「文化に必要なのは観客」ももち選手に聞くeスポーツのこれから

2010年代後期に国内メディアで頻繁に目にするようになった“eスポーツ”という言葉。言葉自体は知っているけれども、今どのように盛り上がりを見せ、どんな課題を抱えているのか。日本のゲーム文化とeスポーツを取り巻く実態はどのようにつながっているのか。果たしてeスポーツとはなんなのか——。本連載はそのような疑問を解決する糸口を探るべく、プロゲーマー、教育者、企業など、eスポーツに関わる方々にお話をうかがっていきます。ナビゲーターにはゲーム好きでeスポーツの普及を目指す十束おとはさん(フィロソフィーのダンス)をお迎えします。

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「文化に必要なのは観客」ももち選手に聞くeスポーツのこれから

十束おとは(とつか・おとは)

女性アイドルグループ「フィロソフィーのダンス」のメンバー。ファミ通第4代ゲーマーズエンジェルや電撃FIGHTINGガールズとしても活動している。趣味はパソコン自作。

はじめに.  eスポーツのこれまでと現状

「e(エレクトロニック)スポーツ」とは、対戦型のコンピューターゲームをスポーツ競技として捉えた呼び名で、格闘ゲームやパズル、野球やサッカーなど様々な種目があります。現在は新型コロナウイルスの影響で数多くの大会が延期・中止、ネット配信による無観客試合の開催を余儀なくされていますが、コロナ禍以前はプロゲーマーが腕前を競う大会が国内外各地で開かれ、磨き上げられた選手の技を大画面で見ようと多くの観衆が集まっていました。アメリカでは賞金総額が何十億といった大会もあり、海外のトップ選手の年収は数億円とも言われています。

日本では、米国や中国、韓国を追いかける形で、ゲーム業界が普及を進めており、2018年2月には、複数あった国内の競技団体をまとめて「日本eスポーツ連合(JeSU)」が発足しました。今では、「ウイニングイレブン」、「ストリートファイター」、「ぷよぷよ」など15ものゲームでプロ選手を認定し、「東京ゲームショウ」など各地でイベントなどを開いています。

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「東京ゲームショウ」のステージで公開された『ストリートファイターV』の対戦=2018年9月、千葉市美浜区の幕張メッセ、林敏行撮影

人気がある大会は、多額の放映権や広告料が動く一大ビジネス。昨年の市場規模は世界で約10億ドルとされ、収益源の約7割はスポンサーシップです。日本でもローソンや、BEAMS、サントリーなどがJeSUのスポンサーとなり、一般企業もプロチームを作り、選手を養成する学校も増えています。その反面、世界保健機関(WHO)は日常生活に支障をきたすほどゲームをすることを、ギャンブル依存症などと同じ精神疾患として認めました。昨年4月には香川県で子どものゲーム利用時間を定めた全国初となる県ネット・ゲーム依存症対策条例が施行され、高松市ではゲームをする時間を決める自由を侵害した憲法違反だと損害賠償を求めた訴訟が続いています。このようにゲーム、eスポーツは従来のゲームが担っていた娯楽的側面をこえ、スポーツ、経済、教育などの面で私たちの日常により身近な存在となっています。

【動画】ももち選手と十束おとはさんの対談動画前半。テキストでは掲載しきれなかったことについても話しています。

企画の初回の対談相手として登場していただくのは、プロゲーマーであり、ゲーミングチームの運営、ゲーム大会・イベントの企画運営などの事業を展開する「忍ism」の代表取締役、ももち選手。いちゲームファンとして、そしてプロゲーマーとしての視点から、eスポーツ業界を取り巻く“スピード感”や、単なるブームから文化として根付くための課題などをうかがいます。

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「文化に必要なのは観客」ももち選手に聞くeスポーツのこれから

ももち

株式会社「忍ism」の代表取締役兼プロの格闘ゲームプレーヤー。「ストリートファイター」シリーズの強豪選手。2014年ウルトラストリートファイターIV公式世界大会カプコンカップ優勝。世界大会EVO2015ウルトラストリートファイターIV部門優勝。

ももち「賞金額のインフレに“違和感”を感じた」

昨年1月に開催された「東京eスポーツフェスタ」(※)のトークセッションでは、WHOのゲーム障害の話や、香川県のネット・ゲーム依存症対策条例についてももち選手(以下、ももち)と十束さん(以下、十束)が議論する場面があった。

