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THE ONE I LOVE
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井上陽水、吉田美和、BONNIE PINK、椎名林檎――坂本真綾が魅了された珠玉のラブソング

こんな時代だからこそ、愛を聴きませんか、語りませんか──。実力派アーティストが“愛”にまつわる楽曲を紹介する連載「THE ONE I LOVE」。

今回は、3月17日に初のデュエットアルバム『Duets』をリリースした坂本真綾がセレクトした5曲を紹介する。昨年、歌手デビュー25周年を迎えた彼女が“ラブソング”に求めるものとは一体なんなのか。インタビューでは選曲の意図のみならず、各楽曲にまつわるプライベートなエピソードも語ってくれた。

〈セレクト曲〉
01. 井上陽水「帰れない二人」
02. 吉田美和「生涯の恋人」
03. BONNIE PINK「My Angel」
04. 椎名林檎「ありあまる富」
05. 坂本真綾×小泉今日子「ひとつ屋根の下」

■井上陽水「帰れない二人」

小学校5年生か6年生くらいのころ、たまたま耳にしてガーンと衝撃を受けた曲です。当時はインターネットもなかったですし、誰のなんという曲かもわからなかったので、必死でフレーズを覚えて翌日担任の先生の前で歌って曲名を教えてもらいました(笑)。その先生は学校に白いアコースティックギターを持ち込んで教室で歌ったりするようなフォークソング青年だったので、すぐにわかってくれて。私は当時、兄が聴いていた音楽以外に触れる機会がほとんどなくて、初めて自分から好きになった曲がこれです。ちなみに兄は渡辺美里さんやTM NETWORKさんが大好きで、私もよく聴いていました。とくに美里さんは今でも大好きです。

当時はこの「帰れない二人」がラブソングであるかどうかすら理解していませんでしたけど、「帰れない二人を残して」という歌詞の、なんだかよくわからない切なさみたいなものが「すごく好き!」と思ってしまって。「もう星は帰ろうとしてる」という一節も含めて、映像的に自分の中に入ってきたんだと思います。直接的に愛を歌う感じではなく、何が起こっているのかも明確には語られないので、年齢によって聴こえ方が違うんですよね。大人になってから聴くと、実際に“終電を逃して帰れない2人”みたいになった経験もあったりするので(笑)。とても普遍性のある歌だなと思います。

■吉田美和「生涯の恋人」

DREAMS COME TRUEの吉田美和さんが1995年にソロ名義で出された曲です。ドリカムは幼い頃からずっと好きで、以前『The best covers of DREAMS COME TRUE ドリウタ Vol.1』という10組のアーティストがドリカムをカバーする企画アルバムに「三日月」で参加させていただいたことがあります。仮にそのとき「ソロ曲から選んでもいいよ」と言われていたらこの「生涯の恋人」を歌っていたかもしれないくらい、思い入れのある1曲ですね。

最初に聴いたのは高校1年生くらいの頃です。当時、中学生時代からずっと片思いしていた初恋の人と高校が別々になって、もう会えないのにずっと好きで「この気持ちをどうしたらいいんだ」と思い悩んでいた時期で。そんなときにこの曲を聴いて、「あなたが 人生を共に行く人と/きっと しあわせであるように/そっとそっと 祈っている こんな愛し方も 知ったから」という歌詞に「これだ!」となって(笑)。人を好きになるというのは、その思いを遂げることがすべてではなくて、ただその人の幸せを願う形もあるんだと。そう心から納得してスッキリできましたし、100万回は言い過ぎかもしれませんが、数え切れないほど聴いて泣いていましたね。今でもこの曲を聴くとその人を思い出しますし、当時と同じ熱量で彼の幸せを願い続けています(笑)。二度と会うことはないでしょうし、会えないからこそ美談のままであり続けるんだろうなと。

