懐の深さに飛び込んで 下町にたたずむひみつの隠れ家「maru 2F」

春の風が心地よい3月のこの日、4月末から公演の舞台『路地裏の優しい猫』の稽古を終えた私は足早にとあるお店へと向かった。
このコラムをはじめた1年前のこの時期も、ちょうど舞台の稽古が始まる時期だったなぁ、なんて懐かしい気持ちになりながら1年間の大きな変化をゆっくりとかみしめる。
そうこうしているうちに到着したのは東京は東にある、八丁堀だ。
ビジネス街の喧騒(けんそう)と下町風情が絡み合う独特の空気感は、東京にはまだまだ知らないひみつの隠れ家があることをしめしているようで途端に胸をくすぐられる。
「maru 2F」
今日の目的地。
お気づきの方もいるだろうか。
実はこのお店、今年1月におこなったオンラインイベント「今夜はおうちでひみつの乾杯」で視聴者の方におすすめしていただいたお店なのです。
こうやって皆さまとおいしいお店の情報を交換できることがとてもうれしくて、この日をずっと楽しみにしていました。
改めて、すてきなお店を教えてくださった皆さま、ありがとうございました!
さっそく、1階の酒屋「Stand Bar Maru」を横目に階段をのぼって2階へ。
店に入るとすぐに、炭火台を囲んだ大きなバーカウンターが私を出迎えてくれる。
火を囲んでいい香りに包まれながらお酒を飲む最高のシチュエーションがすぐに想像できた。
そして目を引いたのは壁一面におかれた世界中のワイン。
フランス、イタリアに、アメリカ、オーストラリア、果てはチリまで。
300本以上のワインが並んでいるそうで、ワイン好きにはたまらない空間である。
よく見るとボトルにはそれぞれ値札がついているのだが、知っているワインを見ても相場よりぐっと安く感じる。
maru マネージャーの星野太助さんに話をうかがった。
「うちは食事よりもワインがたくさん出るほどワインがメインの店で、今ボトルについている値札にプラス500円でワインを飲んでいただけます。値札も酒屋から仕入れたものに100~1000円ほどしか上乗せしていないのでもうかりませんが、”安くおいしいものを”がうちのオーナーの信念です」
ちょいと……粋じゃぁねえか。
これぞ、下町の心意気といえようか。
カジュアルなテーブルワインから、普段は飲めないような高級ワインまで、ワインをどっぷりと楽しむことができる。
複数人で来たらきっと何本もボトルを開けてしまうに違いない。
一人で来たことを少し後悔しつつも、飲み切れなかったボトルは持ち帰れると聞いて安心した私は、大きな窓からビル街が見渡せる席についた。
窓の下をのぞき込むと真下に駅の入り口があり、少し酔っぱらってしまっても、ちゃんと家には帰れそうだ。
早速気がゆるむ。
乾杯は『007』でおなじみのあのワインで
それではいよいよ乾杯。
1杯目におすすめしてもらったのは、「ボランジェ スペシャルキュヴェ フランス・シャンパーニュ」。

「ボランジェスペシャルキュベ フランス・シャンパーニュ」グラスで950円(税抜き)
映画『007』シリーズでもおなじみの、セレブリティーに愛される高品質ワイン。
「通常は飲食店で注文するとボトルが1万3000円ほどしますが、うちでは4980円でお出ししています」
耳を疑うような価格設定に目がまんまるになる。
そんな……最高すぎませんか……?
もし4人で行ったら……頭の中で勝手に勘定が進む。
予約の取りづらい人気店である理由がはっきりと分かった。
ここなら普段は手が届かないワインも心置きなく楽しめるのだ。
一口いただくと……。
う~ん。
今日もいいお味ね(初めて飲みます)。
思わず笑みがこぼれてしまう品質の高いワインが持ち合わせるふくよかなうまみがしっかりと広がった。
気分はすっかりボンド・ガールだ。
合わせてオーダーした、クレソンとアボカドのサラダ。