※東京都が主催した初のeスポーツイベント。eスポーツの普及と関連産業の振興を目的とする。

——十束さんの「今のeスポーツからはビジネス臭がする」という発言から議論がヒートアップし、面白くなったことを覚えています。

ももち選手:僕はプロですが、いちユーザーとして元々ゲームが好きです。今のeスポーツはコミュニティーと一緒に進んでおらず、大会の賞金額がはね上がったタイミングで“駆け足”感を覚えました。格闘ゲーム『ウルトラストリートファイターⅣ』で僕は2014年の世界大会で優勝して、そのときの賞金は3万ドルでしたが、2013年の優勝賞金は6000ドルでした。そして2015年の世界大会の優勝賞金は12万5000ドル。賞金はどんどん右肩上がりになっていき、海外の他のゲームなどは何十億という賞金額に。それと同時期に、国内でもeスポーツという言葉がメディアで取り上げられるようになってきました。その場合の取り上げられ方が賞金の高さを押し出す形だったんです。

ももち「賞金が取れる選手は一握り 華やかだけど楽しいことだけではない」

eスポーツがメディアに取り上げられる際に、ゲームや大会の内容ではなく、より誇張された一部の“わかりやすい”側面だけを切り取られることがあるという。

ももち:わかりやすい例でいうと、eスポーツの説明として『リーグ・オブ・レジェンド(※)』の世界大会の映像が使われ、「賞金は1億円!」と説明されました。LoLはたしかにそうですが、格ゲープレイヤーである僕が優勝して獲得した賞金は3万ドル。eスポーツをメディアに取り上げてもらえるのはうれしいですし、国内にeスポーツやプロゲーマーを広めたいという思いはありますが、「自分の思っていた取り上げられ方と少し違うな」と温度差を感じました。

※5人1組で仲間と協力して相手の本拠地を崩すゲーム、通称LoL。世界で1億人超がプレーするほど人気がある。

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リーグ・オブ・レジェンドの一場面=2019年10月、白石昌幸撮影

十束:私もニュースを見た時に、「えっ! 2億!?」と賞金額を注視してしまいます。

ももち:その方がキャッチーなので、悪いことではないと思います。僕もさきほど「駆け足だ」とは言いましたが、そのことで認知が広まり、賞金を目指して頑張る若い子が出てきて、全体のレベルが上がり、ゲーム人口が増えるのは良いことだと思います。ただ、賞金が取れる選手は一握り。華やかだけど楽しいことだけではないということは、発信していきたいです。それと同時に、僕はeスポーツを通じて、アスリートの卓越したプレーのすごさを知ってもらうより、ゲームの楽しさが広まることを願っています。プロゲーマーの活動を取り上げることは、ゲームの楽しさを知るきっかけに過ぎないと思います。

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十束:「楽しいが一番」というのは私もゲームの仕事をしていて感じます。私はプロゲーマーではないので、魅(み)せる試合ができるかというと答えはNO。プロの方々のすごい技や、私のようなアイドルがゲームに興じる姿を通して、多くの方に「ゲームって楽しい!」と思ってもらえるような空気をつくりたいです。

十束「ももちさんのライセンス保留が価値観を変えるキッカケになった」

大会の賞金額ばかりが取り上げられ、新しい職業としてのプロゲーマーばかりが目立つ状況から脱し、ファンを巻き込んでゲーム文化全体を盛り上げるためにはどうすればよいのか——。JeSUが発足した当時、ももち選手はプロライセンスの存在意義や、ゲームコミュニテーへの思いからライセンスを受領しておらず、2019年の東京ゲームショウでは『ストリートファイター5』の優勝賞金を受け取っていなかった。その後、自身の立場を反プロライセンス制度ではなく、“保留”であったと説明した経緯がある。

十束:私のなかで“eスポーツ”に対する価値観が変わったのは、ももちさんがキッカケです。ライセンス取得についてご自身の配信で説明し、視聴者の方々とコミュニケーションをとり一緒に進めていく姿を見て、eスポーツの未来に明るさを感じました。急加速しつつも、プロの方々がファンとの懸け橋として足並みをそろえてくれていると感じます。ももちさんはそこに軸があるのかなと思いました。

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ももち:僕はゲーセンで育って、格ゲーのコミュニティーから出てきた身なので、プロゲーマーだけが賞金をとれて幸せな状況よりも、みんなで盛り上げていきたい。最近はゲームをやらずに観戦はするという方もいますが、それも時代の変化。そういう人たちとも一緒に盛り上げていきたいと思います。

――ももちさんは「eスポーツをブームで終わらせないように」ともおっしゃっていましたが、eスポーツがブームから文化になっていくには何が必要でしょうか?

