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Lorenzo STYLE
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「異例」が生んだ、ファッションの新しい見せ方 ピッティ・イマージネ・ウオモ 2021-22秋冬コレクション

イタリア男性ファッション キーワードは環境志向

イタリアを代表するメンズファッション見本市のひとつ「ピッティ・イマージネ・ウオモ」(以下ピッティ)のデジタル版が2021年1月中旬にスタートした。例年この時期フィレンツェで開催されるリアル版に代わるもので、いうまでもなく新型コロナウイルス感染症対策である。

第99回となる今回は、各ブランドが2021-22年秋冬コレクションを紹介した。その中から、いち早くプレゼンテーションを行った4ブランドを本欄で紹介する。浮かび上がってくる共通のキーワードは、「カジュアル」「タイムレス」「持続可能性(サステイナビリティー)」である。

先陣を切るかたちで1月12日にオンライン・イベントを行ったのは「ブルネロ・クチネリ」である。コレクションのテーマは「過去と未来の統合」。シンプルで長持ちするスタイルを長年にわたるスタイル追求の成果としてアピールした。

スーツおよびブレザーは、伝統的なパターンが新鮮かつモダンな雰囲気で再現されている。
筆者が観察するかぎり、トレンドを真っ先に露(あら)わにしてしまうラペルも、近年のブルネロ・クチネリの流れにしたがって、ほどよく広めだ。ボトムスは、スポーティーなシーンに触発された柔らかなボリュームを備えていることがわかる。より実用的なカーゴタイプも提案されている。

このブランドは過去数年の秋冬コレクションにおいて、ニット+ダウンジャケットの絶妙なコンビネーションを提示してきた。後者は丈のバリエーションで、より多様な組み合わせを可能にしている。

ブルネロ・クチネリ2021-22秋冬コレクションから
ブルネロ・クチネリ2021-22秋冬コレクションから
カーゴパンツもブルネロ・クチネリの手に掛かると、極めて上品になる
カーゴパンツもブルネロ・クチネリの手に掛かると、極めて上品になる

「ヘルノ」は、メインコレクションで展開されていたエコ・サステイナブル志向商品を包括するレーベル「ヘルノ・グローブ」の拡大を宣言した。これはブランドが2010年に開始した環境対応プロジェクトを、より推進するものである。テクニカルナイロン「ファスト5デグレーダブル」は、生分解に要する期間が一般的なナイロンだと約50年を要するのに対し、10分の1のおよそ5年で済む。もうひとつの「エコニール」は廃棄漁網などから再生した繊維である。すべてのスタイルにおける中綿は、古い羽毛布団からリサイクルされたものだ。ウールも化学薬品や染料の不使用にとどまらない。羊を育てる段階から農薬や合成肥料を用いない有機飼育にこだわる。

ヘルノ。染料を一切使わない「ダイフリーウール」によるコート
ヘルノ。染料を一切使わない「ダイフリーウール」によるコート
ヘルノ。100%リサイクルウールを使用したフード付きパーカー
ヘルノ。100%リサイクルウールを使用したフード付きパーカー

「キートン」は、従来は人々が多く集うスポットがトレンドであったのに対し、今日では家がそれに代わるものになっていると定義。そして自宅が仕事・リラクセーション双方の場であると、来季コレクションが活躍するシーンを説明した。そうしたなかで、レジャーウェアにテーラリングの技を投入することを試みた。ビキューニャ(南米原産のラクダの毛)を中綿入りジャケットやプルオーバーなどに取り入れたのは、その一例だ。

キートンは“リラックス”をアピール
キートンは“リラックス”をアピール

「ラルディーニ」のインスピレーション源は、自然とつながる「秋の暖かな色彩」という。木の色、葉の陰影、カルダモンやカボチャのオレンジである。ダブルブレストのコートには未処理のウールをチョイス。リバーシブルのトレンチコートでは、片面にはテクニカルな防雨・防風素材、もう片面には上質なウール、カシミヤ、シルクのドレープ生地を使用して、高い機能性を訴えている。

秋の色彩+機能性を訴求するラルディーニ
秋の色彩+機能性を訴求するラルディーニ

各ブランドがリアル版ではできなかったプレゼンを展開

ファッション系イベントをデジタル開催する難しさは、プレゼンテーションを見る前から想像できたし、実際にそのとおりであった。

各マテリアルがもつ、手にしたときの繊細な柔らかさや滑らかさ、さらに絶妙な色彩は、いうまでもなくデザイナーがセンスを研ぎ澄ませながら、幾多の時間をかけて選択しているものだ。

