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家事を「理不尽な作業」にしない、たった一つの方法/コウケンテツさん

女性の社会進出にともない、男性の家事や育児参加に注目と期待が集まって久しい。が、料理研究家のコウケンテツさんは「イクメンやカジダンって本当にいるのでしょうか?」という声を多く聞くそう。そこには、東アジア諸国に根強い「家事や育児は女の仕事」という古い価値観が横たわっているという。コロナ禍で働き方、家での時間が大きく変化している今、コウさんとともに「家族が幸せになる家事分担」について考える。

家事に男女差が生まれるのはおかしい

――コウさん一家の「家事・育児事情」は?

妻は僕の仕事のマネジメントを担当し、一緒に働いており、家事も子育ても分担しています。僕がデスクワークが苦手なので、料理の撮影、仕事に関するメールのやりとりや経費関連はもちろん、3人の子どもの学校や保育園、塾に関するあれこれは、妻にやってもらっています。彼女の負担はものすごく大きいです。なので、必然的に子どもの送迎や料理、洗濯などの家事は僕の担当になることも多いです。お互い得意分野を担当するという感じでしょうか。しかし、日々のやらないといけないことがあまりに膨大で、家事も育児も、僕か妻かどちらかが1人でやろうとしたら、にっちもさっちもいかなくなる。分担しなければ日々暮らしていけません。

――コウさんが家事をするようになったきっかけは?

結婚よりもっと前のこと。プロのテニス選手を目指し高校を中退したものの、体を壊してしまった。実力も全くなかったのですが、夢を諦めざるを得なくなったことで精神的にも参ってしまい、家に引きこもっていた時期がありました。そのとき、家族に申し訳ないという思いから家事をするように。ただ、そうした事情はあったにせよ、そもそも自分の中には大きな疑問がありました。

両親は韓国人で、日本同様、「家事や子育ては女性がするもの」という古い考えの世代。実際、家の中のことはすべて母がやっていました。父は兵役に行ったときの経験から、料理や洗濯はもちろん、裁縫まで完璧で、身の回りのことはなんでもできる人でした。ところが家事は一切しなかった。父のことはとても尊敬していたのですが、母1人で大変な思いをしているのに、父はなんで何もしないんだろう? みんなで分担したらもっと楽なのに……と子どもながらに感じていました。うちだけでなく周りの家庭も似たようなもので、母親1人が疲弊していた。ある意味反面教師で、僕は「家族みんなで家事をするのは当たり前」と考えるようになったのです。

家事を「理不尽な作業」にしない、たった一つの方法/コウケンテツさん

コミュニケーションと納得感が重要

――時代が変わって、家事や子育てについての考え方や状況も変わったと感じますか?

世間やメディアが言うほど変わっていない、という印象です。家事シェアや男女共同参画のイベントなど講演させていただくことも多く、子育て中の方々のお話を聞く機会もたくさんありますが、イクメンやカジダンって一体どこにいるの!? と。それどころか、「男性も家事をやろう!」という風潮がかえってパートナーを疲弊させてしまっているケースも多く見受けられます。

たまに料理を担当した男性がものすごい高級食材を買ってきたり、食材がダブついていたりと無駄な買い物をしてしまう。その上、キッチンをめちゃくちゃに散らかし、後片付けもしない。料理を作ってくれるのはありがたいけれど、それではパートナーの負担とイライラが増えるだけかもしれないですよね。本人は良かれと思ってやっていることでも、家族は助かるどころか夫やパパの何気ない言動にかえってつらくなることもあると思うのです。

――何が問題なのでしょう?

