花のない花屋
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地元での就職や幸せな結婚…… お母さん、あなたの願いを叶えられなくてごめんね

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
山本依里子さん(仮名) 54歳 女性
東京都在住
グラフィックデザイナー

    ◇

私は3人きょうだいの末っ子、子どもの頃は体が弱く、「とても手がかかった」と、母に何度も聞かされました。2歳のときには入院するほどの大病をして、医師に「覚悟をしてください」と言われたこともあるそうです。運良く1カ月で退院したものの、入院を機にハイハイに逆戻りしてしまい、母はその後数カ月、私に付きっきりだったと言います。やっと小学生になったと思ったら、今度はいじめにあい……。母は先生に相談し、解決へ導いてくれました。

そうしてきょうだいのなかでも一番手がかかった分、母の私への思い入れは強かったです。将来も、私を目の届く範囲においておきたかったのでしょう。家から通える地元の高知で就職し、その後地元の人と結婚して毎日のように行き来をして……などなど、ずっと私と近くで暮らす未来を思い描いていたようです。

そんな母の夢をいつも聞かされていましたが、高校生のころになると私には夢ができました。ポスターなどをデザインするグラフィックデザイナーになることです。さみしそうにしている母に後ろ髪を引かれながらも、高校卒業と同時に上京しました。

その後私は夢をかなえ、グラフィックデザイナーとして、東京で多忙な毎日を送るようになりました。ようやく気持ちに余裕ができて、結婚したのは40歳を過ぎてから。結局、母が楽しみにしていた孫の顔も、見せてあげることができませんでした。さらに大反対を押し切って結婚した外国人の夫とは、8年後に離婚。母があれこれ思い描いていた私とは、まったく違う人生を歩むことになってしまいました。

一方母はそんな私を心配しどおしで、「帰ってきませんか?」とよく言ってくれました。とはいえ、東京を引き払い、実家に帰るということは、仕事を辞めるということ。夢だった仕事の楽しさへの未練も断ち切れず、母の誘いを数え切れないほど断ってきました。

そんな母も先日90歳に。姉が同じ敷地内に住んでいるものの、父を亡くしてからは一人暮らしです。以前はよく送ってくれていた、母が畑で作った野菜や手作りの梅干しなどがいっぱい詰まった段ボールの宅配も、最近は発送が大変とのことでめっきり減っています。この先、母と何度会えるんだろう……。そう思って、できるだけ実家に帰ろうと思っていました。

そんな矢先、コロナが猛威を振るい始めました。実家があるのは、みんなが顔見知りの小さな町。いつもは「おかえり!」と温かく迎えてくれる近所の人も、東京から帰省した私を見て、不安な気持ちになるかもしれない。さまざまな心配が頭をよぎり、もう1年以上帰省できないでいます。

母とは、電話や、姉が用意してくれるスマホのテレビ電話、また手紙などで頻繁に連絡を取り合っています。それでも母の心配はつのり、最近また、こんな手紙が送られてきました。

「私の人生の残りはわずか。またあなたと一緒に暮らしたいです」

お母さん、いつも願いをかなえてあげられなくてごめんなさい。でも東京暮らしを続けるのは、私が幸せに働いている証拠……。そんなメッセージも込めて、母の願いを聞いてあげられない娘をいつも応援してくれる母への感謝と、90歳のお祝いの花束を贈っていただけるとうれしいです。自然の樹木がとても好きなので グリーンをメインにしたエネルギッシュでおおらかな花束をお願いしたいです。

花のない花屋
≪花材≫ゼンマイ、ラナンキュラス、グリーンベル、セダム、ナデシコ、アルケミラモリス、ブプレリウム、ピットスポルム

花束を作った東さんのコメント

「自然の樹木がとても好き」なお母様とのことでしたので、あえてグリーン一色で自然を感じていただけるような花束にしました。
鈴のようなかわいらしい形の花がグリーンベル。モフモフとした芝生のような葉っぱは、ナデシコです。普通はここにピンクや白の花が咲きますが、今回は花が咲かない品種を使いました。緑色で葉っぱと間違えそうですが、ラナンキュラスや、小花がぎゅっと集まったブプレリウムなど、花もたくさん入っています。アクセントにゼンマイも。うちではポイントとしてよく使います。花束を見ながら、話題のきっかけにもなりそうですよね。主役の花が“どどん”と鎮座するのではなく、おおらかでゆったりとした優しさを表現しました。
投稿者様も、高校卒業後に地元を飛び出し、離婚もし……。大変な人生を、自分の足で歩まれてきたと思います。高知と東京は、このご時世ではなおさら遠く感じますね。また会える時まで、代わりにこの花束を見て楽しんで欲しいです。

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(文・福光恵 写真・椎木俊介)

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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