■BONNIE PINK「My Angel」

これはもしかしたらラブソングだと思わない人もいるかもしれないけど、私は聴いたら絶対泣いちゃう曲です。昔、飼っていたペットを亡くして「本当に天使になっちゃったんだな」と沈んでいたときに出会った曲で、そのときの気持ちにすごくシンクロしちゃって。「見上げたら虹だ ありがとう/頑張れって声 君だね」というフレーズがあるんですけど、それから大事なときに虹が出るということが続いたんですよ。たとえば悲しい気持ちを抱えたままライブ会場へ向かう途中、車窓から虹が見えたり。そのたびに「がんばれ」って言われている気がして、勝手に励みにしてきました。動物と人間の間に生まれる絆って、本当になんの見返りも求めない無償の愛だと思うんですけど、あの子はそれを初めて体験させてくれた存在です。それを思い起こさせてくれるから、私にとってこれは無上のラブソングです。

そういう意味では、今回のアルバム『Duets』のラストナンバー「ひとつ屋根の下」にも通ずるところがある曲だと思います。直接影響を受けたということではないんですけど、ここ数年、私が人生のテーマに掲げている“無償の愛”の歌として作ったものなので。「My Angel」を聴いていた頃は、ただただ失った悲しみを嘆いているばかりだった私が、「ひとつ屋根の下」を書いている今はまた新しいペットと過ごしていて、もらった愛をまた別の誰かに返していくことにすごく喜びを感じている。そういう意味では、あくまで自分の中だけの話ではありますけど、「ひとつ屋根の下」が「My Angel」の“続編”のような立ち位置になり得るのかもしれません。

■椎名林檎「ありあまる富」

目に見えない“富”こそ本物だというようなことを歌っている曲で、 初めて聴いたとき「究極の愛だ」って思いました。これもやっぱり泣いちゃった(笑)。実際に林檎さんがどういう意図で書かれたのかは存じ上げないですけど、お子さんを含めた下の世代全体に伝えたいことなのかもしれないなって。すごく母性を感じるし、音楽という形でこのメッセージを受け取ったときに、自分という存在を肯定された気持ちになったんですよ。林檎さんはいろんな物事のいろんな側面を音楽で表現される方ですけど、「もしかしたら、そういった“母性”の要素こそが彼女の核の部分なのかもしれない」とファン目線で勝手に思っている曲です(笑)。

ここまで選んできた4曲が全部すごく強烈な個性を放つボーカリストの曲ばかりなのは、意図的ではないにせよ、ないものねだりだと思いますね(笑)。唯一無二の存在感を持つ声、ひと声聴くだけで誰だかわかる独自性は単純にとてもうらやましいし、そういう憧れが詰まった選曲になりました。私は彼女らのように歌うことはできないけれど、「じゃあ自分のこの声でできることはなんだろう?」「自分には自分にしかできないことがあるはずだ」ということは考え続けています。そういう意味では、今回デュエットアルバムという形で7人の素晴らしい個性を持つ方々と歌えたことで、自分の存在というものがおのずと見えてきたところもあったと思います。すごくいい勉強になりました。

■坂本真綾×小泉今日子「ひとつ屋根の下」

小泉今日子さんとデュエットさせていただけることが決まったとき、自分でオファーしておきながら驚いてしまって(笑)。「絶対にいい作品にしてやるぞ」という思いで、小泉さんにも私にも曲を書いてくださったことのある鈴木祥子さんに作曲をお願いして、詞は自分で書くことにしました。小泉さんも動物がお好きで、ペットを亡くした経験もおありだというのをエッセーで読んでいたので、その共通点を膨らませつつ書いてみたいというのが最初のアイデアですね。と同時に、『Duets』のほかの曲で表現した恋人同士や友達同士といった関係性とは被らない、“動物と人間”という組み合わせで書いたら面白いんじゃないかと。

小泉さんは言葉や文章にとても高いクリエーティビティーをお持ちの方で、私は彼女のそんなところこそが大好きなので、そんな人に歌ってもらう歌詞でウソはつけないなと(笑)。それに、言葉を交わさずとも通じ合える“究極のバディ”的な関係性をこのアルバムで表現することはすごく意味のあることだと思ったので、気合を入れて書きました。とはいえ、気負いすぎるとうまくいかないこともわかっているので(笑)、「落ち着け落ち着け」と自分に言い聞かせながら。なるべくシンプルな言葉で書きたいと考えていました。

レコーディングでは、小泉さんから「せっかく参加するなら積極的に関わりたい」「いいものを作りたい」という気持ちがすごく伝わってきました。アイデアもいろいろ出してくださって、「ここもハモったほうがいいんじゃないかな」という提案からハモるパートが増えていったり。それでより面白くなったと思いますし、歌詞の中の2人が、2人で一つなんだという意味合いが一層増したと思います。アルバムのラストが2人の声から始まることで、全体のエンディングテーマとしてハッピーエンドを導いてくれる感じの曲にできたなと思っています。

■坂本真綾にとって“ラブソング”とは?

