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30歳からのコンパス
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能町みね子さん「老け込まないように、フラットでありたい」

女性にとって30歳は、結婚、出産、キャリアなど、生き方を意識するようになる節目です。女性の選択肢が広がるいま、様々な分野でご活躍されている方々が、どのような30代を過ごし、その後はどのような選択をしたのか、3月8日の国際女性デーに合わせて聞きました。今回登場してもらうのは、エッセイストでイラストレーターとしても活躍している能町みね子さん(42)。性転換手術を経て、現在は戸籍上も女性として生きている彼女に、どんな30代を過ごしてきたのか、話を聞きました。

仕事に生きた30代

能町さんがエッセイストになったきっかけは、ブログ「オカマだけどOLやってます。」を26歳だった2005年に立ち上げたこと。当時、戸籍上は男性でありながら、“OL”として過ごす日々をつづっていた。

「会社員をしていた頃は、このままずっと会社勤めなんだろうなと思っていました。将来は今みたいになるとは全然思っていなかったですね。実は、最初から本にするつもりで、ブログを始めたんです。当時はいわゆる“ブログ本”がブームになっていたし、このネタだったらどこかの出版社が食いついてくれるだろうと」

計画通り、ブログは書籍化。複数の出版社から出版の話を持ちかけられ「仕事があればやります」と答えていたら、少しずつ執筆の仕事が増えていったという。タイでの性転換手術の様子をつづった『トロピカル性転換ツアー』、実録と妄想の人間観察エッセー『お話はよく伺っております』(いずれも文春文庫)など、自身の体験を赤裸々に描き、その軽妙な文章で徐々に注目されるようになった。

能町みね子さん「老け込まないように、フラットでありたい」

加えてラジオパーソナリティーやテレビの冠番組、大相撲の解説と、30代は楽しみながら仕事を頑張ってきた分、収入や自由度も増して、人生の充実度も高まっていった。

「私の場合、出産というものがそもそも選択肢になかったので、ある意味、気楽にすごしていたのかもしれません。20代の頃は漠然と年をとりたくないと思っていましたが、実際は30代の方がより自由になったと思います。金銭的な意味でもそうだけれど、根本的に自分の考え方とかに自信が持てるようになりました」

結婚のきっかけはツイッター

能町さんは38歳のときに、ゲイでライターのサムソン高橋さんとの「契約結婚」をスタートした。

それまでぼんやりと「経済と精神の効率のために結婚したい」と思っていたものの、どこか本気ではなかった。互いに恋愛感情を抱かないゲイの人とだったら関係が長く続くのではないかと、「お互いに何も期待しない関係性がいい」「ゲイと結婚したい」「お見合いがしたい」とツイッターに投稿。さらに、高橋さんのことを「結婚相手として最高」と書いたことから自ら実行に移すことになり、好奇心もあって、婚姻届を出さない契約結婚に至った。

「心地いいと思う生活スタイルが、たまたま今ある制度に合えばラッキーだなと。自分の中では企画書を出したみたいな感覚に近いです。企画を立てて、1人で会議をして、相手の承認を得て、このプランで行こう!と決まったような。恋愛の要素はゼロですけど、老夫婦のような関係で、心地いいです」

恋愛感情も性生活もないけれど、「夫婦」2人で築く落ち着ける場所。それこそが、能町さんが見つけた「幸せ」のかたちなのだろう。

能町みね子さん「老け込まないように、フラットでありたい」

「人と一緒に暮らすようになって、ストレスがかなり減りました。私、料理も掃除も洗濯も全部嫌いですが、向こう(高橋さん)が全部やってくれています。そのぶん、私が生活費の大半を稼ぐ。それに、私は1人でいるとネガティブな考え方をしてしまうのですが、誰かといると考え方が散って、暗く考えずにすむのでいいですね」

