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走る「現代アート」 日産GT-R50 byイタルデザインに伊トリノで試乗

2021年2月、トリノを見下ろすバシリカ・ディ・スーペルガ(1731年築)の前で

噂(うわさ)の日伊合作、いよいよ路上へ

「GT-R50 byイタルデザイン」は、日産自動車とイタリアのデザイン会社「イタルデザイン」が共同開発したモデルである。

現行のGT-R中最もハイスペックなGT-R NISMOをベースとし、世界で50台が限定販売される。その試乗の誘いが、イタルデザインから筆者のもとに舞い込んだ。

【動画】走る、日産GT-R50 byイタルデザイン

「日産」と名付けられているが、ディストリビューションは日産のディーラー網を通じて行われない。それを説明するため、プロジェクトをおさらいしておく必要がある。

イタルデザインは自動車デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ氏(1938~)とアルド・マントヴァーニ氏(1927~2009)によって1968年に設立されたデザイン企業である。ただし、ジウジアーロ氏は2010年に株式の大半をフォルクスワーゲン・グループ(VW)に譲渡。続いて2015年には完全にVW傘下(グループ内ではアウディのオペレーション下)となった。

今回の試乗車は、生産を前に認証を取得するためのテストカーである
今回の試乗車は、生産を前に認証を取得するためのテストカーである

新たな体制下となった翌年である2016年、同社内に新たなビジネスとして限定生産の部門が立ち上げられた。同社が培ってきた試作車やホモロゲーション(認証取得)のノウハウを駆使し、ベースとするブランドを問わず「超限定」のスペシャルモデルを実現する部署である。

テストカーのタイヤはピレリだったが、生産される車両は前後ともミシュラン・パイロット・スーパースポーツが装着される
テストカーのタイヤはピレリだったが、生産される車両は前後ともミシュラン・パイロット・スーパースポーツが装着される

今回のコラボレーションは2017年ジュネーブ・モーターショー会場で、日産のアルフォンソ・アルバイサ エグゼクティブ・デザイン・ダイレクター(現 デザイン担当シニア・バイスプレジデント)に、イタルデザインがアプローチ。日産側は、展示されていたイタルデザインの限定生産車第1弾「ゼロウーノ」の品質に感銘を受けたことから話がスタートした。

やがて、2018年がイタルデザインの創立50周年、2019年がGT-Rの前身である日産スカイラインGT-Rの誕生50年であることから、現行GT-R NISMOをベースにした限定50台のスペシャル車両構想が誕生した。

コンセプトカーを継承した切れ長のLEDヘッドランプ。イタルデザインの灯火類担当エンジニアの腕が光る
コンセプトカーを継承した切れ長のLEDヘッドランプ。イタルデザインの灯火類担当エンジニアの腕が光る

エクステリアおよびインテリア・デザインは、ロンドンの日産デザイン・ヨーロッパとサンディエゴの日産デザイン・アメリカが手掛け、エンジニアリングから製造、型式認証そして販売までをイタルデザインが担当するという枠組みが決まった。

コンセプト・モデルは、2018年7月の英国グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで披露された。続いて昨2020年5月、より生産型に近いホモロゲーション用モデルが、新型コロナ対策のフルデジタル形式で公開された。今回筆者が試乗することになったのは、この車両である。

生産型製作のプロセスをイタルデザインのプロダクト・マネジャー、アンドレア・ポルタ氏に説明してもらった。

プロダクト・マネジャーのアンドレア・ポルタ氏は1974年生まれ。イタルデザイン社内きっての知日派である
プロダクト・マネジャーのアンドレア・ポルタ氏は1974年生まれ。イタルデザイン社内きっての知日派である

日産の栃木工場からはGT-R NISMOの完成車のままトリノまで輸送されて分解される。そして、車両はイタルデザインが所有する複数の拠点を往復しながら組み立てる。1台あたり6カ月から8カ月をかける。通常の量産車が約24時間で完成することを考えれば、いかに手を掛けているかがわかるだろう。カーボンパーツ以外の金属製ボディーパネルは熟練職人の手叩(たた)きによる成形だ。バッジは手塗り。フィラーキャップなどの一部パーツは3Dプリンターを用いて1個1個製作する。

販売はイタルデザインが行う(日本は独自のディストリビューターが担当)。ボディーカラーは顧客の嗜好(しこう)を個々に反映するため、最終的には1台ごとに異なる予定という。世界にただ1台のカラーというわけだ。筆者は、江戸時代の着物において武家が小紋の柄を他家が使うことを禁じた「留め柄」を思い出した。

R35(現行型)をモチーフにした前面のバッジ。1個1個手塗りで仕上げられる
R35(現行型)をモチーフにした前面のバッジ。1個1個手塗りで仕上げられる

「走るショーカー」造りの集大成

その日トリノは最高18℃に達し、イタリア北部の2月とは思えない暖かさに恵まれた。試乗会といっても、ジャーナリスト向けに催される一般的な形式ではなく、原則として1日1人の限りなくプライベートに近いものだ。さらに筆者は、今回の一般道試乗セッションにおいて世界初のゲストという。オペラでは出演者もスタッフも緊張感みなぎる初日が良い。そうした意味では極めてありがたいシチュエーションだ。