パートナー間のコミュニケーションがうまく取れない、という声をよく聞きます。だからいろんな問題の共通認識を持てず、言動にすれ違いが起こってしまう。

ある女性が言っていたのですが、「うちの夫は家のことは何もしないけれど、週末は朝から子どもたちを釣りやキャンプに連れ出し、私に自由な時間を作ってくれる。だから普段は何も手伝ってくれなくてもいい。それがうちのスタイル」と。もちろん我慢をしている部分もたくさんおありだと思いますが、話しあった上でお互いの納得感があれば、しっかり成立するご家庭もあるのだな、と勉強になりました。

今は働き方の形態も価値観も、人や家庭によって違います。一つのロールモデルに向かってみんなが突き進んでいけばいいという時代でもないですし。夫婦でコミュニケーションを取り、自分たちにマッチした家族の形を見つけていくしかないのかな、と感じているのですが、妻が「疲れているかもしれない」と夫に気を使わざるを得ない状況だったり、夫が「疲れてるんだから勘弁してよ」と逃げたりして、意思疎通ができないまま、結局妻がやらなきゃいけないといううやむやな状況に。

家事を「理不尽な作業」にしない、たった一つの方法/コウケンテツさん
男女共同参画のイベントなどで登壇することが多いというコウさん

日々のごはん作り、家事、育児といった「おうち仕事」がたったひとりの自己犠牲や我慢の上に、なんとか成り立っているような環境では、つらさしかないと思うのです。やっても褒められないけどやらないと文句を言われる。「究極に理不尽な作業」になってしまっているのではないでしょうか。

それがどれほど大変でしんどいのかを分かってほしい。パートナーが料理をしている間に、作らない人はせめて「今日もおいしかった。ありがとう」と感謝の気持ちを言葉で伝えてほしい……。そうした家族からの配慮があって初めて乗り越えられる。これまで世界を旅して何百というご家庭にお邪魔してきたけれど、女性が家事を1人で負担している家なんてありませんでした。おうちでもそれぞれの役割があり、「家族も家事をやるのは当たり前」という感覚なのです。

――日本特有の問題だと?

日本や韓国といった東アジアが抱える問題ですね。男尊女卑の考え方がまだ根強く残っている。ビール飲みながらテレビやスマホを見て、食事ができたら無言で食べて、終わったら何も言わずにまたスマホ……。僕が取材させていただいた海外のご家庭では、見られない風景でした。

僕の場合は、男性が家事を全くしない環境に疑問を感じて家事をするようになりましたが、何もしない父親の姿を見て「それが当たり前」と育つ子どもも多いと思います。僕が家事をするのを日常的に見ているうちの長男は、僕が出張などでいないときには母親の買い物について行き、率先して荷物を持ち、ドアを開けてくれるそうです。小学生にしてジェントルマン(笑)。帰ってきたら食材をテキパキと冷蔵庫へ。彼は几帳面なのでビシッと収納します。さすが我が息子!

また、長女が保育園に通っていたとき、「たのしいじかん」というテーマのお絵かきで、パパが料理をしているのを自分とママが一緒に楽しく見ている様子を描きました。その絵を見た先生から「ごはんはママが作るお家が多いけど、パパが作るのね」と言われた娘は「それっておかしくない?」と。日常の何げないワンシーンをちゃんと見てくれているんだな、とジ〜ンときちゃいました。

家事を「理不尽な作業」にしない、たった一つの方法/コウケンテツさん

――子どもはよく見ていますね。単なる自己アピール、自己満足のために家事をしたところで、きっと見透かされてしまう。

そう。料理すればいい、家事すればいいといった短絡的な問題ではないのかもしれません。「メシは?」と不機嫌に聞いたり、出てきた料理に文句を言ったりしていませんか? 相手を自分と対等な人として尊重していたら、自分だけ何もしない、ましてや文句を言うなんてメンタルにはなれないはず。これは大きな、そして、なんとかしなければいけない社会問題なのです。夫婦はもともとは他人なのですから、他人同士が一緒に暮らしていくためには、家族とはいえ、相手に対する敬意が必要。その意識が欠けていませんか?