「クレソンとアボカドのサラダ」750円(税抜き)
シャンパンに含まれるぶどうの品種、ピノノワール由来のなめらかさがアボカドのまったりとしたクリーミーさによく合い、クレソンの苦みがシャンパンの次の一口をせかすように誘う。
お酒のあてだからといって濃すぎず、かと言ってバランスのとれた絶妙な味付けのサラダ。
ワインだけでなく、お食事もとってもおいしい……。
オーナーが毎朝豊洲市場で良い食材を選ぶため、毎日違ったメニューを楽しむことができるそう。
その丁寧な商い魂が、常連客の心を離さないのだろう。
エチケットからあふれでる、チャーミングな味わい
続いていただいたのはイタリア、シチリアの白ワイン、「キアランダ」。

「キアランダ 2017 イタリア・シチリア」グラスで1500円(税抜き)
うっとりするほど、きれいな黄金色。
注がれるワインのたゆたう様子をじっと見ていると、この中に吸い込まれてしまいたいといつも思う。
甘い樽(たる)のいい香りに包まれながらそっと一口いただくと、意外にも飲み口はキリっと辛口。ほどよいボリューム感がワイン全体をキレイにまとめている。
しかし後味はふんわりと甘くて、やさしい。
なんてチャーミングでいたずらごころのある味なんだろう。
エチケットに描かれたかわいらしい女性が今にも話しかけてきそうだ。
長く伸びる余韻は深みがあって、一緒に合わせた国産アスパラガスのグリュイエールチーズソースの濃厚なチーズの存在感をしっかりと受け止めている。

「国産アスパラガスのグリュイエールチーズソース」1100円(税抜き)
このままずっとワインとチーズの追いかけっこが続いていけばいいのにな。
「もしペアリングに迷ったら、食事の色とワインの色を合わせると結構合うんですよ」と星野さん。
黄金色のワインには濃厚なチーズの黄色、白身魚のカルパッチョには透き通った色の白ワイン。
気楽に楽しんでもらえればと、食事を楽しむヒントを教えてくださいました。
キレイだけでは終わらない奥行き
最後にいただいたのは、「カレラ ライアンヴィンヤード ピノノワール」。

「カレラ ライアンヴィンヤード ピノノワール 2016 アメリカ」グラスで1800円(税抜き)
アメリカのロマネコンティといわれているこのワインは、ピノノワールの繊細さもあるけれどキレイだけでは終わらない奥行きのあるワイン。
シルクのようになめらかでするすると美しく延々と飲んでいたい味だ。
タンニンがしっかりとしたワインも好きだけど、ボトルでゆっくり飲むのなら、こういうワインはいいなぁ。
一緒にいただいた地鶏と魚介のパエリアは、しっかりおいしいけれど、どこかきどらない落ち着く味。

「地鶏と魚介のパエリア」1人前1200円(税抜き) ※2人前から注文可
良いワインとおいしい食事を、カッコつけずに楽しめる場所。
本物志向でありながら、人情味あふれるこの空間はこの八丁堀という土地柄があらわれているのかもしれない。
この懐に今日は甘えて、もう少しゆっくり過ごしてしまおう。
どんなものでも、自分の日常に寄り添ってくれた時がやっぱり一番心地がいい。
これだから隠れ家探しはやめられないなぁ。
これからも私だけのひみつの場所、増やしていこうっと。
【動画】「maru 2F」で過ごす穏やかな時間
お店情報
maru 2F
東京都中央区八丁堀3丁目22-10 2F
03-3552-4477
営業時間:午後4時~8時(酒類の提供は午後7時まで)
定休:日曜、祝日
※上記は緊急事態宣言中の情報です。現在の営業についてはお店にお問い合わせください。

Tops 39,000円、Skirt 49,000円(ともにTHE KEIJI、税抜き) IJIIT&CO.,LTD/OMOTESANDO TEL:03-3499-7355
編集部からのお知らせ
2020年2月13日より連載を開始した「渡辺早織のひみつの乾杯」は今回をもちまして終了とさせていただきます。みなさま、長らくのご愛読ありがとうございました。