ももち:ゲームに関しては、ゲームで育った世代が親になり、すでに文化として定着してきたと思います。ただ、eスポーツが文化になるというのはまた違う話です。ゲームを“観(み)る”方が増えてくれると、文化として形成されていくと思います。ユーザーがゲームをプレーしてみようと思うかどうかは、作品の良しあしに左右されますが、観るとなると「あの選手を応援しよう!」など、きっかけは広範囲にあると思います。

十束:ですが今は(コロナの影響で)観に行ける大会の数が少ないですし、会場で観戦するのは大会の参加者のみ、という暗黙の了解があります。出場して敗退した人がアケコン(アーケードコントローラー)の周りを囲んで観戦する、そういう写真をよく見ます。

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eスポーツ国際大会の会場では参加者の周りに大勢の人が集まり対戦の様子を見守った=2019年2月、福岡市博多区の福岡国際センター、長沢幹城撮影

ゲームをプレーしない人たちは「行ってみたいけど入りにくいな」と思ってしまうのではないでしょうか。そこを突破しないと文化としては定着しないでしょう。

十束「もっと観る側のマナーを向上させないと」

eスポーツを文化として定着させるためには、プレイヤー人口を増やすだけではなく、サッカーや野球のような従来のスポーツ競技のようにプレーの観戦人口を増加させることが解決のひとつの糸口となりそうだ。だが、現状ではその観戦マナーについて、十束さんが危惧(きぐ)していることがあるという。

十束:eスポーツを本気で文化にしていこうと思うと、観る側のマナーをもっと向上させていかないとダメだと思います。格ゲー界隈(かいわい)はプレーにおいては1対1で戦い、極めるのも大変という理由なのか、マナーがとてもいいように思えます。

――プレーの前後にお互いを挑発するような場面もありますが、あれも信頼関係があってのことですよね。

十束:また観る側も選手の苦労を分かっており、リスペクトもあるため温かいように感じます。ですが、私がやっているゲームの中にはチャット欄に暴言が並ぶなど、プレーしていて嫌な気持ちになることが少なくありません。大会の試合の様子を見ることができる公式の配信でも、暴言を吐いたり、選手を中傷したりする人が多い。そういうものを一つ一つ直していかないと、ゲームに慣れていない人は安心して見ることができません。そういった点では、アーケードゲームは対面でのあおり合いなので、ちゃんとコミュニケーションができているのではないでしょうか。

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ももち:対面だとお互いにリスクを負っていますね。

十束:格闘ゲームは、プレイヤーや観客の信頼関係やノリが見ていて伝わってきますが、まだそれが構築されていないゲームもある。今後、そういう新しいゲームがどんなコミュニティーを築いていくのかが楽しみでもありますが……。

ももち:格ゲーはやる側も観る側も、対戦者同士で挑発したりしても「これはプロレスだ」という合意形成が取れているので成立していました。最近は、格ゲー界隈でも、新規の視聴者の中には“プロレス”を本気のあおり合いだと心配する方がいます。やる側がどんなにプロレスだと言っても、観る側がどう感じるかは様々。あくまでゲーマー界隈では信頼関係に基づいて行われているものと受け取られているだけです。これからゲームに詳しくない人たちにまで届くと「あれはプロレスだ」とならないかもしれない。もっとゲームを広めたいと考えたら、格ゲー界も「今のスタンスもちょっと考えないといけない」という時代が来るかもしれない。ゲームにも歴史や文化があるからこそ、難しいところですよね。

まだ観戦マナーが成熟しているとは言えないゲームコミュニティー。eスポーツとしてゲームが消費され、ゲームは少人数の仲間内で楽しむ娯楽からマス的な娯楽へと変貌していった。信頼関係に基づく暗黙のルールは徐々に薄れ、プレイヤー/観戦者、そして初心者/上級者の誰にでも開かれたルール作りが求められている段階なのかもしれない。

第2回は、教育現場におけるeスポーツの取り組みについて、公立高校で初となるeスポーツチームを設立した福岡市立福翔高校の元・校長、谷本昇さん(現・福岡雙葉学園校長)に話をうかがう。

【動画】ももち選手と十束おとはさんの対談動画後半。テキストでは掲載しきれなかったことについても話しています。

(取材・構成:小川翔太 写真・動画:林紗記 動画:佐瀬醇)

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