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「ブッダのような死に方」とは? イメージしづらい言葉で注意を引く技あり歌詞

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の5本。

 1 “ブッダのように私は死んだ”(坂本冬美の楽曲/歌詞:桑田佳祐)
 2 “へすってる”(ヒコロヒー)
 3 “ありがとうございます殺す”(中村玉緒)
 4 “顔脂がすごい”(ガンバレルーヤよしこ)
 5 “冷蔵庫理論”(佐藤正午)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

「ブッダのような死に方」とは? イメージしづらい言葉で注意を引く技あり歌詞

2020年末のNHK紅白歌合戦でも歌われた坂本冬美さんの『ブッダのように私は死んだ』。年末のお茶の間に「私は死んだ」なんて物騒な言葉が映し出されたのは新鮮で、とても刺激的なタイトルだなと思った。

このタイトルを一度見たら、誰でも一度はどんな曲なのか聴いてみたくなってしまうのではないだろうか。それほど強力な字面である。

もちろん、それは「私は死んだ」のインパクトもさることながら、「ブッダ」という言葉によるところも大きいだろう。これまでも宗教的、あるいは偉人の伝記的に、ブッダという人物について語られることは色々とあったと思うけれど、そのほとんどは「生き方」の方にフォーカスを当てたものだったのではないだろうか。

もし仮に、これがブッダではなく、『織田信長のように私は死んだ』であれば、本能寺の変が有名なので、「死に方」にフォーカスを当てられても、あれこれイメージが出来ようものだが、ブッダの場合はそうではない。

私を含めて多くの人は「ブッダのような死に方」と言われても特にイメージがなく、「おそらく彼の思想や生き方から察するに……」と推測するしかなく、でもそれが逆に「だからこそ、この歌を聴いてみたい」という強い参加意識を聴き手に植え付ける仕掛けになっている……とかなんとか、もっともらしいことをつらつらと書きながら、実際のところブッダの死因って何だったのかしらと気になって、ふとインターネットで調べてみたら、食中毒説が有力と知った。……そうなんだ。へぇー。今後この曲を強烈な腹痛をイメージしながら聴いてしまいそうで、調べなきゃよかったと少し後悔した。

 

 

「ブッダのような死に方」とは? イメージしづらい言葉で注意を引く技あり歌詞

昨年12月16日放送の日本テレビ『徳井と後藤と麗しのSHELLYと芳しの指原が今夜くらべてみました』でのこと。

「ぼっちを楽しむ女」というテーマで、ヒコロヒーさんが映画を一人で見るメリットを話していて、「彼氏と映画に行って、フライドポテト買って、映画の終盤になったら、彼氏がスッスッスッって、ポテトの底の粉みたいなのをへすってたんですよ。めっちゃ泣けるいいところで、へすってるやん、この人、ってなるので、まあ、一人の方が楽かなというのがありますね」と言った。

話している時の彼女のジェスチャーからも、「へする」というのは、底に残った塩やポテトのかすを指で取ることを指しているようである。これは方言なのだろうか。私は今まで「へする」なんて言葉は聞いたことがなかったし、その動作自体に名前をつけようと思ったこともなかったけれど、もし名付けるならばもうそれしかないんじゃないかという、やけにしっくりくる響きの言葉だなと思った。

これからは居酒屋でもろきゅうを頼んで最後のもろみ味噌(みそ)をきゅうりでこそげ取る時や、鍋の底の残ったカレーをしつこくすくう時などには、「へする」を使ってみようと思った。

 

「ブッダのような死に方」とは? イメージしづらい言葉で注意を引く技あり歌詞

昨年12月27日放送のTBS『爆笑!明石家さんまのご長寿グランプリ2020』でのこと。中村玉緒さんが、LINEの使い方を覚えてさんまさんにメッセージを送ってみたいと、初めてスマートフォンの使い方を教わっていた。

とはいえ、文字を1文字ずつ打つのはまだ難しいので、音声入力機能を使うことになり、「ありがとうございます」と声で入力した後、次にどうすればよいかを、教えてくれていた人に「……これ押す?」と青い矢印の送信ボタンを指さしながら確認をした。すると、その言葉もスマートフォンに聞き取られて、画面には「ありがとうございます殺す」という、なんとも恐ろしいメッセージが表示され、玉緒さんはそれに気づかずに送信してしまった。これには腹をかかえて大笑いした。

私もアイデアの断片をメモしたい時、たまに音声入力を使うけれど、最近の音声入力機能はかなり正確に聞き取ってくれている感じがする。それでも誤変換はまだまだあって、あとで読み返した時に、オモシロ謎解き状態になることもしばしばである。

余談だけれど、文字で見ると全然似てないのに、声に出すとものすごく似ている名前ってあるよなあと、ふと思った。私は普段は皆さんから「いしわたりさん」と呼ばれることが多いのだけれど、ある時、島谷さんという方とよく仕事で一緒になって、これがものすごくややこしかった。誰かが「しまたにさん」と呼ぶ声は、聴感上では限りなく「いしわたりさん」に近いのである。しょっちゅう間違えて振り返ったり、自分が呼ばれているのに無視してしまったりで、大変だった。

