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緻密な技が光る伝統工芸品 「型」の商品化は是か非か

すっかり春の気配。暖かいをちょっと通り越して、暑さを感じる日も増えてきました。我が家のベランダからは、桜の花が咲き始めたのが見えてきれいです。何かが芽生える季節ですね。

さて、今回も思ったこと、出会ったことを三つ書きました。

まずは三重県で出会った伝統工芸の世界の話。「伊勢型紙」を調べにいって、そこで見た「型紙を売っている」ということに対して湧いた疑問です。

その次は、茶道の話を書きました。最近、習い始め、少しずつ気づいてきたことを書き留めました。

そして最後は、僕のふるさとに作っている自分の店にまつわる現在進行中の話です。借りる予定の工場跡の中に残され整理しなくてはならない荷物と格闘しているうちに、不意に思い出した自分の原点のお話です。

それではしばしお付き合いくださいね。

緻密な技が光る伝統工芸品 「型」の商品化は是か非か

気のせいなのか、本当に茶室に招かれることが増えました。そして、教室で習っている茶道と同じなのに、「現実(実践)の茶事」として会議や会食のように自分ごとになってくると、手順を忘れ焦るたびに、普段先生から教わっている「作法よりも、相手を思いやる気持ちが大切」ということに立ち戻って考えられるようになってきました

型紙を売るってどういうこと?

今、僕の店「D&DEPARTMENT」の三重店の開業準備中で、先日、店で取り扱う「三重県らしい」商品開拓の旅に行ってきました。そこで出合ったのが、反物などの伝統工芸品に文様をつけるときなどに用いる「伊勢型紙」。今回はその道具としての「型紙」について思ったことを書いてみたいと思います。

伊勢形紙協同組合のホームページには、伊勢型紙について、「友禅、ゆかた、小紋などの柄や文様を着物の生地を染めるのに用いるもので、千有余年の歴史を誇る伝統的工芸品(用具)です。和紙を加工した紙(型地紙)に彫刻刀で、きものの文様や図柄を丹念に彫り抜いたものですが、型紙を作るには高度な技術と根気や忍耐が必要です。昭和58年4月には、通商産業大臣より伝統的工芸品(用具)の指定をうけました」と書かれています

僕が資料館や売店を見ていて驚いたのは、型紙を使って染められた手ぬぐいや反物を売っているのではなく、型紙自体を売っていたこと。「型紙って売っていいのかなぁ」ということです。

上記の解説文の中にも「千有余年の歴史を誇る伝統的工芸品(用具)」とあります。「用具」なのです。その技術は本当にすごい。緻密(ちみつ)で根気がいり、しかも時間がかかります。しかし、売店に行くと型紙をしおりやコースターにしている。一つ一つは一点物なのですが、その作業の大変さに比べて500円とか安いのです。

僕らの身の回りにもこうした状況を見かけますが、売るべきは「道具を使い技術で作ったもの」であって、「道具」ではないと思うのです。そして、「型紙」とは「道具」だと思うのです。来る日も来る日も高い技術でモノを生み出してきた「道具」そのものを売るなんて、なんだかむなしい感じがしました。

僕が思う正解は、やはり道具と技術を駆使して作るもの、素晴らしい型紙を使って作られた反物や印伝(羊あるいは鹿のなめし革。染色し漆や型紙などで模様をつけて袋物などにする)のような、刷った後のものを売ることだと思うのです。

もちろん数十万で売られている「型紙」もあります。当然です。芸術的な作品といえますから。でも、型は「作品としての商品を量産するための道具」。やはり、簡単に売っては寂しいと思うのです。よく事情を知らずに生意気なことを書いているかもしれません。そして、この話はいろんなことに当てはまるような気もしますが……。

緻密な技が光る伝統工芸品 「型」の商品化は是か非か

伊勢型紙(左下)と、型紙を使って染められた絹織物(右上)=石井真弓さん撮影

茶室と茶道

京都の老舗の茶園さんのお仕事をさせてもらっています。レギュラーで5年以上つづけているラジオ番組「ロングライフデザインラジオ」でのご縁からです。お抹茶の世界を知らなくては当然このお仕事はできないと思い、デザインチーム計5人で月に2回、茶道教室に行っています。映画「利休」などで超ざっくりと世界観に近づき、友人の表千家の先生にお願いして、本当は毎週やらないと覚えないなぁと思いながら、少しずつ自分の生活の中に取り入れています。

さて、たまにうれしくなって「お茶を習い始めました」なんてことをSNSなどでつぶやくことが増えて、そうすると「お茶を習っているなら、今度の打ち合わせはうちの茶室でやりましょう」なんてお誘いが増えてきて、焦り始めました。そして同時に感じるのです。これは、本当に素晴らしい文化だなぁと。

以前この連載にも書きましたが、外国のあるお抹茶ブランドが「私たちは茶道にはこだわりません」という姿勢で、お抹茶の飲み物としての優れた点をカジュアルに打ち出していました。一方、日本では、「お抹茶」には「茶道」という大きな壁が立ちふさがっています。気軽にお抹茶をコーヒーのように楽しめるはずが、茶道の中に取り込まれているように思えて、なかなか手が伸びない。

