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小川フミオのモーターカー
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70年代英国の“未来的”デザイン アストンマーティン・ラゴンダ・シリーズ2

低くて長いプロポーションが最大の特徴

衝撃的なデザインのクルマとして思い浮かぶのが「アストンマーティン・ラゴンダ・シリーズ2」だ。真横からみると、フロントオーバーハング(前輪から前の部分)もリアオーバーハングもうんと長く、前後の区別がつかないようなスタイルがユニークだ。

フロントボンネットはうんと低い。グリルも灯火類も薄い。アストンマーティンといえば、パワフルなエンジンを収めている証しのように、あえてボンネットを盛り上げ、同時に、ガバッと開いたような大きなグリルを特徴としていた。それに対して、全くの逆張り。

巨大なリアウィンドーが印象的(英国ではリアは黄色いナンバープレート)
巨大なリアウィンドーが印象的(英国ではリアは黄色いナンバープレート)

ラゴンダ・シリーズ2のエンジニアは、V8エンジンをその低いボンネットのなかに収めるために四苦八苦したらしい。コンパクトにしようと吸排気系をいじったため、中回転域でのトルクが不足。そのためエンジンヘッドを設計しなおすとか、本来やらなくてもいいことにまで手を染める結果になった。

未来的なスタイルが衝撃的だったこのクルマが登場したのは1976年。日本だとトヨタ・パブリカがまだ現役(生産終了は77年)のときだ。そのせいもあって、私は、英国はすごいなあといたく感心したものである。

子どものとき好きだった英国製テレビドラマ「謎の円盤UFO」(1970年)をすぐ思い浮かべた。「サンダーバード」を手がけたジェリー・アンダーソンが制作総指揮したこの実写SFの世界が、ついに現実になったと思ったものだ。

格納式ヘッドランプを備えている
格納式ヘッドランプを備えている

当時の英国は、60年代に端を発する経済の長期低迷期にあり、雇用状況は悪化し、各企業の業績もいま一つぱっとしなかった。それでも、ブリティッシュ・エアクラフト・コーポレーションなど英仏の企業が共同開発した超音速旅客機「コンコルド」が開発され、70年代は各国の航空会社にさかんにセールスがもちかけられた。先進的なイメージは健在だったのだ。

また、ネットフリックスのドラマ「ザ・クラウン」ファンのための情報としては、マーガレット王女(英女王エリザベス2世の実妹)がスノードン卿(写真家のアンソニー・アームストロング=ジョーンズ)と別居(のちに離婚)したのが、ラゴンダ・シリーズ2が登場した76年だ。

モータースポーツの分野でも、70年代の英国は話題を提供してくれていた。なにしろ強いF1コンストラクターが勢ぞろいだ。「ローラ」「ロータス」「マーチ」「シャドウ」「サーティース」「ティレル」「エンサイン」「フランク・ウィリアムズ・レーシングカーズ(ウィリアムズ)」、それに、常軌を逸した行動で知られるデカダンな貴族ヘスケス卿の「ヘスケス」もあった。

ようするに、国力が衰えたといわれても、英国には、しっかりパワーがあった。ラゴンダ・シリーズ2も、そう思わせてくれるのに、ひと役買ったと思う。

オリジナルは表示にLEDを使っており、1983年からはブラウン管に変更された
オリジナルは表示にLEDを使っており、1983年からはブラウン管に変更された

なぜ、車名に「シリーズ2」と入っているかというと、先立つ74年に、「V8」なる2ドアクーペをベースに、ホイールベースを延ばして4ドア化した「ラゴンダ」を発表しているからだ。これが「シリーズ1」。7台作られただけで、上で触れたように経営危機のため生産中止となった。

このとき、高性能4ドアには市場性がある、と気づいたのだろう。ただし、並の4ドアではアストンマーティンらしくない、と新しい経営陣は判断。「シリーズ2」はなににも似ていないカタチにしたのである。

アストンマーティンは実は、当時は消滅の危機に瀕(ひん)していた。71年にこの会社を引き受けたバーミンガムの投資銀行は、英国の不況のあおりを受けて、米国で70年に改正された大気汚染防止法をクリアできる新エンジン開発のための資金調達に失敗。アストンマーティンはドル箱のはずの米国市場から一時徹底する。

75年に米カリフォルニアの半導体会社「ナショナル・セミコンダクター」を中心に、カナダ・トロントのホテル経営者や、ロンドンのビジネスマンらが、アストンマーティンを引き受ける。そして、この1913年創業の歴史あるスポーツカーブランドが元気なことを証明しようと、突貫工事でいくつものプロトタイプを発表するのだった。ここで採り上げるラゴンダ・シリーズ2はそのうちの1台だ。

いまでも迫力十分のスタイル
いまでも迫力十分のスタイル

このユニークなデザインを創造性と言い換えるなら、アストンマーティンにはたっぷりその才能があった。スタイリングを手がけたのは、英国人デザイナー、ウィリアム・タウンズ。ルーツグループを振り出しに、ローバーでいくつも仕事をしたのち、66年からアストンマーティンに移っている。

アストンマーティンではシートデザイナーとして経歴をスタートさせたタウンズは、はっきりいって、名車を残していない。50代で惜しくもガンで他界しているので、人生がもっと長ければいい作品を手がけたかもしれない。

ただし、“高級”セダンとしてはじつに風変わりなデザインコンセプトを実現させたのは、一つの才能といっていい。全長5353ミリ、全幅1800ミリ、全高1320ミリと、4ドアセダンとしては長すぎて低すぎるプロポーションのボディーに5340ccのV8エンジンを詰め込んだのがラゴンダ・シリーズ2。このクルマゆえに、タウンズは、自動車デザイン史に名前が刻まれそうだ。

アストンマーティンの目論見は米国市場での成功だった。ただし89年まで作られたラゴンダをもっとも好んだのは、石油を世界中に売っていたアラブの富裕層だったという。そしていま、この個性的なスタイリングコンセプト、日本でもウケそうではないか。

【スペックス】
車名 アストンマーティン・ラゴンダ・シリーズ2
全長×全幅×全高 5353×1800×1320mm
5340ccV型8気筒 後輪駆動
最高出力 206kW/280ps@5000rpm
最大トルク 44.4kgm@3000rpm

(写真=Aston Martin Lagonda提供)

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