&w

花のない花屋
連載をフォローする

「思ったことをやればいい」 亡き夫の言葉が、今も家族の道しるべ

読者のみなさまから寄せられたエピソードの中から、毎週ひとつの「物語」を、フラワーアーティストの東信さんが花束で表現する連載です。
新型コロナウイルスで大きな影響を受けた花の生産者を支援している全国農業協同組合連合会(全農)に、その活動の一環として連載にご協力いただいています。
あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉
池田聡子さん 51歳 女性
歯科医師
山形県在住

    ◇

夫とは、30年近く前、私が大学院生の時にバイクが縁で出会いました。代々歯科医を営む家に生まれ、まわりは知り合いばかり。そんな少し窮屈な環境で育った私にとって、夫の言動は新鮮でした。

例えば家事も気がつけばひょいとやってくれる。「思ったことをやればいい」。いつもそう言って、私の仕事の後押しもしてくれました。今でこそ普通のことですが、女性と男性の古い役割分担がまだ残っていた当時の私の実家では、考えられないことでした。

私が大学院を修了する頃に結婚。やがて長男と次男が生まれました。しかし、まもなく夫が5年生存率10%程度というがんを発病してしまいました。「俺は生きられる可能性のほうにかけるよ」。夫はそう信じて、2年間の闘病生活を送りました。最後まで、「自分が死んだら……」など遺言めいたことは一度も口にすることはありませんでした。

夫が35歳で亡くなってから、今年で13年が経ち、当時5歳と3歳だった息子たちも大きくなりました。夫と過ごした日々より亡くなってからの年月の方が長くなり、今となっては幻だったのではと思うこともありますが、息子たちが夫の生きていた何よりの証。そしてなんだかずっと、一緒に子育てをしてきたような気がするのです。

たとえば年頃になった息子たちは、母親から見ると何を考えているのかわからない部分が、成長するにつれ増えてきました。夫が元気な頃はよく行っていた釣りやキャンプは、親子の絶好のコミュニケーションの場になるとわかっていても、私の体力が続かず、なかなか連れていってあげることができません。

そう落ち込んでいるときは、希望を捨てずに闘病していた夫が、心の中で「嘆くだけでは始まらないよ」とささやいてくれた気がしました。以降、開き直って、自分ができないことは親しいママ友やパパ友にお願いできるたくましさを持つように。今はそうした家族のキャンプに子どもたちを参加させてもらうなど、ありがたいことに子育てを支えてもらうようになりました。

もうひとつ、次男はちょっと変わったキャラクターの持ち主で、ときどき自分の世界にこもることがありました。その次男が高校に入学してまもなく、発達障害の可能性があることが分かりました。「個性のひとつと思って、伸ばす努力を」。医師からはそう前向きにアドバイスされたものの、私の実家からは「しつけが悪いのでは」と誤解され、どうしたらいいのか悩みました。

このときも私を励ましてくれたのは夫でした。考えてみると、次男は夫の性格にそっくり。自分の世界を持っていて、頑固なところもよく似ています。きっと元気だった頃の夫のように、幸せな人生を歩んでいけると信じています。

そうして、私と、夫とともに育った子どもたちは無事成長し、この春、長男が大学進学のために家を出ることになりました。「大学で物理学を勉強したい」と言い出した高校2年生の次男も、まもなく独立することでしょう。うれしいような、さみしいような、息子たちの旅立ち。そして私自身も東洋医学を歯科医療に取り入れる新しい挑戦の真っ最中です。「思ったことをやればいい」。夫の言葉が、私たち家族の道しるべになってくれています。

「パパがいたから、ここまで来られたよ」

今も私たち家族に勇気をくれる感謝をこめて、天国の夫へ、花束と共に報告したいです。

花のない花屋
≪花材≫ヒヤシンス、チランジア、多肉植物(エケベリア)、パフィオペディラム、クリプタンス、サボテン、ユリ、ナデシコ、ゼンマイ、グリーンネックレス、ゴアナクロー、ミリオグラタス

花束を作った東さんのコメント

亡くなった旦那さんとはバイクが縁で出会われたり、釣りなどが好きなアウトドア派ということなので、緑いっぱいの自然をイメージして束ねました。一つ一つが大きめの植物を入れることで、自然の力強さや生命力を感じてもらえるかと思います。白いフワフワの植物はサボテンです。ゼンマイなども入れて、森の中にいるようです。
家族それぞれ変化の時を迎え、不安やさみしさもあるかと思います。そんな中でも、新しい挑戦を続ける投稿者さま。そして巣立っていく息子さんたちの未来をイメージして、上にしゅるっとつるが伸びた先に黄色い花が咲いている、多肉植物のエケベリアを入れました。またヒヤシンスの球根も、投稿者さんと息子さん分、三つ植えました。こちらもぐんぐん伸びていって花を咲かせるでしょう。
花束の周りを囲んでいるグリーンのふさふさした植物はミリオグラタスです。3人を守っている旦那さんを表しました。ユリのつぼみも入っているので、長く変化を楽しんでもらえると思います。3人の未来に花が咲きますように。

花のない花屋
花のない花屋
花のない花屋
花のない花屋

(文・福光恵 写真・椎木俊介)

読者のみなさまから「物語」を募集しています。

こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

応募フォームはこちら

REACTION

LIKE
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら