チョコレートに“あう”お酒 大人の魅力に出会う旅

『愛について』
子供のころ、家にあった本のタイトルを見るたびに気になっていた。
そのわりにはその中に答えがすんなり見つかるような気もしなくて、結局今の今まで読んでいない。
バレンタインの日に告白するほど勇敢じゃなく、好きな人にも義理チョコのふりをしてしかチョコを渡せなかった昔の私は順調に大人になって、あふれる思いがあったとしても、1/100も伝えられる気がしない。
思っていることがそのまま口から出てきたらどんなに楽かと思うけれど、こればかりはもう仕方がない。
そんなことならあの本を読んでおけばよかったと今になって少し後悔するけれど、言葉でなくとも別の方法で愛を伝えることがもしできたなら。
まもなく訪れる2月の愛の日に、特別な時間を過ごすことで愛の形を表現しよう。
そう思って向かった渋谷のとある雑居ビル。
エレベーターのボタンを押すことが秘密の扉の鍵を開けるみたいで、雑居ビル特有の隠れ家感に人知れずドキドキしてしまう。
「Donna Selvatica(ドンナ・セルヴァーティカ)」
可愛らしい女の子のイラストとともに彫られた看板が目印のこのバーが、今日の私のとっておきの場所になる予定だ。

お店では名前の由来になった「グラッパ・ドンナ・セルヴァーティカ」を飲むこともできる
なんとチョコレートとお酒のマリアージュを楽しめるそうで、その響きだけでときめいてしまう。
元建築家が営む大人の隠れ家
扉を開けたとたん、ふわっとスモーキーな香りが私を包み込み、ここが背伸びをしないと届かない大人の空間であることをすぐに教えてくれた。
ベルギーやイギリスから輸入したというアンティーク家具が並ぶ上質な空間は、あたかも自分がふしぎの国に迷いこんだかと錯覚するような独特の時を刻んでいる。

オーナーの古屋敷幸孝さん
今日はここで出口を見つけずに一層迷子になってしまいたい……。
そんな私をやさしく引き留めるかのように、オーナーの古屋敷幸孝さんがとても丁寧な物腰でお話をしてくださいました。
「お店を開けたのは今から11年前です。その前は建築士の仕事をしていました」
1級建築士という意外な経歴だが、このうっとりする空間と、古屋敷さんが醸し出すインテリジェントな雰囲気に自然と納得してしまう。
古屋敷さんが仕事を始めた20代のころから好きだったというお酒、それにチョコレートをあわせて――。
頭の中で描き続けた設計図が立体的に、空間となったのがこのお店だ。
バーカウンターの奥にはコニャックやウイスキー、ブランデー、さらには店名の由来でもあるロマーノ・レーヴィの伝説のグラッパなど350種以上のお酒が並ぶ。
それらに高品質な原材料を用いてつくられる60種ほどのファインチョコレート(※高品質な原材料を用いて作られるチョコレート)を的確にあわせてくれるのだ。
古屋敷さんいわく、大切なのは「お酒とチョコレートをあわせるタイミングを計る」こと。
それぞれを口に含む最適なタイミングがあるそうです。
普段はウイスキーやブランデーなどをあまり飲まず、まったく詳しくないのでドキドキ。
色々な初体験が待っている予感です。
いざ、チョコとお酒の運命の世界へ……。
チョコレートからお酒への心地よい旅
まずはなじみのある日本のウイスキーでビターチョコレートとのマリアージュを。
「響(ジャパニーズ・ハーモニー)」×「カカオ・ハンターズ シエラ・ネバダ」(ダークチョコレート)。

響(ジャパニーズ・ハーモニー)×カカオ・ハンターズ シエラ・ネバダ(ダークチョコレート) (税込み1500円)
「この場合はチョコレートを先に食べてください」
チョコレートを一口かじり、ビターな余韻があるうちにウイスキーを飲むことでお酒の甘味を豊かに感じ、「チョコレートからお酒への心地よい旅」が続くと古屋敷さん。
言われた通りにいただくと……。
わぁ……。
口の中だけではおさまらず体全体が共鳴するようなふくらみ。
チョコレートの苦みに同じ厚みのウイスキーの甘味が重なりキレイな層となってどこまでも続くコンチェルト。
美しい音楽を聴いた時に似ている快楽を感じた。
チョコとウイスキーの余韻の長さのおかげでしばらくはこのハーモニーに酔いしれることができる。
これは……。
危なさを感じるほどの良さ……。
大人の魅力に触れてしまい、ゴクリとのどがなる。
まとっていたやさしさのベールがぬげる
続いて好みを聞かれて、りんごの蒸留酒、カルバドスを飲んだ際、好みの味だったことを伝えたら、青森県のアップルブランデーをおすすめしてくださいました。
(なお、カルバドスとは、フランスのノルマンディー地方で造られたもののみ名乗ることができるそう。知りませんでした)
「弘前」×「ヴァローナ タナリヴァ・ラクテ」(ミルクチョコレート)。