「ラブソングって、なんだろう?」と改めて考えだすと、だんだん禅問答みたいになってきますよね(笑)。とりあえず現時点での私にとっては、“恋”よりは“愛”を歌うもの、という感じでしょうか。作詞をする人間としての考えでいうと、むしろ今こそ一周して渡辺美里さんみたいなキュンとする恋の歌詞を書きたい気持ちがあるんですよ。でも、書きたいと思ったときには「その引き出し、もうないわ」みたいな(笑)。なんで若い頃にもっと書いておかなかったんだろう。恋の歌を書かずにはいられないようなトキメキあふれる経験なんて、この先たぶんないだろうなっていうさみしさはありますね。だからもう、“深い愛”を書くしかない(笑)。

もしくは、自分で歌うんじゃなくて人に提供する前提でなら、職業作家のスイッチを入れて書けるかもしれないです。他人が歌うための歌詞を書くのが今すごく好きなんですよ。そっちのほうが褒めてもらえるし(笑)。そのフィルターを通すことでリミッターを外していいものが書けたら、いつか巡りめぐってセルフカバーみたいな形で自分で歌うこともできるかもしれない。手順がだいぶ回りくどいですけど(笑)。

(取材・文/ナカニシキュウ、企画制作/西本心〈たしざん〉、久場祐愛〈たしざん〉)


★他のアーティストのインタビューはこちら

■坂本真綾セレクト「THE ONE I LOVE」プレイリスト

■坂本真綾『Duets』

井上陽水、吉田美和、BONNIE PINK、椎名林檎――坂本真綾が魅了された珠玉のラブソング

■INFORMATION

【LIVE SCHEDULE】

坂本真綾 25周年記念LIVE 「約束はいらない」
2021年3月20日(祝・土) 開場16時30分 / 開演18時
2021年3月21日(日) 開場15時30分 / 開演17時

会場:横浜アリーナ
チケット:全席指定 前売り 8,800円(消費税込) / 当日 9,900円(消費税込み)

20日(祝・土)ゲスト出演:内村友美(la la larks)、堂島孝平、原昌和(the band apart)

21日(日)ゲスト出演:内村友美(la la larks)、堂島孝平、土岐麻子
バンドメンバー:北川勝利(Band master & Guitar)、佐野康夫(Drums)、千ヶ崎 学(Bass)、奥田健介(Guitar)、扇谷研人(Keyboards)、毛利泰士(Percussion & Manipulator)、稲泉りん(Chorus)、高橋あず美(Chorus)

詳細:https://www.jvcmusic.co.jp/maaya/25th/live/

※必ずガイドラインをご確認のうえ、チケットをご購入ください
https://www.jvcmusic.co.jp/maaya/25th/live/cooperation.html


■Profile
坂本真綾(さかもと・まあや)
1980年生まれの声優、シンガー・ソングライター。子役として芸能活動を開始し、1996年に自身が主演を務めたテレビアニメ『天空のエスカフローネ』のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビュー。これまでにシングル31作、オリジナルアルバム10作を発表。2021年3月には4thコンセプトアルバム『Duets』をリリース。シンガーとして精力的な活動を続けながら、声優、舞台役者、文筆家などとしても活躍。透明感と存在感を併せ持つ独特の声質と、丁寧に作り込まれた完成度の高いポップミュージックを特徴としている。

【関連リンク】
坂本真綾 Official web site [I.D.]
https://www.jvcmusic.co.jp/maaya/

坂本真綾 | FlyingDog
https://www.jvcmusic.co.jp/flyingdog/-/Artist/A008957.html

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