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過去にとらわれず生きていくには(コンシェルジュ:小出祐介)

読者の皆さまから寄せられた相談やお悩みに、映画を愛する様々な分野の方々が寄り添い、最適の作品を紹介する隔週連載。

コンシェルジュは映画コメンテーター/タレントのLiLiCoさん、CGクリエーター/映画監督のFROGMANさん、Base Ball Bear・小出祐介さんの3人です。今回のコンシェルジュはBase Ball Bear・小出祐介さんです。

過去にとらわれず生きていくには(コンシェルジュ:小出祐介)
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PROFILE
小出祐介

2001年に結成されたロックバンドBase Ball Bearのボーカル・ギターを担当。これまで2度にわたり、日本武道館でのワンマン公演を成功させる。また、音楽プロジェクト・マテリアルクラブの主宰も務める。

<相談者プロフィール>
中原 あかね 29歳 女性
東京都在住 教育関係

私は、今ある幸せを感じるのがすごく下手だなぁと思うことがあります。  

現在、仕事も順調で、交友関係もほどほどにあり、趣味を楽しむ時間もあります。家族とも頻繁に連絡を取り合っており、長期休暇の時には帰省して一緒に出かけたりしていました。 

コロナで帰省や友達との飲み会はなくなりましたが、電話やオンライン飲み会などを通じて楽しく話したりしています。

でも、ちょっとしたきっかけで過去の嫌なことを思い出して悲しくなり、なんで自分はあの時こうできなかったんだろうと思い詰めてしまう時があります。 

例えば、テレビで芸能人が母校を訪問し、昔の仲間と楽しそうに思い出話をしているのを見た時は「あの子とあの時もっと本音で話し合っていたら今でも仲良くしてたかな……」とふと思い出し、悲しくなりました。 

「過去のこと」と言っても思い出すのは中学や高校の時の後悔や嫌な思い出が多く、もう社会人なのにいつまで昔のことを気にしてるんだろう……とダブルでへこみます。

完全に過去を断ち切ったり忘れたりすることはできませんが、もう少し、過去にとらわれずに今と未来に目を向けられるようになりたいです。

自分にできることを伸ばしていけば、自分の人生のスペシャリストになれる

まさに、中原さんがはじめにおっしゃっている「今ある幸せを感じる」こと、あるいは「本当は今すでにある幸せに目を向ける」ことが、答えなんじゃないかなと思います。

でも、気持ちがとてもよくわかるんです。

僕も暗黒の学生時代を過ごしたので、「“あの時ああしていたら”問題」を抱えていました。

ただ、年を重ねるごとにいつの間にか、ほとんど考えなくなりましたね。

たぶん、「現在の自分を肯定する力」が上がったんだと思います。

そこに至るまでを思い返してみると、僕はある時期に「全部出来る人でいようとすること」をやめたんですね。

自分の得意不得意を、しっかり認識していくことにしたんです。

今でも「克服する必要がある不得意」を克服はしたいんですよ?

