新玉ねぎの甘さ楽しむ、鶏手羽元の豆豉蒸し

料理家・冷水希三子(ひやみず・きみこ)さんが読者と私たち編集部のリクエストに応えて料理を作ってくれるという夢の連載。今回は旬の新玉ねぎを使った鶏手羽元の豆豉(トウチ)蒸しをご紹介。新玉ねぎの甘さが引き立つ、お手軽メニューです。
―― 冷水先生、こんにちは。3月に入って、ひと足早く咲いていた桜を見かけました。
冷水 春はもうすぐそこですねぇ。
―― スーパーにも春めいた食材が増えてきて、ワクワクします。読者のみなさんからも旬の食材を使ったレシピを教えて欲しい!という声が多いです。
冷水 いいですね!
―― 食材では今が旬の新玉ねぎを使ったお料理のリクエストが多いのですが、もうひとつ気になったのが、鶏手羽元を使ったお料理への関心です。
冷水 手羽元、おいしいですよね。
―― お財布にやさしいというのもうれしいポイントです。読者のみなさんの多くが「手羽元を使った料理が煮込みばかりになってしまって飽きてしまう……」とのお悩みを抱えているようです。
冷水 う~ん、確かに煮たくなる気持ちはわかります(笑)。でも、手羽元は蒸しても柔らかくておいしいですよ。
―― 蒸し料理ですか、それは盲点でした! でもじっくり煮ないとお肉に味が染みづらいような気もしますが……。
冷水 調味料を工夫すれば大丈夫ですよ。新玉ねぎを使いたいという声もあるようですから、今日は二つのお悩みを同時に解消する、鶏手羽元と新玉ねぎの料理を作ってみましょうか。
―― おお、それはいいアイデアですね。ぜひ教えてください。

冷水 まずは手羽元の下ごしらえから。手羽元の根元部分に包丁を入れて筋を切り、肉を骨から外しておきます。こうしておくとお肉がスルッと取れて食べやすいですからね。
―― たしかに、手羽元って根元部分のお肉が骨から剝がれにくくて、ちょっと食べづらいですよね。こうしておくといいんですね。
冷水 新玉ねぎは甘みはもちろん食感も楽しみたいので、今回は少し大きめに切ります。大体2cm幅くらいです。
―― 火が通った新玉ねぎって、つるん、とろん、という感じで、すごくおいしいですよね。
冷水 食材の準備はこれで完了です。
―― えっ、めちゃくちゃ簡単! 食材が2種類っていうのもすごくありがたいです(涙)。
冷水 次は調味料の準備です。しょうが、にんにく、長ネギ、種を抜いた梅干しをすべてみじん切りにします。これがちょっと手間ですが、頑張ってくださいね。
―― 梅干しが入るんですね。酸味を加えるんですか?
冷水 酸味というより爽やかさですね。あとは梅干しが入ることで、味の輪郭が立つんです。
―― 輪郭……(困惑)。

冷水 鶏肉のうまみや新玉ねぎの甘みをより感じられるということです。
―― 梅干し……いい仕事をするんですね!
冷水 甘みの少ない梅干しを使うと爽やかな風味に仕上がります。さて、みじん切りができたらボウルに入れて、そこに調味料と豆豉を加えます。豆豉は一粒が大きければ半分に切ってください。
―― 豆豉は大豆(または黒大豆)を発酵させた、中華料理に使う食材ですね。しょうゆのような香りが食欲をそそります(参考:「しゃりしゃり食感楽しむ、アサリとレタスの豆豉炒め」)。
調味料に別途しょうゆも入っていますが、これはしょうゆだけで作ったらダメなんでしょうか?
冷水 確かにしょうゆに近い風味ですが、全体に満遍なく風味をつけるしょうゆと違って、豆豉は口に入れてかじったときにうまみとしょっぱさが感じられるのが面白いところなんです。
―― 食べている最中に味のリズムが生まれるような感じですか?
冷水 そうです。豆豉がない部分は鶏肉や新玉ねぎのしみじみとしたうまみや甘みを感じられますし、豆豉と一緒に食べるときには、香ばしい香りとともにまた違った食材の風味を楽しめるんです。
―― ひとつの料理で違った体験ができるのはすごくいいですね! たしかに手羽元の煮物は味が染みていておいしいですけど、ずっと食べていると飽きてきますよね……。
冷水 豆豉は炒め物や中華風のドレッシングなどに入れてもリズムが出て楽しいので、ぜひ活用してみてください。いつものお料理に変化が生まれますよ。