そういう「文字だと似てないのに聴き間違えてしまう名前」の一つや二つ、誰しもあるのではないかと思う。今度、周りの仕事仲間に聞いてみて、教えてもらったら5回に1回くらいはそのややこしいほうの名前でばれないように呼んで、一人でこっそり楽しもうと思う。

「ブッダのような死に方」とは? イメージしづらい言葉で注意を引く技あり歌詞

昨年12月28日放送のテレビ東京『間違えているのは誰だ!?クイズ!ハッタリくん』でのこと。

出題された一般常識問題に一人だけ不正解したのに正解したふりをしている「ハッタリくん」を予想して当てるクイズバラエティー番組で、「ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんは何の観測に成功した?」という問題が出題された時、カミナリの竹内まなぶさんがハッタリくんだと予想したガンバレルーヤのよしこさんが、「見てると、まなぶさんだけちょっと顔脂(がんあぶら)がすごい多めというか……」と言って、その文字が画面にもテロップでドンと映し出された。

うそをつく時などに緊張で顔がテカることはある。でも考えてみると、顔がテカる現象には、「テカリ」みたいに名前はあっても、その原因である「顔のあぶら」の方にはまだこれといった名前がなかったのだとあらためて気が付いた。

皮脂で顔をテカらせたい人など基本的にはいないわけで、つまりこのあぶらは誰にとっても敵というか、悪なのだから、これにつけられた「がんあぶら」という濁点多めの強くて悪そうなネーミングの響きは、ものすごくぴったりだなと思った。

「ブッダのような死に方」とは? イメージしづらい言葉で注意を引く技あり歌詞

佐藤正午さんのエッセー集『小説家の四季』を読んだ。その中に「冷蔵庫理論」というのが出てきて、ものすごく共感した。

簡単に説明すると、文章の推敲(すいこう)時に何度も自分の文章を読み返すのは書いた時には不注意で見えなかったミスを見つけるためなのだけれど、それとは反対に読めば読むほどに見慣れて見えなくなるものもあって、それはまるで毎日何度も開け閉めして、中に何が入っているかを把握しているはずの冷蔵庫の片隅に眠っている賞味期限切れの食品とよく似ている、という理論である。

先日この連載を書籍化するにあたって、私も何度も校正刷りを読み返しては、細かく文章を直していた。その時に、この「冷蔵庫理論」とよく似た感覚を経験した。読めば読むほどに脳は文章的にも映像的にも慣れてしまうし、そもそも自分が書いたことだから初めから内容は完全に理解しているため、確かにそこにあって目にも見えているはずの誤字や分かりにくい表現を見逃してしまうことがある。

思えば、私が日頃している作詞という仕事も全体が書き上がってくると、最終的にはおおむねこういう作業の繰り返しになる。わかりにくい箇所はないか、もっと良い言葉の使い方はないか、音符との相性はどうか、直しては少し間をあけて、脳が忘れた頃にまた直しての繰り返しをする。

ふと、“夜中に書いたラブレターを翌朝に読むとものすごく恥ずかしい内容になっている”みたいな現象も、もしかしたら広い意味では「冷蔵庫理論」に当てはまるのかもしれないなと思った。

君のここが好きだの付き合って欲しいだのと何度も書いては直しているうちに、そこにある小っ恥ずかしい表現を見逃してしまうからなのかもしれない。いや、そもそも恋というのは、最初はだいたい相手のいいところしか見えていないのだから、恋愛という感情そのものに「冷蔵庫理論」が当てはまるのかもしれない。

この理論は非常に汎用(はんよう)性が高いというか他にもたくさんのことに当てはまるような気がするのだけれど、どうでしょう。

 

<Mini Column>
がんばれ日本

いくらコロナ禍の正月だからといって、食べて寝てばかりでは体が重くなる一方で、これではいけない、何か家族みんなで楽しめる遊びはないかしら、と探しているうちにモルックに行き着いた。

モルックはフィンランド発祥のスポーツで、スキットルという1から12の数字の書かれた12本の木のピンを、モルックという円筒状の木を投げて倒して、先に50点ちょうど取った方が勝ちという、ボウリングとカーリングとダーツのいいとこ取りをしたようなスポーツである。

聴き慣れないスポーツだけれど、幼稚園児でも1回やれば分かるほどルールもプレーも簡単で、その割にゲーム性が高く、投げる距離のハンデだけ適度に与えれば子供も大人も対等に遊べる。しかも子供には足し算の練習にもなるから、もはや一石何鳥かわからない、すばらしいスポーツである。

モルックはさらば青春の光の森田さんがテレビでよく紹介していて、多分にもれず私もそれで知った。モルック日本代表にもなった彼いわく、日本モルック協会に「どうすれば日本代表になれますか」と尋ねたら、「世界大会までの旅費が出せる人」という答えが返ってきたそうで、「じゃあ旅費を用意するので日本代表になれますか?」と聞くと、「いいですよ」と言われ、技術ではなく金銭力で代表になったのだそう。マイナースポーツならではの、すてきなゆるさである。

ちなみに2019年の日本代表には7歳の男の子もいたらしく、もしこのまま我が家のモルック熱が冷めずに続いたら、いつか息子たちが日本代表になるようなことがあるのかもしれない。夢のあるスポーツである。

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