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〈155〉“まちの本屋”存続のためのチャレンジ 「石堂書店」

昔はどこの駅前にもあった、小さな書店がどんどん姿を消している。全国の書店数は2000年代初頭は2万店以上あったが、今では半減した。

東急東横線妙蓮寺駅前の商店街にある、新刊の書籍や雑誌、生活関連の本、マンガなどがバランスよくそろった「石堂書店」(横浜市港北区)も、70年以上もの歴史を持ちながら、本が売れない現状に悩まされている書店の一つだ。建物は老朽化しているが、赤字続きで、建て替えや改築もままならない。何も手を打たずにいれば、いつか店をたたまなくてはならない日が来るだろう。

そこで昨年2月、ふたつのチャレンジに踏み切った。店舗の2階にコワーキングスペース「本屋の二階」を作り、向かいにある元支店を新刊書店「本屋・生活綴方(つづりかた)」に衣替え。どちらも本や本屋好きの注目を集めている。

〈155〉“まちの本屋”存続のためのチャレンジ 「石堂書店」

「本屋の二階」は名前の通り、長年活用できていなかった書店2階のスペースに机や椅子、本棚などを置き、仕事や読書を楽しめるようにした。コンセプトは〈まちのしごとば〉。月額会員かドロップイン(一時利用)会員になれば利用可能。隣駅の白楽にある「テラコーヒー」が焙煎(ばいせん)したカップ・オン・コーヒー(有料)を部屋の一角に常備し、セルフサービスで飲めるようになっている。

奥にある一部屋は、「おそくて、よい本」がコンセプトの出版社・三輪舎が入居。代表の中岡祐介さんは、「石堂書店」のチャレンジに深く関わっており、「本屋の二階」開始に先だって、会社もここに移転してきた。

コワーキングスペースでは、利用者同士の会話のきっかけにと、お茶を淹(い)れて振る舞うこともあるという。りんご箱を積み重ねた本棚に並ぶのは、中岡さんの蔵書。アートやデザイン系、出版や書店関係、エッセー、三輪舎の本などが置いてあり、利用者は自由に読むことができる。

〈155〉“まちの本屋”存続のためのチャレンジ 「石堂書店」

一方の「本屋・生活綴方」は、約30~40年前に子供向けの雑誌や書籍、マンガを販売していたかつての支店で、空き店舗になっていた場所を活用。詩集やエッセー、ノンフィクションなど、石堂書店とは異なる品揃(ぞろ)えで、丁寧に作られ、長く読みたい本を仕入れて販売している。壁面を展示スペースにし、ライブやトークも開催。こたつでおすすめの本やイベントについて語り合うインターネットラジオ「本こたラジオ」の配信も始めた。

老舗の3代目が直面した厳しい現実

新たなプロジェクトの中心的存在は「石堂書店」3代目の石堂智之さん。父から跡を継ぐように言われることもなく、大学卒業後は一般企業に就職したが、父とともに店を支えてきた母が2009年に亡くなったのを機に、店で働くようになった。

「何もわからなかったので、書店の勉強会に参加したりしました。出版業界って、出版社や書店が競争というより共存しているような感覚で、勉強会を通じて自分もその一員として頑張ってやっていこうという気持ちになったのですが、経営状況は悪くなる一方。果たして続けられるのかと日々感じていました」

〈155〉“まちの本屋”存続のためのチャレンジ 「石堂書店」

業務に追われ、情報収集もままならない。そんな焦りを覚えていた折り、隣駅の菊名で本作りを始めた中岡さんが、最初に手掛けた本を携えて店を訪れた。各駅停車しか止まらない駅前の小さな書店に、出版社が営業に来ることはほぼ皆無だった。

「初めての本を地元の本屋にも置いてもらいたくて、ここに来ました。石堂さんは本を扱ってくれ、注文が入ったら届けにいっているうちに、いろいろしゃべるようになりました」(中岡さん)

中岡さんは大手書店に勤めていたことがあり、出版業界や書店にも詳しかった。同世代の気軽さもあり、おすすめの本を聞いたり、経営の相談をしたりするように。それを踏まえて石堂さんなりに、面白いと思った本を仕入れたり、人件費を見直したりと努力を続けたが、思うように売り上げは伸びなかった。

「厳しい状況なのは僕が見てもわかるほど。建物の老朽化も進み、本屋なのに雨漏りにも悩まされていました」(中岡さん)

〈155〉“まちの本屋”存続のためのチャレンジ 「石堂書店」

「まちの本屋」を続けるために

どうすれば店を存続できるか。石堂さんと中岡さん、そして石堂さんの兄の同級生で建築不動産会社を営む酒井洋輔さんが加わり、方策を考えるようになった。

「酒井さんは妙蓮寺で生まれ育ち、小さい頃に『コロコロコミック』を買いに来たこの書店をなくしたくないと思っていた。僕も三輪舎として関わっている以上、この書店を守りたかった。何より、こんな厳しい状況なのに、石堂さんが『続けたい』と意志を固めていたことが根底にあったから、みんなで知恵を出し合えた」(中岡さん)