逆に中国茶は現地の若者の間でもとてもカジュアルな「おもてなし」として広がっていて、そっちの方が楽しそうと、日本にも広がり始めています。

中国茶にも厳密に言えば日本の茶道のような「作法」は存在しますが、日本の茶道に比べたらとても自由です。日常の中にあるものを道具に見立てて使ったり、仲間とワイワイ話しながらおいしくお茶を楽しめたりする。僕は今、このお抹茶を気軽に楽しみたいという気持ちと、茶道の素晴らしさ、そして、中国茶のような自由さがうまく合体してくれないかなぁと思っています。それは可能だとも実感し始めています。

そして、何よりの興味は「どこまでを自由に解釈していくか」という点。何事も「型」はそれを習得した後に自由に崩していくことに意味がある。まだ僕のように「茶道の型」に緊張している自分にブツブツ言っていないで、とにかく浴びるように習っていけば先が見えてくると思っています。

先日、京都をベースに全国展開する和装ブランド「sousou」の若林剛之さんの誘いで、茶室のある社用サロンにうかがいました。若林さんをゲストに招いてラジオを収録することになったところ、若林さんから「できたばかりのうちの茶室でやりましょう」とお誘いいただいたのです。伝統的な建築の茶室がマンションの中に作られていて、にじり口(茶室の入り口)まである本格的な空間でお点前を頂き、収録してきました。

少し習っているからこそ感じられる楽しさ。そして、若林さんによる型を崩したお菓子の考えと実践。お抹茶を入れるなつめ(茶器)はなんと海外有名ブランドの小物入れを使っていて、上手に楽しく、それでいてしっかり「茶道」の流儀になぞらえていて、その洗練と創造性にとっても緊張しながらもワクワクしたのでした。伝統は、「継承」と「革新」で作っていくもの。ますますこの世界の可能性にひかれていくのでした。

緻密な技が光る伝統工芸品 「型」の商品化は是か非か

緻密な技が光る伝統工芸品 「型」の商品化は是か非か

和装ブランド「sousou」さんの社員用サロンの中に作られた茶室でラジオ収録をさせて頂きました。茶室が特別な場所ではなくなっていくような、そんな僕の最近です

うぶ荷

僕がデザイナーの仕事の傍ら、半分趣味の延長のように週末通っていたリサイクルショップがありました。それは空調の行き届いた店ではなく、倒産した店舗や空き家自体を解体するときに出てきた荷物、それも整理されないまま、段ボールに詰め込まれ、処分を待つように放置されていた荷物が集まる場所です。

夏は恐ろしく暑く、しかも虫と戦い、冬は外のように寒い。当然、電気は引いてないので日が沈むと真っ暗に。そこに大抵、老夫婦がいて、僕は荷物でごったがえしている店内にかろうじてお客さんによって作られた獣道のような通路を進みながら、ほこりで手を真っ黒にしながらひとつひとつの荷物を開けていきました。

1980年代に僕は荷物が散乱している店とはおよそ言えないような場所が好きで、出入りしていました。そうした店の商品のことを業者は「うぶ荷」と呼んでいました。

今は空調が利いて明るく清潔なリサイクルショップが町にたくさんあります。昔はスマホやホームページなどはありませんでしたので、店舗の解体のついでに出てくるそうした「うぶ荷」は、そのまま廃棄されるか、怪しいルートを経たり、解体業者が空き店舗のような場所を使ったりして売られていました。やがてそうした「うぶ荷」は、ネットで検索され、やり取りされるようになり、個人売買のアプリサービスなど出回るルートも細分化されていきます。ネットを通じて「価値」はそれがわかる人に伝わり、これまで「ゴミとして捨てていた」ものも、ある欲しい人、探している人とつながることでお金になる無駄の少ない時代となり、徐々に先のような「うぶ荷」を扱う店がなくなっていきました。

先日、僕のふるさと愛知県阿久比町で、これから自分で店を始めようと借りる予定の建物の掃除に行った時のこと。大家さんから「好きに処分してください」とのことで、大家さんが長らくため込んでいた荷物の整理をすることになり、ふと、自分が昔こういう店から商品を探し出して、それをきれいに洗い、値段をつけて販売していた頃のことを思い出しました。それが今、僕が展開しているD&DEPARTMENTという店の原点なのですが、今の人は、こういう場所が昔、いっぱい町中にあったなんて、信じられないと思います。

時代は汚いもの、ごちゃごちゃとしたものを整理していきます。不衛生な場所は衛生的に、危ないところは安全に。昔のそんな“ごちゃごちゃ”を知っていても、もう何にもなりませんが、僕から見るときれいすぎるほどにきれいな町の様子を思うと、少しだけ物足りないというか、寂しさすら覚えます。

中も外もボロボロの居酒屋やバー。下町の傾きかけた古本屋や駄菓子屋も、いつか一掃されるように姿を消し、きれいに代わっていくのでしょうね。

緻密な技が光る伝統工芸品 「型」の商品化は是か非か

この建物を借りようと思っています。荷物は片付けなくてはなりません。ということで、整理していて、昔のことを思い出しました。ゴミだと思うと、ゴミになり、何かに使えると思えば、それはゴミではなくなります。そんな感覚が好きで、そんな店を今、経営しています。 D&DEPARTMENT:https://www.d-department.com

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