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野村友里×UA 暮らしの音
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UAさん「美しき孤高のオオカミTakayaの死から思う、想像力の足りなさ」

「eatrip」を主宰する料理人の野村友里さんと、現在カナダの島で暮らす歌手UAさんの往復書簡「暮らしの音」。前回のお手紙で、人の命は「有限」であることを思うからなのか少しうつうつとした気分だとつづりつつ、「将来は漫才コンビみたいのしない?」と明るく結んだ野村さん。今回は、UAさんからのお返事です。

UAさん「美しき孤高のオオカミTakayaの死から思う、想像力の足りなさ」
小さな足跡

>>野村友里さんの手紙から続く

友里さま

おりょ、そこで漫才ときたか!
う~む、お笑いこそは、最もチャレンジングだねえ。ハードル高いな~。
そこで明るい想像ね、それなら米寿あたりで棒高跳びよろしく、飛び越えちゃおうか。今からネタ仕込んでおけば、なんとかなるかね。

それから”うつうつ” 問題ね。わかりますとも。確かに例年この時期、新暦の元旦から旧正月過ぎたあたり、心身どうにもモワッとしてくるように思う。冬にためたものが排毒しきれないのかしらね。
さりとて、あなたの手紙を拝読する限り、まるで ”イキイキ” として感じる。だって、しんみりしてる訳ではないんだから。

有限。。。同じ響きに、幽玄、なんて言葉もあるけれど。こちらは「物事のおもむきが奥深く、人知でははかりしれないこと」という意味で、深遠微妙な生命の神秘を表している。それにしても、文字は不思議ね、まるで表せないような事柄を、ある意味、はっきりと最小に書いて表すんだから。
もしも個の命が無限だったなら、そんな幽玄な感覚を人は持ち得たのだろうか。
三途(さんず)の川を挟んで、こちら側を「此岸(しがん)」あちら側は「彼岸」と呼ぶけれど、こちらからあちらを眺める時にこそ、神秘を知るんだものね。

UAさん「美しき孤高のオオカミTakayaの死から思う、想像力の足りなさ」
息子「今日はここで寝たいー」。母「や、やめとこう」

2002年、ポルトガルにひとり旅したことがあってね、ナザレという漁師町に滞在した。まだ当時はナザレ特有の衣装を身につけている人がたくさんいたのよ。今はどうだろう。
特に女性は可愛らしいほどで、既婚の女性は、ひざより少し短い、7枚重ねのスカートにエプロンをして、頭にはスカーフ、足元はスリッパ。それにやっぱり手作りなんだろうね、柄も色々でカラフル。ところが夫を亡くした女性の場合には、それらが全て黒ずくめになるの。それがまた実にファッショナブル。

この町の最大の見どころは、大西洋に沿った長い海岸線。
「西の果てで夕日を拝む」というのが旅の目的でもあったから、まずはビーチに行った。中心街が、湾曲する向こう岸に見えるほど離れた海岸線を歩いていた時、波とカモメの音のみ、まったくひと気のない砂浜で、ふと思ったのは、「今ここで自分が消えても、誰もどころか、世界さえ気がつかないんじゃないか」という妄想。それほど非現実的な砂浜から続く海岸線を戻る途中、真っ青なセーターに、黒い帯とスラックス、粋なハンチング帽の、ナザレ風のいでたちをしたおじいさんとすれ違う。「Ola(オーラ)」

さあ、いよいよ夕暮れ時だと、新市街を背景に、ビーチにたたずんだ。真正面にどでかい夕日が落ちてきた時の、そのすさまじい光量ときたら、もう宇宙にワープしそうなほど! 「ああ、この陽光に溶けていきたい」なんて焦がれるのもつかの間、あまりのまぶしさに眼球が耐えられず、思わず夕陽に背を向けた。するともっと驚いたことに、強烈な夕日に照らされた新市街の、目を疑うほどの美しさ。人の手がこしらえた巨大な造形物で、あれほど美しく感じられたのは後にも先にもないのかも。

そこでまた思ったの、「私が消えて、憧れの陽光に溶けたとしたら、今、こうしてここで ”ああ、うつくしい” と感じている心もなくなるのだな」。

とにかく、死については、極力考え、話せるように努めるべきだと思う。以前ここに書いたお手紙で、さっきの「有限」と「幽玄」みたく、「幸せ」を「死合わせ」とも表せやしないかと記したことがあったよね。死を恐れるあまり、忌み嫌ってふたをしがちな現代社会に生きる私たちは、もっとオープンに死に臨みながら、今を生きるべきじゃないかって。