「もうだめだ、やめようと思うと、必ずお客さんから『がんばって』って言われるんです。顔に出ていたんでしょうかね。地元のお客さんとのつながりをなんとか守りたくて、中岡さんや酒井さんに相談していました」(石堂さん)

銀行からの融資は望み薄だったため、「まちの本屋リノベーションプロジェクト」と題してクラウドファンディングを行った。中岡さんが出版業界の知人に働きかけて関連イベントを開いたことも追い風となり、目標金額の150万円を大きく上回る221万円が集まった。この資金を元手に、建物の雨漏りを直し、「本屋の二階」と「本屋・生活綴方」を作ったという。

〈155〉“まちの本屋”存続のためのチャレンジ 「石堂書店」

「2階をテナントとして他に貸す選択肢もありました。でも、本と乖離(かいり)するような使われ方は避けたかった。なのでコワーキングスペースを作って本棚を置き、自分たちで管理することにしました」(石堂さん)

人が集まり、新たな場が生まれる

昨年末に、新たなメンバーが加わった。大手書店で勤務経験がある鈴木雅代さん。石堂書店と本屋・生活綴方の仕入れやマネジメントを任された。

「中岡さんから、2つの店舗をつなぐ“番頭”のような役割をお願いしたいと誘われました。以前勤めていた書店は、売り上げアップのための“イベント屋さん”によってしまっていて、自分のやりたい仕事とかけ離れていました。私が書店員として働き始めたのも街の書店でしたし、改めて純粋にお客さんと向き合い、反応が直接感じられるここで働くことにしました」(鈴木さん)

〈155〉“まちの本屋”存続のためのチャレンジ 「石堂書店」

「本屋の二階」は、新型コロナウイルスの影響もあり、テレワークの仕事場として使う人も少なくないという。近くに住んでいながら、あまり「石堂書店」に来ることがなかった人が会員となり、帰りに1階にも立ち寄ってくれるようになったという。また、鈴木さんが入ったことで、「石堂書店」の品揃えもベストセラーや雑誌だけでなく、より知的好奇心を刺激する本などが加わり、いい変化が生まれてきている。他の書店では入手しにくい本が並ぶ「本屋・生活綴方」には、独自の選書に惹(ひ)かれて、遠方からも客が来るように。1~2万円の本をまとめ買いする人も目立つという。

かつては妙蓮寺に数軒あった書店も「石堂書店」を残すのみとなった。コワーキングスペースや異なるコンセプトの書店を併設し変わろうとする老舗を、地元の人々も温かく見守っている。

「新しいことをやるたびに、いろんな人が反応し、力を貸してくださり、多くの人が関わる場になりました。ネットではなく、リアルでしか得られないものもありますし、何かと出合える、刺激がある場所を提供し続けたい。それがここの存在意義にもなっていると思うんです」(石堂さん)

〈155〉“まちの本屋”存続のためのチャレンジ 「石堂書店」
左から石堂智之さん、鈴木雅代さん、中岡祐介さん

■大切な一冊

『のどがかわいた』(著/大阿久佳乃)
詩を読むことの面白さを伝えようと、フリーペーパー『詩ぃちゃん』を作っていた大阿久佳乃さんの書き下ろしエッセー。高校生活になじめず不登校の経験を持つ彼女が、詩や本のこと、そして日常の様子を綴っている。

「私が何度も読み返している本です。大阿久さんは『永遠や死といった、抽象的かつ絶対にわからないものを恐れた時期があった』と書いているけど、私にも、その恐れみたいなものが自分の中にずっと残っているような感覚があります。そうした感覚の不思議さや、時間の経過によって変化する感情は、確実に自分の中に湧き上がった気持ちだけど、言葉にするのがとてもむずかしい。大阿久さんはこの本の中で、そういったことに真正面から向き合って書いています。その文章には、何度読み返しても心が動く発見があるのです」(鈴木さん)

〈155〉“まちの本屋”存続のためのチャレンジ 「石堂書店」

「石堂書店」
神奈川県横浜市港北区菊名1-5-9
https://books-ishidoh.com/
「本屋の二階」
https://www.machinoshigotoba.com/
「本屋・生活綴方」
https://tsudurikata.life/

>>写真の続きは画面下のギャラリーをご覧ください

(写真・山本倫子)

※連載「book cafe」は隔週金曜日配信となりました。次回は、2021年4月2日の配信予定です。

>>book cafeまとめ読み

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