能町さんの話を聞いて思うのは、知らず知らずのうちに「恋愛→結婚→出産=幸せ」という“法則”を思い描いている人はやはり多いのではないか、ということ。女性にとって30代は特に、キャリアはもちろん、結婚や妊娠、出産など、人生の節目を意識するタイミング。だからこそ、モヤモヤを抱えてしまうことも多いのだが、迷ったり焦ったりしてしまうのは結局、「こうしなくちゃ」「こうするべき」という思い込みのせいなのかもしれない。忘れてしまいがちだが、幸せに至る「全問正解」なんて、どこにもないのだ。

日常生活を面白がる

能町さんに聞いてみた。「仕事もプライベートもいまいちで、なんとなく毎日過ごしているけれど、何かを変えたい。『幸せ』を見つけるためのヒントは――?」

「こういう質問に対して『前向きに行きましょう』とかざっくりしたことじゃなくて、具体的なことを考えて答えるの好きなんです。転職とか結婚とか、何か大きいことをするというのも大事ですが、日常生活を面白がった方がいいと思うんですよね」と、笑顔でさまざまな提案をしてくれた。

能町みね子さん「老け込まないように、フラットでありたい」

「例えば、ファッションとか髪型とか、見た目を変えるだけで気持ちも変わると思うんですよね。あと、本屋さんで興味のない分野を見るのもおすすめです。私、本屋さんがすごい好きなんですけど、別に興味がないコーナーとかも見に行くんですよ。土木コーナーとかトラック雑誌とか。『こういう世界があるんだ。自分の世界は狭いな』と思えて、いろいろなことに興味を持てるようになります」

「家にいるならGoogle マップで現地に行った気になるのも面白い。全然知らない国の方が楽しいんですよ、アフリカとか。適当にピンを落とすと写真が出てくるので、それを見て旅したような気分になりますね。場所も妄想も制限をつくらずに没頭すると楽しめる。そういう小さなことでいいから、今までやったことがないことを試してみるとワクワクするし、刺激になりますよ」

先輩ヅラせずフラットに

能町さんはこれからどんな目標を持っているのだろう。少し考えてから能町さんは言った。

「なるべく重鎮にならないことですね」

変化することを恐れない、めんどくさがらない。そんな能町さんの姿勢に、柔軟に、楽しみながら、年を重ねていくことの貴さを思った。

「きっと、ジェンダーに対しても、今の若い人たちの価値観は変わってきているんじゃないかなと思うんです。以前、バラエティー番組である若手男性芸人が、『かわいいでしょ?』と『元カノ』の写真を見せていたのですが、その写真がおそらく元男性のトランスジェンダーでした。そこで『男が好きなんや!』とベテラン司会者に茶化されていたんですけど、本人は言い訳するでもなく、平然としていました。その一連の流れを見た時に、年代でのジェンダー観の断絶を感じました」

「若い世代にとって、ジェンダーを絡めてボケたり、普通じゃないと言ったりすることは、もう根本的に『古い』という感覚なんだろうなと。『男だから』『女だから』とことさらに分けることも古い。この傾向はすごくいいことだと思います」

能町みね子さん「老け込まないように、フラットでありたい」

取材中、能町さんが漏らしたこんな一言が印象的だった。「40代になって、今の時点で20代の知り合いが全然いなくて……」。危機感に駆られたきっかけは、自分では使いこなせないアプリに出合ったことだという。

「ツイッターもInstagramも使っていますけど、TikTokが出てきたときに『これはマジでおもしろさが理解できないぞ』と思って(笑)。危険信号を感じたんです。高齢だとネットに疎い人が多くてギャップを感じるように、自分もついに時代についていけなくなってしまったのかなと。別に無理矢理TikTokを楽しもうというわけじゃないんですけど、知識だけでも入れておきたいなと。老け込まないように、先輩ヅラせずに、フラットでありたいと思っています」

(文・五月女菜穂 写真・&編集部 林紗記)

能町みね子
1979年生まれ。エッセイスト、イラストレーター。2006年にイラストエッセイ『オカマだけどOLやってます。』(竹書房)でデビュー。著書に『結婚の奴』(平凡社)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』(文春文庫)など。執筆活動に加え、『久保みねヒャダこじらせナイト』(フジテレビ)など、テレビやラジオでも活躍している。ツイッターはこちら

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