私は、生後2週間で、父をがんで亡くしている。祖父母もすでに他界していた。母ひとり子ひとりの母子家庭で育った。おかげさまで78歳になる母の健康状態は良好。だから、家族の死を直に体験したことがないのね。だからかどうか、正直なところ、自分の死よりも桁外れに、母の死が恐怖そのもの。そんなまったく非現実的なことをどうやって乗り越えられるのか、甚だ自分に自信がない。。。とまあ、こんな調子だけどね。

UAさん「美しき孤高のオオカミTakayaの死から思う、想像力の足りなさ」
春の音が聞こえる

ところで、話は変わってね。子供たちは、学校で生態系にまつわる自然環境保護の勉強をするのだけど、そこで見たドキュメンタリー映画を、家庭でも見たの。
『Takaya : Lone Wolf(タカヤ:ローン・ウルフ)』という、都市部からとても近い小さな無人島に、たった1匹で暮らすオオカミを、環境保護写真家の女性シェリル・アレキサンダーが記録したもの。

普通なら、群れをなして暮らすオオカミが、なぜ1匹で、獲物になる鹿もエルクもいない離れ小島に暮らすのか、強く関心を持ったシェリルは、そのオオカミに、あるファースト・ネーション(カナダ原住民)の言葉でオオカミを意味する「Takaya」と名付け、突如として、Takayaがその島を離れるまでの7年間を記録した。
Takayaは2歳の時に、オオカミの群れが生息する地域から離れ、都市部や郊外を移動し海を渡り、40キロ離れた小さな群島にたどり着いた。
そして島暮らしに順応していく。おそらく、海岸に生息する猛禽(もうきん)類などのまねをして、魚や貝を捕り、アザラシやミンクを捕らえ、ガチョウの卵を一つひとつちょうだいする。また夏の乾期には、穴を掘って淡水を得たりと、極めて新しい生態を見せた。

UAさん「美しき孤高のオオカミTakayaの死から思う、想像力の足りなさ」
Takaya:Lone Wolf(Photo by Cheryl Alexander)

また、特に印象的なのが、数々の遠ぼえシーン。時には日の出が見えるお気に入りの岩場に座り、独特の節回しで、ロングトーンを響かせる。それはもちろん、どこか遠くで、他の個体に届きはしないかと、自分の存在を知らせるための行動であるに違いないのだろうが、まるで感情のないはずが無い、「もののあはれ」を歌っているかのような、悲哀と至高の声なの。

シェリルのTakayaへの情がまっすぐに伝わってくるのもあって、美しい孤高のオオカミTakayaが、自分の暮らす場所からそう遠くはないところに存在することに、興奮を覚えたし、何より神秘的な事実に感動し、Takayaへのいとしさをひしと感じた。

ところが、数日して、子供たちが「そう言えば、Takayaはハンターに撃たれて死んじゃったんだって。。。」と学校で聞いてきた。「何!!!!?」
そこで思い出した。去年の春ごろ、何やら貴重なオオカミが撃たれたニュースを聞いた覚えがある。そうか、それがTakayaだったんだ。。。なんてやるせない。
そして今日も私の中で”Takayaロス”が続いているの。だから、ここでも書かずにいられなかった。「話せる」ことはとても大事ね。「放せる」ことにもつながるから。
Takaya射殺のニュース後、カナダのブリティッシュ・コロンビア州に生息するオオカミを、娯楽や趣味として撃つことを禁止するよう訴える署名が続いていて、子供の教育プログラムに取り入れられたりもしている。

UAさん「美しき孤高のオオカミTakayaの死から思う、想像力の足りなさ」
地衣類のひとつ、False Pixie Cup。まるで新種の細菌!?

もちろんアクションを起こすことは重要なんだけど、ここで書きたかったのは、何だろう、やっぱり想像力のことなのかな。
現代人は、思い出や思い入れ、多く時間を共にしたり、所有していたり、自分の人生に密接に関わるものには、強く感情が動き、生死や有無の安否を案じているけれど、少し離れたところからは一切の想像が極端に薄れてしまう。

今、日本で、女性と若者の自殺者が急増しているそう。目に見えないウイルスが脅威なら、壁一枚隔てた他者の悲劇についてはどうだろうか。自分の視界には映らないような事柄については、情報として受け止めるに留まることがほとんどで、その先の、社会における自分との関わりまで見いだそうとすることはまず無い。
それぞれが見たいものだけを見てしまうネット文化の問題点なんだろうね。

監督のシェリルは言う。「Takayaは、荒野がまだ生きていて、本来の機能が果たされていることの希望の象徴だった」と。私たちだって、ものを取っ払えば、荒野にたたずむ者であろうに。はたして本来の機能は、果たせるものかどうか。こちらもどちらかと言うと、悲観的、かね。

あらごめん、しんみりしちゃった。 春のさなかには東京参りいたします、きっと!

Love,

うーこ

>>野村友里さんのお返事に続く

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