それはちゃんと頑張ったほうがいいです。

ミスチルも「高ければ高い壁の方が 登った時 気持ちいいもんな」(『終わりなき旅』)と言ってます。

だけど昔は、不得意なものすべてを克服したいという気持ちが強くて。

登らなくてもいい壁も、登りたがっていました。

でも、どう考えたって自分は万能じゃないし、その時点でも色んな取捨選択をしてきているんです。

例えば、僕はカナヅチなんですが、それがコンプレックスで水泳の授業が嫌で嫌で仕方なくて。

小学生の頃は、夏が来るのが本当に憂鬱(ゆううつ)でした。

その後、受験して入った中学校には屋内プールがあったので、季節関係なく水泳の授業があり、絶望しました。

一応、三つくらいスクールにも通ってはみたものの、全く泳げるようにならなくて。

それで「自分はもう一生泳がねえ」と決めました。

実際、20年近く泳いでいないので、挑戦してみたら意外と出来る可能性もあるかもしれないですけど、「ちゃんと諦めた」ことで気持ちは随分楽になりました。

「意外と出来る可能性もあるかもしれない」と思えている時点で、かなりニュートラルになっていますよね。

「出来なくていいわい」と開き直ったことで、むしろ前を向けたんです。

これは、人付き合いなども同じだと思うんですよ。

昔は、好きになれない人や、仲良くなれない人を、逐一嫌いになろうとしていました。

それは「好きになってくれないなら」みたいな気持ちの反動もあるような気がしますが、やっぱりすべての人に好きになってもらうことも、好きになることも無理なんですよ。

ただ、嫌いになる必要もなくて。

そして、「しっかり受け入れよう」と頑張らなくてもよくて。

むしろ相手を「こういう人」と認めたほうが、相対化できるというか。

自分には自分の在り方が、この人にはこの人の在り方があるから、まぁそれでいいよね。

交わらないだけだよね、せめて、お互いが損しないようにしよう。

そう思うようになったことで、どこか俯瞰(ふかん)しながら人付き合いができるようになりました。

「全部出来る人でいようとすること」をやめたら、ざっくりとこんな効果が出てきました。

では、どんな風に自分を成長させていこうと思ったかというと、シンプルです。

自分の得意分野に全力を注ぐんです。

僕は何年か前に、もう一度ギターの基礎を学び直す必要があると感じ、それまで一切読んだことがなかった教則本を30冊くらい買ってきて、勉強し直してみました。

楽譜も読めないですし、音楽理論の部分も完全に勘でやってきていたので、逆にその感性が鈍るのではないかと学ぶことが怖かったんです。

でも、いざ始めてみたら、めちゃくちゃ理解出来るんですよ。

勘で捉えていたことが、きちんと説明されるのがすごく気持ちよくて。

1年半くらいかけて、コツコツ勉強しつつ練習していったんですが、かなり成長できたと思います。

もともと得意なことにさらに向き合ってみたら、やっぱりすごく伸びるんですよ。

こんな風にしていくことで、「現在の自分を肯定する力」も高まっていきました。

「おれってこういう人生なんだな」と思えたといいますか。

誰かの人生と比べて、自分の人生を設定していく必要なんてないんですよね。

自分に出来ることを伸ばしていけば、自分の人生のスペシャリストになれます。

一方、「現在の自分を肯定する力」が高まることで、過去のことは全然気にならなくなりましたが、過去そのものがなくなったわけではありません。

過去を修正することもできませんが、しかし、過去の行いを反省していくことはできます。

現在地点からできる過去へのアプローチは、過去の上に現在を積み重ねて、未来に進んでいくことしかないんですよね。

でも、これが人生を豊かにする一番の近道だと思っています。

そして、せっかく積み上げていくなら、やっぱりお気に入りの現在を積んでいきたいじゃないですか。

過去に友人とうまくいかなかった。

ならば、その分、今のご友人を大切にしてあげてください。

今の中原さんならきっとできるはずです。

順調なお仕事や趣味にも、存分に打ち込んでください。

最初にも書きましたが、「本当は今すでにある幸せに目を向ける」ことが大切だと思います。

さて、すっかり自己啓発めいた内容になってしまいましたが、最高の自己肯定感爆上げムービーをご紹介します。

『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』(2018年)です。

主人公のレネーは自分の容姿に自信がなく、卑屈な性格。

憧れの化粧品メーカー、リリー・ルクレア社に勤めていますが、本社勤務ではなく、チャイナタウンのビルの地下オフィスでウェブサイトの管理業務をしています。

本社で受付係の募集をしているのを知りますが、容姿の良さが求められるため、自分に自信が持てず応募しようとも思いませんでした。

ある日、ダイエットのためのバイクエクササイズに参加中、バイクから落下し頭を強く打ちつけ、失神してしまいます。

ロッカールームに運ばれ、目をさましたレネー。

鏡に映る自分を見て、「最高よ、信じられない」「これが私なの?」。

ナイスバディで魅力的な、理想の自分になっていることに気が付きます。

……が、そう見えているのはレネーだけで、周りの人にはこれまでのレネーと同じに見えています。

最高の自分に生まれ変わった(と思っている)レネーは、自信がつき、生まれ変わった気分。

思い切って、本社の受付係に応募します。

また、クリーニング屋で「君の(受付順番待ちの)番号は?」と声をかけてきたイーサンに、「ついにきたわ」「お決まりの手口なの?」と電話番号を交換。

いよいよ、受付係の面接の日。

レネーの自信あふれる姿に感心したエイヴリー・ルクレア社長は、レネーを即採用。

レネーはイーサンにも連絡。デートに出かけます。

ふたりが入ったバーではビキニコンテストが。

コンテストに参加し、ダンスを披露したレネーは会場を盛り上げます。

優勝は逃しましたが、自信にあふれるレネーの姿にイーサンは心惹かれていきます。

デートを重ねるふたり。

「君は完璧な女性だ」「皆、自分のことをわかってない。自分のイヤな部分ばかりに必要以上に固執して、素晴らしい部分を完全に見逃してるんだ」とイーサン。

ふたりの仲は深まっていきます。

一方、仕事も順調なレネー。

新たに展開しようとしている、リリー・ルクレア社の化粧品セカンドライン(プチプラ)の問題点を、庶民的な視点から指摘。

このことで社内での評価が高まり、社のショーケースでのプレゼン役に大抜擢(ばってき)されました。

仕事も恋も順風満帆に見えましたが、レネーは自信過剰になっていき、昔からの友人たちを傷つけてしまいます。

そして、プレゼンの直前。

ホテルのバスルームで転倒したレネー。

のぞき込んだ鏡に映っていたのは、“かつての”自分でした。

アメリカのコメディエンヌである、主演のエイミー・シューマーの演技が素晴らしいので、それだけでもめちゃくちゃ楽しいのですが、さらにメッセージにグッときてしまう映画です。

誰もが子供の頃に持っていた根拠のない自信を、他人と自分を比べて、誰かの何げない一言で、自分を疑い、失ってしまう。

だけど、誰が何を言おうと、自分の強さ賢さ美しさは素晴らしいもの。

自分が「ずっと自分だった」ことを認められたとき、自分の存在のかけがえのなさに気が付けるのではないでしょうか。

過去は、現在と未来にたくさんのヒントを与えてくれますね。

小出祐介さん推薦映画

アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング
監督:アビー・コーン、マーク・シルヴァースタイン

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