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上間常正 @モード
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見たことがない、新鮮な服。デザイナー高橋悠介のブランド「CFCL」の新しさとは

取り立てて新奇な形ではないのに、なぜかとても新鮮で、見たことがないような服。この春に初のコレクションを発表した「CFCL」というブランドの服は、そんな稀有(けう)な服の例の一つといってよい。この困難な時期にどんな思いでいて、どんな服を作ろうとしているのかが伝わってくるから。そしてもう一つの理由は、デビュー前にデザイナーが日本の代表的なブランドでかなり長く働いていて、その品質が服作りの高度な技術に裏打ちされているからだ。

見たことがない、新鮮な服。デザイナー高橋悠介のブランド「CFCL」の新しさとは

「CFCL」デザイナーの高橋悠介さん。東京・南青山の事務所で

CFCLは「現代的な生活のための服」。Clothing For Contemporary Lifeという英語の四つの単語の頭文字を合わせたのだという。では「現代的な生活のための~」とはどんなことか? デザイナーの高橋悠介さんは、次の三つを挙げる。まず着心地のよさ、イージーケア、そしてカジュアル過ぎない上品さ。

最初の二つについては、そういう服は以前にも今も、ほかにいくらでもあるだろう。しかし三つめが加わると、三つを併せ持つような服は滅多にない。「我慢もおしゃれ、はもう古い。機能性が高くて着心地もいい、家で簡単に洗濯もできて形も崩れないような服が、今は求められている」と高橋さん。

三つめについては、遠慮がちに言葉少なに語った。しかし、それこそがCFCLのキモなのだ。彼はその思いを、服の形で饒舌(じょうぜつ)に語らずに、なるべくシンプルに、一見では普通の服のような形に込めて表現しているのだ。

東京・南青山の裏通りにある事務所兼ショールームでCFCLの服を見た最初の印象は、形はシンプルなのにアート性が強く感じられることだった。中でもまず目についたのは、「ポッタリードレス」と名付けられた、壺(つぼ)のような丸みのあるリブ編みの黒いドレス。

見たことがない、新鮮な服。デザイナー高橋悠介のブランド「CFCL」の新しさとは

ポッタリードレス(写真提供:CFCL)

襟の部分だけは最小限の縫い付けもあるが、基本的には1本の糸でコンピュータープログラミングによって編み上げられている。それなのに、リブ編みの伸縮性を巧みに生かしてフレアスカートのような複雑なボリューム感もある、といった具合だ。

このドレスの糸は100%再生ポリエステルで、価格は5万9千円(税抜き)。やや高めだが、服としてのグレードの高さからすれば、十分にお買い得といってよいだろう。サイズは長さが113センチ、123センチの2種しかないが、ゆったりと体に沿うので、どんな体形の人でもその人に合ったシルエットができるだろう。色は4種類で、黒とカーキ1色、またスカートの裾と襟の前身頃の部分だけ明るい糸を使っている2タイプもある。

このドレスをややカジュアルに簡略化した「ポッタリーカフタン」も。長さはドレスより3センチ短くて、身幅は逆に14センチ長くしてある。価格は5万2千円。ドレスはより外着、カフタンはより室内用とも思えるが、「着る人の好みの多様性になるべく応えるため」と高橋さん。

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ポッタリーカフタン(写真提供:CFCL)

また「フルーテッドドレス」と名付けられた、古代ギリシャ建築の柱を連想させるタイトフィットのマーメイドドレスも。伸縮性の違う2種類のリブが交互に編み込まれていて、柱に特有だった細かい縦の溝が再現されるなどアート感覚がより高めで興味深い。価格は4万2千円で、色は明るいグレーとオレンジ、青、黒の4種。

見たことがない、新鮮な服。デザイナー高橋悠介のブランド「CFCL」の新しさとは

フルーテッドドレス(写真提供:CFCL)

このほか、ハイゲージのリブ編みシャツやジャケット、コート、単体のスカート、パンツ、ジャンプスーツも。また、レギンスやバッグ、帽子などもありアイテムは初コレクションとしてはとても多彩で数も多いのが特徴だ。それもやはり着る人の多様性を重視するためだろう。

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ポッタリードレスの下にポッタリースカート、トップに黄色のミラノリブフライトジャケット(写真提供:CFCL)

素材としてニットを選んだのは、縫製の服と比べて素材の無駄が格段に少なく、ある程度の量産によって価格を抑えることができる、また糸の色も少なくて済むなどの利点があるからだとのこと。また今のトレンドであるサステイナビリティーについては、「ことさらいわなくても、環境への配慮や持続可能なもの作りは当然のことなのだから」という。しかし従業員の雇用維持や福利厚生、産業廃棄物やCO2を減らす努力はずっと続けていき、情報をなるべく公開していくこと。「そんな透明性のある服を着たいという人たちがますます増えていくと思う」

高橋さんは文化ファッション大学院大学(BFGU)でファッションデザインを学び、三宅デザイン事務所に入社。「イッセイミヤケ メン」のデザインにも6年以上携わった。今回の初コレクションには、デザイナー三宅一生から受けた薫陶(くんとう)の成果が色濃く感じとれる。だがそうした偉大な影響の単なる再現というわけにはいかない。三宅は今なお現役だが、三宅と高橋の活動開始時期は約50年も違うからだ。

イッセイミヤケではメンズで活躍したが、CFCLの新作はレディースが6割、ユニセックス4割の構成になっている。そのわけは「今はもうジェンダーを二つだけにする基準はあまり意味がなくなっている。スカートとドレスはもともとレディースのアイテムだったので、その分があるので少し比率が高いだけ」。

今後の新作発表は、年度・季節ごとのファッションウィークに縛られずに、発表の順番をタイトルにするナンバー制にするという。よく売れたアイテムは続けて生産し続けることにすれば、いい意味での生産性も高まるし、廃棄処分もしなくて済む。大事なことは「安い賃金を求めて遠くに行かないことではないか」という。

私はこのブランドを、ファッションに詳しい義理の姪(めい)から「いいブランドが出た」とメールが来て初めて知った。だがデザイナーの高橋さんについては、それで遅まきながら「そういえばイッセイのメンズでそのデザイナーがいた」と思い出した。

見たことがない、新鮮な服。デザイナー高橋悠介のブランド「CFCL」の新しさとは

フルーテッドドレス(左)と、 インデントストライプトップ/ポッタリースカート/ポッタリードレス(いずれも写真提供:CFCL)

そしてもう一つの記憶もよみがえった。2006年にスタートしたBFGUは、その年度の卒業生の修了研究・創作作品から選んだ秀作を掲載する「BFGU MAGAZINE」を毎年刊行している。私は文化学園大学で教えていて、研究室でこの本を見ていたので、「BFGU MAGAZINE No.3」(2010)に載っていた高橋さんの作品の記憶がよみがえって、CFCLの高橋さんと結びついたのだ。

いま読み返してみると、作品のタイトルは「THE Knitting Sculptures 無縫製ニットウェアの構造研究」。4枚の写真はどれも造形の面白さ、色使いのセンスの豊かさなどが秀逸で、彼が三宅デザイン事務所への就職をすでに決めていて、そこで学ぶ意味を十分に感じていたことが分かる。そんなプロセスを通してスタートしたこのブランドの、今後の活躍を期待したいと思う。

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