モンカリエリにあるイタルデザイン本社の庭で対面した実車は、ペパーミント・ブルーとでもいうべき美しい水色をまとっていた。フロントフードと両サイドフェンダーが織りなすラインの上品さと、ブラックアウトされたラジエーターまわりの猛々(たけだけ)しさが神秘的ともいえる対比を醸し出している。

トリノ県のワインディングを堪能する。ボディー剛性は、数々のランニング・プロトタイプを得意としてきたイタルデザインならでは
トリノ県のワインディングを堪能する。ボディー剛性は、数々のランニング・プロトタイプを得意としてきたイタルデザインならでは

前方から後方に向かってのエッジの精緻(せいち)を極めた変化や浮き立ち方の繊細さは、1mmの違いも妥協しないデザイナーと、その意図を汲(く)んだイタルデザインの職人たちの力量を静かに物語っている。筆者は過去20年にわたり、イタルデザインのコンセプトカーを世界のショー会場で観察してきたが、今それが路上に降り立った。

いっぽうインテリアは、より現実的である。ダッシュボードを例にとれば、下半分はカーボンが惜しみなく用いられているが、上半分およびステアリングはベース車両のままである。これは、各国での認証に必要な左右エアバッグの仕様および性能を確保するのが目的だ。

ダッシュボードはアッパー部分こそ保安基準に適合すべくベース車両を踏襲しているが、ロワー部分はカーボンで武装されている。テストカーのため、センターコンソールには非常停止用のキルスイッチが設けられている
ダッシュボードはアッパー部分こそ保安基準に適合すべくベース車両を踏襲しているが、ロワー部分はカーボンで武装されている。テストカーのため、センターコンソールには非常停止用のキルスイッチが設けられている

ATセレクターレバー、ステアリング脇のシフト用パドルもベース車両から流用されている。その手触りや操作感は円換算にして1億2700万円を超える車両というよりも、普及型オーディオガジェットというほうが適切である。だが、こうした極度に趣味性が高い車の場合、どこを重視すべきか、どこを看過するかはオーナーのセンスに任せるしかない。

フロント・ミドシップされているのは、GT-R NISMOの中でもサーキット用に720psまでチューンされた最もハイパフォーマンスなエンジンである。どれだけ手なずけられるか、まずはイタルデザインの庭で試走させてもらうことにした。ドライバーズシートには、前述したワールドプレミアのサーキット走行のために装着された4点式シートベルトが待っていた。超高性能車を操縦する緊張感がみなぎる。

テストカーには、2020年に行ったデジタルイベントおよびサーキット試験用に4点式ベルトが装着されていた。中央部分のステッチは、イタルデザイン社内による丹念な手縫いである
テストカーには、2020年に行ったデジタルイベントおよびサーキット試験用に4点式ベルトが装着されていた。中央部分のステッチは、イタルデザイン社内による丹念な手縫いである

しかし、イグニッション・ボタンを押すと、その野太いエグゾーストノートを別にすれば、あたかも普通の日産車のようにさりげなく始動した。そしてセレクターレバーをドライブに入れ、アクセルペダルを踏み込むと、何の不機嫌な様子をみせることなく動き出した。スロットル・レスポンスも極めて自然で、加速は極めてリニアなものである。NISMOの製品ポリシーが、誰もが日常使用できるハイ・パフォーマンスであることは知っていたものの、スペックとはあまりに異なる手なずけられやすさに呆気(あっけ)にとられた。

「スーパーマーケットに行ける車です」とポルタ氏はすかさずコメントした。リアには最低限のラゲッジスペースも確保されているので、モンテカルロあたりでは本当に買い物車として使うオーナーが現れそうだ。

リアのパネルは、コンセプト段階ではリアエンドはゴールドだったが、このテストカーではブラックに変わっている
リアのパネルは、コンセプト段階ではリアエンドはゴールドだったが、このテストカーではブラックに変わっている

助手席に座るポルタ氏とともにゲートを出る。今日のコースはトリノ市街を見下ろす高台スーペルガまで、往復約50kmの主にワインディングである。左側の運転席から見た右側後方の視界は限られている。とくに狭い道から広い道への合流には、慣れと信頼できる助手席乗員が必要だ。

3000rpm前後からの加速と排気音の咆哮(ほうこう)はすさまじい。にもかかわらずターボの効きは滑らか、かつシフトチェンジは極めて紳士的で、唐突感を感じることは微塵(みじん)もない。4WDのトルク配分も極めて自然で、どのような路面状況であろうとドライバーを不安にさせない。ブレンボ製大径カーボン・セラミックブレーキの作動も、不自然な破綻(はたん)をみせることはない。ポルタ氏は、ベースのGT-Rが実現した理想的な前後重量配分や重心位置を可能な限り尊重したと語るが、まさにそれを感じることができる。