―― 今回作った調味液の残りを活用してみます!
冷水 調味液ができたら、半量を手羽元にもみ込みます。次に片栗粉を加えてさらにもみ込んでください。
―― ん? 揚げ物じゃないのに片栗粉を入れるんですか?
冷水 はい、片栗粉をもみ込んでから蒸すと、もみ込んでおいた調味液とお肉や玉ねぎから出た水分に程よくとろみがついておいしいんです。
―― ソースみたいな感じになるってことですね! でも調味液をもみ込んで、一拍おいてから後追いで片栗粉を加えるのはどうしてですか?
冷水 片栗粉が入ると調味液がお肉に染みづらくなるのでタイミングをずらしているんです。なので調味液をよくもみ込んでから片栗粉を加えてくださいね。
―― これはメモですね!
冷水 30分ほどおいたら、あとは蒸し器に入れるだけです。先に手羽元だけを15分ほど蒸して、その後、新玉ねぎを加えてさらに5分蒸せば完成です。
―― 時間差で蒸すんですね!

冷水 はい、新玉ねぎはあまり長く蒸すと柔らかくなりすぎてしまうので。程よく食感が残りつつも、口当たりがよく、甘さが引き立つ蒸し時間がだいたい5分です。
―― ちなみに普通の玉ねぎを使う場合も同じ蒸し時間でいいでしょうか?
冷水 新玉ねぎ以外の玉ねぎを使う場合は仕上がりの10分前に蒸し器に入れるとちょうどいい塩梅です。
―― わかりました! あれ、ところで作った調味液の半量だけ使いましたが、残りは使わないんですか?
冷水 ああ、ごめんなさい。調味液の分量は2回分なんです。梅干しを1個使うとなるとどうしても2回分の量になってしまうので。でもこの調味液、蒸したお魚にかけたり、野菜炒めのタレに使ったりしてもおいしいので、残った分は違うお料理に使ってみてください。
―― なるほど、梅干しの事情だったんですね(笑)。または半量のレシピで1回分の調味液を作って、余った梅干しはそのまま食べちゃうのもいいですね。
冷水 たしかに。どちらでもご都合のいい方法でお願いします。と、言っている間に蒸しあがりました。熱々のうちにどうぞ召し上がれ。
―― わ~、湯気と一緒に豆豉の香ばしい香りが立ち上ってきました。新玉ねぎの甘〜い香りもたまりません!
冷水 蒸し料理はこの瞬間が幸せですよね。
―― 先生、信じられないくらいに手羽元が柔らかいです! ほろほろっと骨からお肉が剝がれて、とってもジューシー。新玉ねぎが蒸し汁を吸って、お肉と一緒に食べると最高です。
冷水 新玉ねぎは本当にいい仕事をしますよね。
―― 煮込まないと味が染みなくて味気ないかな……と思っていたのですが、全然そんなことないですね。煮込むより鶏肉と新玉ねぎの繊細な風味を感じられて、上品かつ滋味深い感じです。大人の手羽元料理です、これは!
冷水 それはよかったです。蒸し料理は手軽なのに食材のうまみを引き出してくれるので、ぜひ毎日のお料理に取り入れてみてくださいね。
今日のレシピ
鳥手羽元と新玉ねぎの豆豉蒸し
◎材料(2人分)
鶏手羽元 6本
新玉ねぎ 1/2個
片栗粉 小さじ1/2
A(調味液2回分)
豆豉 8g
しょうが 1片
にんにく 1/2片
長ネギ 5㎝
梅干し 8g
酒 大さじ1と1/2
しょうゆ 大さじ1
砂糖 大さじ1/2
ごま油 大さじ1
酢 小さじ1
※調味液の分量は2回分です。1回分だけ作る場合はこの半量になりますが、梅干しが半分余ってしまうのでご注意ください。余った調味液は蒸した魚や豆腐、野菜炒めのタレなどに活用できます。
◎作り方
1 手羽元の筋を切る。新玉ねぎは横半分に切り2㎝幅に切りほぐす。
2 Aの豆豉以外の材料をすべてみじん切りにして、残りの材料を加え混ぜる。
3 手羽元にAの半分量を加えてもみ込んだ後、片栗粉を加えてもみ込み30分おく。
4 耐熱皿に3の手羽元を入れ、蒸し器で15分蒸す。その後、新玉ねぎを乗せさらに5分ほど蒸す。