弘前×ヴァローナ タナリヴァ・ラクテ(ミルクチョコレート)(税込み2000円)
このマリアージュはチョコとお酒を同時に口にいれて味わうとより味わいに相乗効果がうまれるそう。
まずはミルクチョコレートを一かじり。
じんわりと舌の上にひろがるやさしい甘さはどこか安心感がある。
そこにそっと弘前を重ねるように口の中に含ませた。
圧倒的な味の変化。驚きました。
ただでさえおいしいこのチョコレートがとろんとやわらかいこのお酒と一緒になったとたん、まとっていたベールをぬがせたようにはっきりと全貌(ぜんぼう)が見えるほどくっきりした味わいになった。
さらにはどこからかあらわれるキャラメルのような苦み。これはたる由来のものなの?
待って……わからないの。
おいしさが自分の味覚の頂点をはるかに超えてしまっている。
表現したいのにしきれない。
食べ物を口にいれてこんなもどかしい気持ちになるのは初めてで、たくさんの想いはあるのに、好きな人を目の前にして言いたいことが全然でてこなくなる、あのじれったい気持ちにそっくりだ。
燃えてとろける大人のマリアージュ。
この世界に追いつきたい。
オリジナルカクテルが誘う楽園の世界
最後にいただいたのはオリジナルカクテルとホワイトチョコレートのマリアージュ。
なんとお酒で紅茶をいれていただくというカクテルで、それだけでとても気になる。
「ドンナ・オリジナル・カクテル」(紅茶とお酒のマリアージュ マリアージュ・フレール エロス × ウォッカ)×「大東カカオ クーベルチュール・ホワイト」(ホワイトチョコレート)。

ドンナ・オリジナル・カクテル(紅茶とお酒のマリアージュ マリアージュ・フレール エロス×ウォッカ)×大東カカオ クーベルチュール・ホワイト(ホワイトチョコレート)(税込み2600円)
神経を研ぎ澄ましてすべてを感じたい。
しっかり向き合うことで喜びが深まり、愛が増していくように。
よそ見をしたり片手間で味わったりしてしまうと見逃してしまう、一途な思いだけが得られる極上の幸福感を、今。
こちらもホワイトチョコレートとカクテルを同時に。
突き抜ける甘いホワイトチョコレートに、このカクテルを飲むと……。
【動画】オリジナルカクテルとホワイトチョコレートのマリアージュ
楽園が見えた。
うそではありません。
頭の中がゴーギャンの色彩で埋め尽くされるよう。
パッションフルーツのようなフルーティーなこのカクテル。よく見ると細部はとても繊細でキレイななめらかさを持ち、チョコレートのとがった部分をおだやかに整え、すっと溶かした。
自分の憧れがすべて詰まっているようなこの体験。
もうだめ、この世界から帰ってこられなくなりそう……。
誰かに教えたくて仕方がないはずなのに、本当に誰にも教えたくないような独占欲が湧く。
なんだか少し大人になったかも。熱い甘さを感じながらお店を後にしました。
この余韻、もう少し独り占めしたいな。

ジャケット6,5000円、パンツ2,9000円(ともに MAX&Co. / Max&Co. Japan)、その他スタイリスト私物 問い合わせ先 Max&Co. Japan 03-6434-5101、VEGE 03-5829-6249
(文・渡辺早織 写真/動画・林紗記 スタイリスト・村井素良)
店舗情報
ドンナ・セルヴァーティカ
東京都渋谷区神南1丁目3−3 サンフォーレストモリタビル 4F
03-6416-9272
営業時間 午後5時~8時(酒類の提供は午後7時まで)
定休:日曜
※緊急事態宣言を受け、通常の営業形態とは異なります