それを30分から1時間といったタイムリミットのなかで、いかに美しく伝えるかは至難の業である。筆者の仕事場にあるいくつかのPCでさえ発色がそれぞれ微妙に異なるだけに、まさに隔靴掻痒(かっかそうよう)の感がある。

思えば、通例のピッティ会場であるフィレンツェの要塞(ようさい)「フォルテッツァ・ダ・バッソ」の庭も、それなりの役を果たしていた。ブランドのちょっとしたアンバサダーとして新作を着用し、そこに佇(たたず)んでいたファッション・インフルエンサーたちは、陽光下でどう映えるかを知る手がかりとなっていた。

いっぽうでフルデジタルならではの、独特のコンテンツを楽しめたのも事実だ。

ブルネロ・クチネリは、本社を構える中部ウンブリア州ペルージャ県のソロメオ村からライブストリーミングを繰り広げた。1985年以来、クチネリ氏本人が、地元の古い建築物を再生するなど、地域復興と雇用創出に尽力してきた村である。プレゼンテーションでも「この1年で失ったものではなく、得たものをお伝えしたい」と、クチネリ氏がリード。「今、服の世界ができることは何か。プロダクトがどこでどのように生産されているか。害を与えることなく作られる服とは」と、今日大切な視点を説いた。修繕して再利用できる商品の大切さも訴えた。そして「服を着なかった過去10カ月から解放され、人は実際に(服を)触って着たいという心境になるだろう」と持論を展開した。

ヘルノは、ミラノのショールームでモデルを用いながら、クラウディオ・マレンツィ会長みずから新製品を解説するスタイルをとった。ストリーミング中は、登山靴ブランドとして知られる「スカルパ」社とのコラボレーションによるアーバン・シューズの新作や、さらにプロトタイプとしてロードバイク(自転車)まで披露した。後半は、トリノにオープンして間もない環境志向の複合商業施設「グリーンピー」とつなぎ、前述したエコ・サステイナブル商品を扱う店舗を紹介した。

いっぽうキートンが選んだ舞台は、ナポリの自社ファクトリーだった。今日においてもふんだんに残された手縫い工程を紹介。「着ているうちに、徐々に“自分のジャケット”になってゆく」と、そのメリットを語った。熟練だけでなく、学業を終えたばかりの若手職人を積極採用していることも強調。「未来に向かっての大きな投資である」とその必要性を説いた。参考までにそうした若者たちにより、工房の平均年齢は35、36歳であるという。「若い世代は(デジタル機器の)スクリーンを通してでなく、ダイレクトに知識を学ぶべきだ」と、そのポリシーも語った。

ラルディーニも本拠地であるマルケ州フィロットラーノ村から、クリエーティブ・ディレクターのルイージ・ラルディーニを含む創業ファミリーが次々と登場。新作紹介タイムでは、サルトたちが作業をする傍らにランウェーを設け、モデルたちを歩かせるといったユニークな演出を展開した。

ブランドをより深く知る好機に

ところで、従来のリアル版ピッティにおいては、創業者やデザイナーの語りを聞くのは意外に難航した。バイヤー向けのトレードショーという本来の目的上、これはやむを得ないことであった。また幸いインタビューが実現して、彼らの発祥の地を語ってもらっても、ショー会場ではいまひとつ空想の翼を広げることができなかった。後日彼らの本拠地を訪ねることも、地理的にすべてが簡単に実現できるわけではなかった。

だがデジタル版ピッティは、リアルで難しかったそれらの一部を克服し、ブランドへの関心を新たな角度から呼び起こすものとなった。

ふたたびクチネリ氏によれば、現在の極めて特殊な環境下で人々がすべきことは「優しく丁寧に、物を大切にすること。人間同士のみならず、地上すべての生きとし生けるものとの新たな社会契約が必要だ」という。人と服の新たな関係、地域と共生するインダストリア(産業)としての服――新しいスタイルのピッティは、そうしたより深い洞察のチャンスも投げかけてくれた。

(写真/Brunello Cucinelli, Herno, Kiton, Lardini)

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