僕がこの仕事を始めたとき、「男性の料理研究家」というのはまだ特殊で、「男ってこんな料理が好き」と、料理を作る女性に提案するような役割だったような気がします。時代は変わり、男性も当たり前に料理をするようになった。なのに、まだ「家事としての料理」は妻が、母親が作るものだという認識が強い。もし僕に使命があるとするならば、やはり感謝の気持ちも持たず、ただ食べるだけの人の意識改革なのかなとも感じています。

家事が苦手なパートナーに、どう伝えるか

――意識を変えてほしい、家事をやってほしい。でも、たとえば夫の洗濯物のたたみ方がぐちゃぐちゃで、結局たたみなおして妻である自分の仕事が増えてしまう、なんてグチもよく聞きます。何かいい解決策はありますか?

ご自身を「おうちのプロデューサー」と仮定してみては? 歌やダンスの実力が「??」なアイドル(=家事も料理もできないパパ)を表舞台に立たせるにはどうしたらいいのか? 当然練習が必要ですし、やる気を促すことも大事です。家事が苦手なパートナーに、どう伝えたらうまくできるようになるか、いつ、どんな言葉で伝えたらやる気を出してくれるかを戦略的に考える。もちろん大変な作業にはなりますが、そんな風に発想を変えると、イライラが少しは軽減できるかもしれません。

かくいう僕も事あるごとに家族に「家事・育児、全力でやってます」とアピールしています(笑)。料理以外については、妻という名プロデューサーに育てられました。妻は、僕の短所やできないことを責めるのではなく、僕の長所を生かし工夫をしてくれていたのだな、と今更ながら思います。今も気になることはあるようですが、妻は僕に完璧を求めずに、「他のことをいっぱい頑張ってくれているから、ま、いっか」と考えることで、お互い嫌な気持ちにならずに、協力態勢を築きやすい、と言います。繰り返しになりますが、そのためにもコミュニケーション、その上での納得感が重要なのかな、と思います。

家事を「理不尽な作業」にしない、たった一つの方法/コウケンテツさん

――コロナ禍で、在宅勤務が増えるなど、生活が様変わりした家庭は少なくありません。家族のあり方、家族の形を見つめ直すいい機会なのかもしれません。

そうですね。僕はこの状況もポジティブに捉えたいです。必然的に家庭で過ごす時間が増え、これまであまり気に留めていなかった家族の姿や家庭での過ごし方を、目の当たりにすることになった方も多いと思います。

これまで仕事ばかりで家族に目を向ける余裕がなかったなら、まずは家族への感謝の気持ちを持ち自分が活躍できる場所が仕事だけではなく、家庭にもあることに気づいてほしい。そして家事や育児と本気で向き合うことで、そこには仕事では得られない多くの喜びがあるということを感じてほしいなと思っています。

(写真提供・コウケンテツ)

 

 

 

PROFILE
コウケンテツ

料理研究家。3児の父親として子育て、食育にも尽力。YouTubeでKoh Kentetsu Kitchen(料理研究家コウケンテツ公式チャンネル)を開設中。朝日新聞掲載のライフスタイル特集「ボンマルシェ」の連載“アジアの台所から”(2016年4月~2019年3月)に大幅加筆した新刊、初旅エッセイ『アジアの台所に立つとすべてがゆるされる気がした』他著書多数。

 

コウケンテツさんの初旅エッセー『アジアの台所に立つとすべてがゆるされる気がした』(新泉社)が発売中です。“アジアの家族”と過ごしたほんわかとした日々の記憶。コウケンテツ初の旅エッセー&レシピ51品。現地で暮らすごく一般の家庭におじゃまし、一緒に台所に立つことで、一生忘れない人たちと味に出会った。日本でも人気の高いシンガポールライスから現地でしか味わえないマニアックな料理まで、ディープなアジアごはんをご紹介。

※朝日新聞ボンマルシェの人気連載「アジアの台所から」(2016年4月号~2019年3月号)に大幅加筆と新作料理と新原稿で構成。

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