いもそんなに得意でもなく、苦手なことの多い私の人間的な悪い部分が年を重ねるにともないどんどん凝縮されていき、人や自分を傷つけるゆがんだ考えを持つようになってしまうのではないかと考えると怖くなってしまいます。 

乱筆乱文どうぞお許しください。こうした気持ちが落ち着くような映画がありましたら紹介していただきたいです。

ネットで見る情報は“匂い”程度のもの

三浦さんのお気持ちよーくわかります。

僕もSNSを見ていて、「おえー」となることが結構あるのですが、その対策として最近は見ないようにしています。シンプルです。

もしくは、「どんなものでも来い」という気持ちで見ます。いやなものを見てしまっても、真に受けずに心の間合いを取り、「へぇ~~そうなんだ~~」という姿勢でいます。

Twitterなどは本来議論にはあまり向いていないプラットフォームだと思いますし、何かが足りないまま続くやり取りをするのも見るのもしんどいです。

SNSで得る情報というのは、ほんのとっかかり程度に考えるのがよいのではないでしょうか。

そこから先は自分で調べたりしていくことになるわけですが、ここからが本題ですね。

まず以前、友人のハマ・オカモトくんから聞いた話なのですが、ラジオのゲストにあるタレントさんが来た際に「ネットで見る情報は“匂い”程度のものだと思っている」とおっしゃっていたそうで。

まとめサイトなどを見て、知った気になるのは危険。だから、気になることがあったら必ず本をいくつも読んで調べている、と。

これに僕はとても感銘を受けました。

ネットで“匂い”を嗅いで、気になったら追いかけて調べる。とても上手なネットの使い方だなぁと。

もし、“匂い”という表現がわかりにくかったら、“あらすじ”に置き換えてみるとどうでしょうか?

例えば、『ドラゴンボール』のあらすじを読んだからといって、『ドラゴンボール』を読んだことになるでしょうか?

物語の流れや孫悟空がめちゃくちゃ強い人なのはわかっても、なぜそんなに強いのかはきっとわからないですよね。

本編を読んで初めて、サイヤ人は瀕死(ひんし)から回復することで大幅に強くなるという特性を持っているんだ、だから死闘を繰り広げるたびに強くなってきたのか、とわかるわけです。

もちろん、最近はとても詳しいネット情報も多いです。

実際、動画のほうがわかりやすかったり、情報発信に適している分野もあるので、すべてを信用するなとは言えませんが、やはり「短く簡潔にまとめられているもの」を見て読んで終わりにしてしまうと、「雑学が増えただけ」になる気がします。

しっかりと知識や見識を得ようと思ったら、やはりその先に進まなければなりません。

そして“間違った考え”についてです。

僕は基本的に「それは間違った考えだ」「これは正しい考えだ」とジャッジしきってしまうことも危険だと思っています。

「考え」という点がポイントです。

例えば、森達也監督の『A』(1998年)というドキュメンタリー映画では、地下鉄サリン事件の約半年後からオウム真理教の内部に密着していますが、静かに信仰を続けている一般の信者側から見てみると、「カルト宗教よ出ていけ!」と施設の周囲に看板を立て、抗議運動をしている人々のほうがむしろ過激で異様に映ります。

犯罪行為を擁護するつもりはありません。それはちゃんと「悪い」です。

また、ドキュメンタリーも、撮影や編集の仕方によっていかようにも「意味」を持たせられるものですので、作品で描かれたことはあくまで監督の目を通した事実の一つの側面であり、完全な真実だとしてしまうのも違うとは思います。

ただ、「こちら側の正しさの反対」にあるのは、「向こう側にとっての正しさ」でもあるのだと気付かされました。

何が正しくて、何が間違っているのか、という「考え」はやはり、それぞれ個人が持つ世界観に由来するものなのではないでしょうか。

差別についても、同じことがいえると思います。

冒頭にも書いたとおり、僕はもう差別的なものを見かけたりするのがしんどいです。

「なんでそういうこと言うの?」と思うようなことがありすぎて、一人怒ったりもするのですが、同時に「どうしてここまで自分と考え方が違うのだろう」と考えます。

相手は「絶対にこうだ」と思っているわけですから。

そういうときに、やはり歴史の勉強は参考になってくると思います。

性、人種、信仰、文化、国家などについての歴史を学ぶことで、「いまこうなっている」ことの流れをつかめるようになるでしょう。

現在起きていることは突然始まったものではなく、歴史の積み重ねの先にあるものですから、歴史認識が争点となる問題も多いわけです。

僕も何もかもを理解しているわけではないです。

だからこそ、三浦さんのおっしゃるとおり、よく学んでいきたいと思っています。

常に自分の「正しさ」について疑い、考え、検証し、更新を続けていくことこそが、「問題意識」なのではないでしょうか。

また、それらは膨大な努力というよりも、むしろ習慣によって培われるものだと思います。

まずはネットの情報で完結せずに、気になったことは本を読んで調べてみましょう。

大型書店や図書館でタイトルを眺めたり、パラパラとページをめくってみるだけでも、イメージできることは変わってくると思いますよ。

さて、今回はドキュメンタリー映画を。

先程も触れた森達也監督『A』、『A2』(2002年)、原一男監督『ゆきゆきて、神軍』(1987年)や『全身小説家』(1994年)も衝撃的な作品ですし、岡山の精神科の“観察映画”想田和弘監督『精神』(2009年)、国内で初めて刑務所にカメラが入った、受刑者同士の対話による更生プログラムを受ける受刑者たちのドキュメンタリー、坂上香監督『プリズン・サークル』(2020年)など、ぜひ見ていただきたい作品が多いのですが、ある意味究極の“正しい考え”“間違った考え”を体現した映画である、ジョシュア・オッペンハイマー監督『アクト・オブ・キリング』(2014年)をご紹介します。

1965年インドネシアで、スカルノ大統領派の陸軍左派によって起きたクーデター(未遂)を、のちに大統領となるスハルト少将が鎮圧。

インドネシア全土にわたり「共産党員狩り」が行われ、100万人以上が殺害されたとされる事件(「9月30日事件」)が起きました。

2000年代初め、監督は事件被害者への取材を進めていましたが、インドネシアではこの事件について触れるのはタブーであり、軍の妨害によって撮影が中断。

監督は企画を変更し、実際に実行部隊だった人たちに「当時の虐殺行為を演じてほしい」とオファーをします。

実行部隊のメンバーたちは「これが歴史だ。これが我々だ」という記録を未来に残したいと、出演を快諾。虐殺の加害者側が政権を握っている社会であるために誇らしげに自らの行為を語り、虐殺の再現映画の撮影が始まります。

身の毛もよだつ虐殺行為を楽しそうに“再演”し、自らの主演映画撮影に陶酔していく、実行部隊のリーダーだったアンワルですが、「被害者の役」を演じたことで、変化が見られます。

アンワルは自分の行いを“間違った考え”だとしていた被害者側から体験したことで、被害者の感じた恐怖を理解し、罪を意識します。

何十年も信じていた自らの正義、“正しい考え”が覆ってしまったわけです。

この映画はかなり極端な例ではありますが、強ければ強いほど「正しさ」は、一つの方向に視野を狭める危険性もはらんでいると思います。

自らの言動で誰かを傷つけてしまうことが怖いという三浦さんは、とても優しい方です。

その優しさを原動力にして、豊かな視野を持ち続けられるように頑張ってみてほしいです。

あと、最後にすいません。

全然「気分が落ち着く映画」ではなかったですね……。

小出祐介さん推薦映画

アクト・オブ・キリング

監督:ジョシュア・オッペンハイマー

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