いずれもベース車両の完成度によるものだが、2WDと4WDのトルク配分は常に適切。公道を走行する限り、その溢(あふ)れんばかりのパワーを御しきれない場面は現れない
いずれもベース車両の完成度によるものだが、2WDと4WDのトルク配分は常に適切。公道を走行する限り、その溢(あふ)れんばかりのパワーを御しきれない場面は現れない

ここまではベース車両の水準に帰するものであるが、イタルデザインの仕事の優秀性を確認すべく、復路はポルタ氏に操縦してもらい、筆者が助手席に乗ることにした。トリノの荒れた地方道は、ボディー剛性を確認するのに図らずも最適である。そうしたなかベース車両からの大改造をにおわせる剛性的な破綻(はたん)は、まるでみられない。

コストや時間的制約上モーターショー用コンセプトカーを実走できないモデルで済ませるメーカーやカロッツェリアが多いなか、走行可能なランニング・プロトタイプをたびたび実現してきたイタルデザインの真骨頂である。それも今回は、自動車エレガンス・コンクールなどで静かにデモ走行するのではなく、世界屈指のハイパフォーマンスなエンジンを搭載し、かつ日常使用に堪えうるボディーに挑戦している。

古い階級意識を打破できるか?

この日伊合作を、どう捉えるべきか。筆者が行き着いたキーワードは「従来の二項対立との決別」である。

それを考えるには、美術の世界がふさわしい。その世界にはハイ・アート(高級芸術)と、ロウ・アート(大衆芸術)という対立図式が19世紀以降存在した。前者は理解するのに一定の教養を要し、後者は大衆が楽しさを容易に享受できるものとされてきた。一例として中世ルネサンスの神話画や宗教画はハイ・アートであり、ロイ・リキテンシュタインのコミックを模したポップアートやアンディ・ウォーホールのシルクスクリーンはロウ・アートという考え方だ。それらは識者も含む人々の意識の間に、21世紀の今日まで連綿と根づいている。

実は自動車、とくにヒストリックカーの世界にも、それに近い図式が存在すると筆者は考える。最も顕著に表れているのが、欧州のコンクール・デレガンス、すなわち自動車のエレガンス・コンクールだ。上位に入賞する大半は、伝統的ブランドの特注生産車や名門カロッツェリアによる一品制作だ。いわば自動車界のハイ・アートである。

いっぽう日本ブランドは、たとえ往年の高級車でも、たとえ洗練されたフォルムをまとっていても、賞に輝くことは稀(まれ)である。自動車史において後発、かつ量産車メーカーであるという決定的な出自があるからだ。美術にあてはめれば、ロウ・アートなのである。

そうした古い欧州の自動車趣味界で、日産GT-R50 byイタルデザインは、ポジションを獲得できるのか? ヒントを与えてくれたのはポルタ氏だ。彼が世界中で会い、すでに予約金を払ってくれたポテンシャル・カスタマーたちの姿である。

「従来、超限定生産車の多くは、単なる投資の対象となりがちだった。しかし、GT-R50 byイタルデザインに関心をもつ人は違った。純粋にGT-Rを崇拝するコレクターであり、加えていえば年齢層も40~50代と他と比べて若かった」

GT-Rは量産車メーカー・日産のプロダクトでありながら世界のファンに認められ、さらに今回の1台では、ヨーロッパ伝統の自動車アルティジャナート(職人技)との共作に成功している。美術でいえば、日本のアニメーション文化を果敢にアートと結びつけ、ベルサイユ宮殿での企画展にまで到達した村上隆の作品と重なるものがあるといえまいか。

もちろん、価値あるものかが判明するには、美術同様に一定の時間を要する。だが別の角度から見れば、コモディティー化したといわれて久しい自動車文化に、まだエキサイティングな領域が残されていることを、この車は示してくれているのである。

ブラックアウトされたフロントマスクは、甲冑(かっちゅう)で顔面を守る防具・面頬(めんぽお)を観者に想起させる
ブラックアウトされたフロントマスクは、甲冑(かっちゅう)で顔面を守る防具・面頬(めんぽお)を観者に想起させる

(写真・動画/大矢アキオ Akio Lorenzo OYA、Italdesign)

    ◇

日産GT-R50 byイタルデザインは2021年3月31日まで、東京都中央区銀座4丁目交差点の「NISSAN CROSSING」で展示中。

【イタルデザイン社発表スペック】
車名 日産GT-R50 byイタルデザイン
全長×全幅×全高 4784×1992×1316mm
ホイールベース 2780mm
駆動方式 4WD
エンジン 3799cc V6 DOHC 24バルブ ターボ
変速機 6段デュアルクラッチ式AT
最高出力 720ps/7100rpm(推定値)
最大トルク 780Nm/3600-5600rpm
タイヤ (フロント)255/35R21/(リア)285/30ZR21
価格 990,000ユーロ~(税・オプション別)

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